魔王様と新婚旅行36



◆◇◆



 聞こえてくるのは馬車の揺れる音と、時折聞こえてくる馬の息遣い。客車の中は会話もなくただ無言が続いている。中にいるのはアネリ、ジーク、俺。と、ヴォルフラム。
 人間のいる場所まではシャーロッテと交代したらしい。シャーロッテと違い、席に座ることなく無言で床に寝そべる姿は話さないことも相まって大きな犬と大差ない。
 アネリは今まで場を和ませるために会話を振ってくれていたのに、俺とジークの様子を見て空気を読んでいるのか人形のように動かないでいる。瞬きすらしてないようだ。元々必要ないのかもしれないけど。
 そしてナルシア様の元を離れてから金髪優男姿に戻ったジークは、身を縮こませて俺の様子をチラチラと窺っている。うざい。果てしなくうざい。
 俺は横目でジークを見て、まだ腹の虫がおさまらないことを確認すると視線を窓の外に移した。おっぱいさんたちと一週間近くハッスルした馬たちは、体力が尽きて動けなくなっているのではないだろうかと思ったが、むしろ精気を養って生き生きしているようだ。以前より景色が変わるのが早い。
 結局初日を最後にナルシア様には会えなかったな。あと一回ぐらいモフりたかったのだが、如何せんあちらの状況も分かっているので顔を会わせるのは気まずい。というか下世話な想像をしてしまいそうなのが嫌だ。最悪のパターンの場合しばらく立ち直れなさそうな気がするし。
 そんなことをぼんやり考えていると、腹の音が鳴って空腹を訴えてきた。そういえばナルシア様のところでは一切食事が出てこなかったが空腹も感じなかったな。その辺りはなんかこう、色々あるのだろう。面倒臭いので聞かないが。

「ユ、ユーリ。腹が減ったのなら食事を」
「アネリ、食べるもんあるか?」
「はい。すぐお出しできるものは携帯食になりますが、一度休憩をとってご用意することも可能です」
「いや、いいよ携帯食で。それちょうだい」
「かしこまりました」

 話しかけてきたジークの言葉を無視して俺はアネリから燻製肉と元の世界でのショートブレッドのようなクッキーに近いパン、あとドライフルーツを受け取る。
 ピリピリした空気のせいかアネリの口調もかたい。気を使われていることに少し申し訳なさを感じながら、俺はパンをかじってまた視線を窓の外に移した。

 ジークの土産は、つまるところ男性器だった。ちんこ。箱の中からちんこ。それを見た俺の顔はとてつもなく引きつっていたことだろう。
 言い分を聞けば、インポも源泉で治るのではないだろうかと試みたそうだが、先端が入るだけで酷い激痛が走り断念してしまったらしい。それを見たサーヴァの提案で、元の世界でいうところのシリコンのような樹液が出る、特別な樹がある森まで行って現地の職人に頼み込んで自分のフル勃起サイズのディルドを作ったそうだ。これならインポ中でも俺が寂しい思いをせずに済むと言うジークに、俺は怒りを超えて頭痛を覚えたこめかみを押さえながらそのチンコをジークに向かってぶん投げた。
 まず治癒の源泉なるものがどういったものかは分からないが、そこに自分の息子を入れようとする間抜けな魔王も想像したくないし、俺を五日もほっぽってわざわざ作ってきたものがチンコだというふざけた土産も、サーヴァもついでに作ってたなんて話も受け入れたくない。やめてくれ。関係性は十分理解しているが俺の中でモフモフの神は純潔であってほしい。
 男はバカだと女からよく聞くが、本当にバカだった。いや、俺も男だがこいつらは度を越えたバカだった。
 その後激怒する俺と何故激怒しているか分からないジークの間でほぼ一方的な喧嘩が始まって現在に至る。
 土産自体は俺のことを考えて作ってきてくれたのだろう、その気持ちは認める。ただ、それは期間も分からない軟禁状態の俺を放置してまで寄り道して作るものかってことだ。これが二日以内に帰って来ていたなら試してもいいか、という気持ちになっただろうが、五日だぞ。
 アネリもいないから話し相手もいない。外からは馬の鳴き声という騒音。娯楽は尽き、死んだ魚の目になりながら三日目以降を過ごした俺の気持ちにもなってみて欲しい。それでアダルトグッズの土産を渡されて喜んでいる奴がいたら相当頭がいかれているか無類のチンコ好きだ。
 残念だが俺は頭もいかれてないし無類のチンコ好きでもない。
 思い出したらまた腹が立ってきたので怒りをぶつけるように燻製肉を噛みちぎった。下から視線を感じたので見れば、犬――じゃなかった、ヴォルフラムが目を開けていたのでおそるおそる肉を差し出したら正解だったらしい、無言で食っていた。ここで頭を撫でようものなら噛まれるんだろうな……。ずっと神経を使い過ぎて疲れたと休憩してしまったシャーロッテが恋しい。
 俺はドライフルーツをちびちび齧りながら、半分意地で目的地に辿りつくまでの間ずっと窓の外から視線を離さなかった。



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(C)siwasu 2012.03.21


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