会長+虎=仲間2



 暫くして風を切る音は消え、代わりに聞こえてきたロジの声に俺は顔を上げた。
 どうやら城から遠く離れた丘のようだ。周りを見渡してもあんなにデカい城が全く見当たらない。

「…凄いな」
「でしょでしょ?もっと褒めていいよ〜?」

 嬉しそうに顔を擦り寄せてくるロジの喉を掻いてやると、ゴロゴロと猫のように鳴く。
 その姿に元いた世界の人物を思い出して、俺はついでに耳の後ろも掻いてやった。喜んだ。こういう所も似ているな。

「そう言えばさ、会長は魔王様のヨメになっちゃったけど良かったの?」
「あー…まぁ別にしたいことなんてなかったし。俺次男だし。楽させてくれるって言うし」

 大きい体のおかげか掻き甲斐もあって喉と耳の後ろをダブル掻き掻きしていると、ロジが思い出したように言うので俺は適度に頷いた。
 くそ、なんだこの絶妙な毛の柔らかさは。手が止まらん。

「じゃあ元の世界には?帰りたくないの?」
「ここと同じぐらいの待遇を貰えるなら考えてやらんこともない」
「会長ってば相変わらずの面倒臭がりな俺様だねー」

 そう笑いながら気持ち良さそうなロジは目を閉じると、本格的に俺の手に集中するのか口を閉ざした。
 俺も黙って次は毛繕いを始める。ノミもいないな…。いや、半獣なら毎日風呂入ってそうだし綺麗に決まっているか。

「…」
「……」
「…」
「………」
「…」
「…ってツッコミ入れてよ!お願いだから!!」
「ヤだよ面倒臭ぇ」

 どうやら違ったようだ。
 ツッコミ待ちをしていたらしいロジは泣きそうな声で言ってくるので、俺はそれをバッサリと切る。
 今俺はお前との会話より毛を相手してる方が楽しいんだ。

「そうだよね、会長ってばそういう人だったもんね、じゃなきゃこんな順応した挙句魔王様に嫁入りする筈ないか…」
「深く考えるのって面倒臭いしな」

 相槌を打ちながら掌で脇腹を撫でる。ロジはそれがくすぐったいのか身をよじらせながら横に寝転がった。
 嫌がっているのかと思いきやどうやらもっとしてという合図のようだ。任せとけ。

「…お前、会計か?」
「せ、正解〜…あん、もっと左」

 両足をプルプルさせながら震えているロジの言葉に従って俺は指示通りの位置を撫でていく。
 そういえば会計もソファーで寝転がってる時に腹を撫でたらこんな感じだったな。
 生徒会室での思い出を回想していると、嫌なことまで思い出してきて俺は撫でるのを中止し、隣に座り込んだ。不満げな表情を見せてくるが代わりにジトリと睨みつけてやる。

「お前何で仕事しに来なかった」
「あ、え、えーっとぉ…」

 俺の言及に突然気まずそうな顔をするロジは言い訳を考えているのか目をチラチラと泳がせる。
 まぁ別に今更だし実際の所どうでもいい。
 罰として枕になれと言えば、俺が体を預けやすいように腹を傾けてくれた。有り難く横になれば尻尾が優しく腰を包む。うむ、申し分ない。

「ちなみにどうやってこっちに来たの?」
「サイドキャビネットの2段目から」
「あれ〜?おっかしいなぁ。鍵かけてた筈なのに…」
「人の机の引き出しを勝手にワープ場所にすんな。ドラえもんか、お前は」

 尻尾を軽く窘めるように叩けば小さく揺れて頬を撫でられた。これで謝罪のつもりか。許すけど。

「お前やっぱりこっちの人間?なのか?」
「そだよ〜。母親があっちの世界の人間でさぁ、よく行き来してたから都合つくようにって向こうの戸籍も作ってもらってたの」
「え、なら俺も…」
「母親はヨメじゃなく妾だったから大丈夫だっただけだよ〜?」
「つまりヨメは無理って訳か」
「そゆこと〜。何があったのか知らないけどさ、何でヨメになっちゃったのよ?」

 そう言われて俺は面倒臭いがジークと出会った時のことを話した。
 こいつは向こうの世界にいた時から俺を知っている為、この先使えそうだと思ったからだ。

「はぁ、何で墓穴掘っちゃうかなぁ…」
「まさか元の世界に戻れるなんてあん時は考えてなかったんだよ。っつっても別にあのモジャモジャがいる学園になんて戻りたくないがな」
「あ、やっぱり?」

 そう言うってことはお前、俺が一人で職務をこなしていることを知ってたな。
 恨みを籠めて次は強く尻尾を握った。悲鳴が上がった。

「まぁ、でも安心してよ。これからは向こうの世界のこともこっちの世界のことも俺がサポートしていくからさ」
「当たり前だ」

 鼻を鳴らして俺はロジの体に深く体重を乗せると、本格的に睡眠に入る為目をゆっくりと閉じた。
 実はさっきからモフモフの気持ち良さに何度か意識が落ちかけている。もう限界だ。

「夕方になったら起こせ」
「え、今から?夕方まで?」

 昼飯はどうすんの〜!?と慌てたロジの声が聞こえるが、その頃には俺の意識は既にモフモフに包まれながら沈んでいた。
 結局夕方になってロジが痺れたと泣き出すまで、俺は一度たりとも目を覚ますことはなかった。



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(C)siwasu 2012.03.21


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