会長+虎=仲間1



 死のうと思ってたら異世界へ飛ばされて魔王の伴侶になった奴はいるか?今の所俺の周りには俺しかいない。
 実は先日婚姻の儀式とやらを済ませてしまい(言葉だけ見ると仰仰しいものをイメージするかと思うだろうが、普通に椅子の上で済まされた。しかも超痛かった)俺はとうとう魔王と一生を共にすることが決まった。知ってるか?ヨメになったら神王様とかいうお偉い人が天から二人を見張ってて、浮気をしたら殺されるらしいぞ?どうやら神王って奴はよっぱど暇らしい。
 一応魔王とはいえ地位のある相手に貰われた訳だし将来も安泰、家事は使用人がやってくれるからゴロゴロし放題、可愛いモグラっぽいのを2匹も飼えて毎日2匹と遊んで暮らせる毎日。そう、何も文句は無い。
 …と思っていた。

「何度言ったら分かるのですか!背筋は伸ばして!字は真っ直ぐに!!」
「めーんどくせぇー…」

 真横に付いてあれやこれやと指示を出すユイスに、俺は短い現実逃避を始めるべく机に顔を突っ伏す。
 ようやく他国へもお触れを出し終わった昨日。晴れて魔王に嫁いだ俺は、悠々自適な明日からを心待ちにしていたのだが、初日にして早速横にいるガミガミドラゴンに捕まってしまったのだ。
 朝っぱらから部屋に乗り込んで俺達を叩き起こしに来たのはまぁ、側近だろうし有りなのかと思っておくがそれが何時か知ってるか?4時だぞ、4時。まだ太陽の光も小鳥の囀りも準備出来ていない時間だぞ。俺の爺ちゃんすら起床は5時だったぞ。

「何を勝手に休憩しようとしているんですか!早く起きてあと3枚は終わらせて下さい」
「勘弁してくれ…お前の上司のせいで寝不足なんだよ…」

 夫婦となったことだし、俺で欲情はしているらしいジークのことだからてっきり初夜だのなんだのとあるのかと思っていたのだが、どうやらヨメの場合儀式が終わってから一週間体を繋げてはいけないらしい。つまり禁欲。
 その為、俺は隣で我慢しているであろうジークの獣のような唸り声に睡眠不足となっていた。違う部屋で寝るって言ったら泣きそうな顔するから部屋を移ることも出来ねぇ。
 あの低い癖に不愉快な唸り声を聞き続けていると、一層こっちが襲ってやろうかとも考えたが結局我慢している俺を褒めてやりたい。

「だからこれが終われば昼の仮眠を与えると言ってるじゃないですか」
「今寝たい」
「駄目です。見てみなさい、この汚い字!どうすればこんなに崩せるのか…」

 そう言いながら書き終わった分の紙を見せるユイス。
 俺は昔からミミズ文字やら象形文字と言われるぐらいに字が下手だ。幼い頃に教室に通わされたがそれでもまだ酷かったりする。
 だから会長職に就いた時はどれだけパソコンに助けられたか。

「だって仕事は全部パソコン使ってたんだから仕方ねーだろ」
「パソコン?何ですかそれは」

 そこで俺はピタリと止まった。
 しまった。この世界にはパソコンとかないに決まってる。説明するのが面倒臭えと思いながら俺は頭を掻いた。

「あー…っと」
「人間の道具の一つじゃない?」
「ひぎゃっ!!」

 代わりに誤魔化してくれた聞き覚えのある声とユイスの悲鳴に横を見ると、ロジが嫌がるユイスを抱きしめながら口元を耳に当てていた。

「本当ユイスちゃんってばいい匂い〜」
「な、ななななな、何しに来たんですか!」
「ユイスちゃんに会いに?」

 そう笑うロジに怒ったユイスは見る見る内にドラゴンの顔になりロジに物凄い剣幕で喚き立てていた。
 よし、今の内にと俺は席を立って扉に向かう。

「まぁ、本当のこと言うと人間サンに用事があったんだよねー」
「俺?」

 だが扉を開いた瞬間、ロジに声をかけられ俺は条件反射で振り返った。
 ユイスから冷たい視線を送られるが、ロジの言葉によっては今の状況を逃げ出すことが出来るかもしれないと俺は少しの期待を含ませてロジを見る。

「サーヴァ様があまり知識のないユーリの補助をしてやれってさ〜」
「そうは見えませんが…」

 半眼になっているユイスを宥めながら、ロジは俺に近付くとウインクして半獣の体から大きな虎へと姿を変える。2メートル以上あるそれは目の前まで来ると迫力も大きい。

「とにかく字の勉強は後回し!ほら、人間サン。折角いい天気だしどうせなら外でお昼寝しようよ?背中掴まって」

 お昼寝の言葉に反応した俺は迷うことなく背中に乗った。虎の背中に乗るとか滅多にない機会に少しドキドキする。
 そしてモフモフが気持ち良い。

「ちょっと待ちなさい!せめてこれぐらいは終わらせ…っ」

 後ろから聞こえてきたユイスの声は、途中から風の音に掻き消されて聞こえなくなった。
 城の中をバイクのように走るロジは(その癖ちゃんと歩いている使用人は避けるのだから驚きだ)そのまま庭を抜けると森の方に走って行く。
 そして顔を上げると風圧で顔が潰れそうだった俺は、遠慮なくモフモフにしがみついて毛触りを堪能した。



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(C)siwasu 2012.03.21


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