二人の結婚儀式5



「…お疲れだな、終わったぞ」

 何時間にも感じた痛みは、その言葉と共にようやく引いてくれた。どうやら俺は気付かない内に息も止めていたらしい。大きく呼吸をしながらぐったりとジークの胸に身体を預ける。

「素晴らしいな。人間がこの儀式に耐えられたのはお前で3人目だ」
「…先に、教えて、くれ」
「教えればユーリはヨメにならないと言い出してただろう?」

 汗でへばりついた俺の前髪を上げながら顔を覗き込むジーク。まんまと騙されたぞ畜生、後で殴らせろ。

「まぁ私は離してくださることを望んでいましたが」
「っユイス!」

 落ちてきた声に見上げれば、椅子の後ろからユイスが唇を尖らせて俺を見下ろしていた。なんだ、また小言でも聞かされるのか?

「…でもまぁ、神王の試練に耐えられたことは認めて差し上げます」

 その後ジークに「失礼しました」と頭を下げるユイスを俺は呆れたように見つめた。
 …成る程、こいつはツンデレか。

「では帰るか、ロジ」
「えー俺はまだユイスちゃんを見つめていたいけどなぁ…」
「サーヴァ様、その万年発情虎を早く連れて帰ってください」
「ねー、ユイスちゃん。いつになったら俺のヨメになってくれんの?」
「早く連れて帰ってください!」

 どうやらユイスはこの虎男に求愛されているらしい。その後言い争いを始めた二人を観察していると、サーヴァが俺の頭に手を置いた。

「言っておくが最初の言葉は全て魔王としての本心でもある。今後お前の存在は他の国にも広まるだろう。…苦労するぞ?」
「…おい、ジーク」
「しっ心配ない!ユーリは私が守る!」

 全部最初に説明しろってんだ。とうとう撤回出来なくなった俺は、溜め息をつきながら感覚の戻ってきた薬指を見た。黒い模様が輪のように浮き出ているが指輪の代わりか?

「ほら、ユーリ!私の方にも同じものがあるぞっ」

 嬉しそうに重ねてくるジークの指にも確かに同じものがある。色々と文句を言ってやりたかったが、はしゃぎ出すジークに疲れて俺は気力をなくした。言いたいことが有り過ぎて面倒臭くなったってことだ。
 痛みを我慢していたせいか疲れて眠いし。

「ジーク、これからは何かあった時ロジを送ってやる。あれの方が扱い易いだろう」
「うむ、助かる」
「マジでー!?」
「ちょっと待ってください!」

 喜ぶロジと慌てるユイス。対極的な反応を見せる二人が面白くて俺は笑いを堪え切れず笑みが漏れた。

「お、ユーリは笑うと随分可愛くなるな」
「…ユーリはやらんぞ」
「いるか。おい、ロジ。今日はもう帰るだろう?」
「帰る帰る〜!あ、ユイスちゃん、また来るね!」
「来ないでください!」

 結局なんだかんだと騒がしかったやり取りも扉が閉まったことで落ち着きを取り戻し、ユイスの溜め息が辺りを響かせる。ブツブツと唸っているが…俺もこれからお前に小言を言われるんだ、我慢しろ。

「ユーリ」

 優しい声音に反応して上を見れば、ジークの金の目が俺の顔を映していた。

「一生離さぬぞ、私のヨメ」
「それは分かったから寝ていいか?」

 その適当な返事にユイスが反応して口煩い小言が始まった。
 ガミガミガミガミよくそんな口が回るな、と思いながらジークのローブの中に隠れる。これからこいつの小言を我慢しなければいけないのか…面倒臭い。

「ユーリ、顔が見えん」
「ぬ」

 ローブをめくられ布で少し遮られていた小言がまた大きくなった。どうやら今は歴代魔王のヨメの話をしているようだ。…終わりそうにないな。
 咎めるように見上げると、やはり嬉しそうに微笑むジーク。今度こいつには俺のどこを気に入ったのか聞いてみよう。

「ユーリ」
「ん?」
「キスしてもよいか?」
「…どうぞ」

 わざわざ聞く辺りが律儀というか慣れてないというか。
 震えながら顔を真っ赤にしてゆっくり近付く顔がやっぱり可愛いと思ってしまった俺は結局の所好きなのだろう。
 焦れったいこいつの顎を掴んで親衛隊長から「これ以上廃人を出さないでください!」と怒られて以来封印していたキステクを披露してやれば、盛ってしまったジークに激しく求められてしまった。
 気付いたユイスに慌てて止められていたが。

 …ところでサーヴァとジークって「会談」してたか?



end.



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(C)siwasu 2012.03.21


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