二人の結婚儀式4



 それからジークは「ユーリがヨメにならぬなら仕事しない」だの「泣いてやる」だの最早子供かとツッコミたくなるような我が儘を繰り返し、最終的に無理矢理ユイスを折れさせた。
 なんだかんだでこいつもジークに甘いよな。

「…分かりました。ただし、この者の教育は僕に一任させてください」
「教育?」
「見た所作法は学んでいるようですが行儀があまりよろしくないようですから」
「えーいいよ、面倒臭「分かった」…おい、ジーク」

 半眼で睨みつけるが「これだけ我慢してくれ、不自由はさせない」と困ったように言われ仕方なく頷いた。
 絆されて来ているのは気のせいだと思いたい。
 そして一応ヨメになることを許されたらしい俺は、嬉しそうなジークに抱き上げられ膝の上に移動させられた。
 抱き込むようにぎゅうぎゅうと押し潰されてさっき食った朝食がリバースしそうだ。

「早速だがサーヴァ、お前には仲介を頼みたい」
「構わんが…ここでするか?」
「…ユーリ、どうする?」
「どこでもいい…吐きそう…」

 そう言うと慌てて身体を離してくれたが、元いた椅子に戻す気はないようだ。膝の上で子供のように座ってるこの体勢は若干恥ずかしいんだが。

「じゃあユーリ、ちょっと失礼するぞ」

 立ち上がり近寄ってきたサーヴァは、俺の左手を掲げると薬指を小さな刃物で切った。同じようにジークの指も切る。

「ほら、絡ませるんだ」
「?」
「指きりげんまんの時と一緒だよー」
「こうか?」

 ロジに言われる通り薬指を相手のものに絡ませる。…地味に難しいなこれ。
 それが終わるとサーヴァが良く分からない言葉をブツブツと呟き始めた。

「サーヴァの言葉が終われば儀式終了だ」
「ヨメ確定ってこと?」
「うむ」

 途中で離したらどうなるんだろう。試しに引っ張ったらジークに泣きそうな顔をされたので止めといた。いや、しかし人生を決めるものがこんなアッサリしてていいのか。

「絶対後悔すんぞ」
「…ユーリが、か?」
「いや、お前が」

 俺は別に一度死のうとした身だし面倒臭いことさえ無ければどうでもいい。だが魔王のこいつは俺が死ぬまで俺以外とセックスはおろか恋愛も出来ないんだろ?
 なんだか逆に可哀想に思えてきて見上げれば、頭上のジークは満面の笑みで俺を見つめていた。

「生まれて初めての一目惚れだ。私は自分の気持ちを信じる」
「は、それあの出会いのどこで…って痛っ」

 突然電流のように痺れる痛みが薬指を襲った。俺は思わず離そうとしたが、ジークにガッシリと掴まれる。痛みは引くどころかどんどんと増していく。

「い…ってーよっ!!」
「ユーリ、今神王が私達を試しているのだ。少し我慢してくれ」

 お前、これ知ってたのか!
 涙目になりつつ睨みつけると、困ったように笑いながら「あと少しだ」と声をかけられる。
 前言撤回。全然アッサリしてねーよ、電気ビリビリだよ。うっすら開く目で絡まった手を見れば赤い血が…駄目だ、見るな、俺。

「頼む、離さないでくれ」

 薬指から力が抜けていくのを感じるが、それを必死にジークの指が掴んでいる。俺は痛すぎて生理的に流れてくる涙を拭う為ジークの肩に顔を押し付けた。
 そして同じくして頬に落ちてきた水にあぁ、そりゃ泣くよなと流石に怒る気になれず目線を上に上げると、残念なことにそれは汗だった。そして顔をしかめてはいるものの、涙は一つも零れていなかった。
 おい、泣き虫のレッテルが貼られているならそこは泣けよ、俺が泣いてんだから。
 うわ言のように離さないでくれ、と呟くジークに俺は段々悔しくなってきて感覚のなくなった薬指をジークのものから離さないようにと強く意識する。
 こいつにだけは負けてたまるか。



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(C)siwasu 2012.03.21


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