会長+虎=仲間3



 日暮れ頃にようやく帰ってきた俺達を門前で待ち構えてたのは、大きな緑のドラゴンだった。勿論誰か言う必要はないだろう。
 その場で正座させられ説教されること一時間。いや、業務に目処が立ったらしいジークが迎えに来てくれなければ二時間以上は続いていただろう。助かった。

「…ユーリはロジに好意を寄せているのか?」
「は?」

 舌が慣れつつあるこちらの世界の食事と二人+二匹の空間。
 基本モゴモゴと口を動かすだけであまり話し掛けないジークが意を決したように発した言葉がそれだった。

「好意…?あー、…あぁ。話しやすいしな」

 元の世界で面識があると言えば説明が面倒臭いので適当に頷いて誤魔化した。
 しかし目の前の魔王様はどうやら納得がいかないらしい。眉間を寄せると口をへの字にしてスプーンを置くと、俯いたまま沈黙してしまう。

「?どうしたんだ?それいらねーなら貰っていいか?」
「私とロジ、どちらが好きなのだ?」

 …面倒臭い彼女の常套句の一つじゃねぇか、それ。
 口を開いたかと思えば馬鹿げた質問に、俺はジークの皿から最近気に入っている野菜を一つ取ると迷わず口に放り込んだ。

「はいはい、お前の方が好きだよ」
「投げやりは嫌だ」
「…我が儘だな」

 呆れたように半眼で見遣れば、真剣な顔が俺を睨みつけている。

「儀式が終わってからユーリはちっとも私に甘えてくれぬ」
「…何だ、甘えて欲しいのかよ」
「そうだ!」
「別にヨメになったら甘えろなんて言われてねーぞ?」
「だが普通はもっと愛を確かめ合うものだろう!?」
「今セックス禁止期間って分かってんのか?毎晩唸ってるお前見てたら甘えるだけでも十分不安なんだけど」
「わ、私の理性はそこまで脆くない!!」
「はっ、どうだか。とにかく今はこれぐらいの距離が丁度いい。…面倒臭くないし」
「おいユーリ、今小声で面倒臭くないと言ったな!?つまり私の相手をするのは面倒臭いのか!?」
「くそ、このやり取りが既に面倒臭ぇ…」

 何だか夫婦喧嘩に見えなくもない応酬に溜め息を吐きつつ、俺は目の前にいる泣き虫魔王の涙腺が刺激される前に完食する。
 そして案の定目に涙を浮かべるジークに舌打ちすると、席を立ち彼の元に近寄った。

「ま、また泣くなと怒るのか…?」
「最近は怒るのも面倒臭くなってきた。おい、椅子引け。膝閉じろ」

 肩を叩いて指示すると、疑問を顔に浮かべながら渋々行動に起こす。
 俺は閉じられた膝の上に遠慮なく座ると、テーブルに残されているジークの食器とフォークを手に取った。

「甘えるのは苦手だから甘やかしてやるよ。ほら、口開け」

 言いながら既にポカンと口を開いているジークの舌に野菜を乗せる。
 暫く固まっていたが、顎を掴んでやるとようやく無言で咀嚼を始めた。

「この会長様が直々に食べさせてやってんだ。よく味わって噛めよ?」
「…ユーリ、カイチョーとは何だ?」
「黙って食べやがれ」

 つい癖で出てしまった単語に舌打ちしつつ、無理矢理口の中に次の食事を運ぶ。
 いつの間にか腰に回された手は開いた布の隙間に潜り込むも、あえてスルーした。どうせ手、出せねーんだし。
 俺は久しぶりの自分のペースに昂揚しつつ、渋い顔をしながらも頬を染めるジークを見て満足気に笑みを浮かべた。

「これは甘やかすと言うのか?」
「うるせえ。ここ膨らませといて文句言うんじゃねぇよ」

 しかめっ面でブツブツと呟くジークの股間に体重を乗せれば、唸る声が聞こえる。
 分かりやすい奴だ。

「ほら、これで終わりだ」

 最後はサービスだと口移しで食わせてやれば、舌を取られそうになったので先手を打って離し代わりに名残惜しそうな唇を一舐めする。

「で、甘やかしてやったけどやっぱり甘えて欲しいか?」

 俺は食器をテーブルに戻しながら、開いた手をジークの首に回しつつ真っ赤な顔に尋ねる。
 よく親衛隊が使う、唇を尖らせながら小首を傾げるという手段を真似してみれば効果はあったようだ。ジークは首を逸らしながら何かを堪えるように目を固く閉じた。

「…っ!……わ、わた、私が悪かった…!!暫くはいつも通りで良い!!」
「あ、そ」

 だったらつまんねぇこと言うんじゃねぇよ。
 そう続けながら布の中に潜り込んでいる手を引っ張り出すと、用は済んだとばかりに立ち上がる。
 そしてあいつらも食べ終わっただろうかとテーブルの横で食事をしていたピグモとアラモを見遣ると、二匹共器用に前足で顔を塞いでいた。
 空気を読め過ぎているのも困りものだ。
 俺は二匹を腕の中にいれつつソファーに移動して、同じく日課となりつつある食後のモフモフタイムを楽しむ。
 ロジも捨て難いが、やはり俺はこの二匹の毛が一番お気に入りだ。

「…ユーリ。頼むから他の者にはあのような行為するでないぞ?」

 聞こえてきた声に目線を向ければ、ジークが組んだ両手に額を乗せてってうなだれている。
 どうやら相当堪えたらしい。弱々しい声音に苦笑しつつ、俺は腹の上で食後の休憩を取る二匹の背中を撫でた。

「お前だからやってんだよ、ばーか」

 俺としてはこれでもジークのことはかなり気に入っているつもりだったりする。
 そして結局その日はソファーで寝てしまったらしく、起きたら毛布がかけられていた。あいつのことだから勝手に寝室にでも運んでそうなものなのに。

 ところで寝室に入ったら男独特の臭いが鼻についたんだが…いや、可哀相だからソッとしといてやろう。



end.



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(C)siwasu 2012.03.21


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