魔王様と新婚旅行35



「大人しくしていたかユー……どうしたのだ」
「暇すぎて死んでた」

 この部屋での軟禁生活が始まって五日目の夜。俺はあまりの暇っぷりに廃人と化していた。
 携帯ゲーム機の充電は切れるしロジを呼んでも返事はない。本や漫画も読み終わり、三日目の午後から完全に娯楽が絶たれた状態ですることもなくずっとベッドでごろごろしてたら頭痛くなってきたし、話し相手も必要最低限しか話さないカヌだけ。
 元の世界ではなんだかんだで慌ただしい生活を送り続けていたし、魔王城でもやることはあった上定期的にロジが娯楽をくれていたので知らなかったが、暇とはつまり地獄である。
 おまけに馬の鳴き声は四六時中続いていてお盛んだし。これは妊娠して三日で生まれるからだと聞かされたが、いくらなんでも早すぎだし子作りに必死すぎだろ。女しか生まれないからこういった機会を逃したくないのだろうが、相手がインポ中で禁欲生活を強いられている俺の気持ちも考えてくれ。

「サーヴァとどこに行ってたんだよお前。寝てる間に置いてけぼりな上留守番とか、魔王城出てからちょっと冷たくねえか」
「私はユーリを連れて行こうとしたぞ。ナルシア様と一緒にするなど愚の骨頂だと。帰ってくるまで気が気ではなかったわ」
「ああ、じゃあ俺をこんな暇地獄にさせたのはサーヴァの奴か。で、どこ行ってたんだ?」

 詫びのつもりなのか、俺を抱き寄せて瞼に口付けを落とすジークに身を捩りながら顔を見上げれば、あざがすっかり消えている。

「あ、治ってる」
「目にあざをつけた魔王など恥ずかしくて見ておれん、その顔でワルシャ族の前に姿を現す気かと言われて治癒の源泉へとな」
「源泉……まさか温泉?」

 おい、ちょっと待て。ヨメに退屈な留守番をさせて、てめえは温泉でのんびり疲れを癒してたって言うのか。だとしたらもう一度顔面に拳を叩きいれるぞ。
 俺の半眼に気付いたジークが慌てて両手を振る。

「そんな優しいものではないぞ。確かに源泉から調合された湯は気持ち良いが、源泉は苦痛を伴う。そこに半刻ほど顔面を押し付けられただけだ」
「……そうだよな。あのサーヴァといて呑気な温泉旅行なんて出来るはずねえよな」

 納得したが、俺は疑問に首を傾げる。そんなに早く終わる用事なら、もっと早く帰ってこれたんじゃないだろうか。
 まだ何か隠してるのではないだろうか。疑いの目を向ける俺に、ジークは視線を彷徨わせてあからさまに狼狽える。怪しい。

「まさかサーヴァにまたネチネチ言われて泣いてたとか」
「ウッ……た、確かに涙腺は緩んだが泣いてはおらぬ。ユーリとの約束は守る」
「だったらなんで五日も出かけてたんだよ」

 覗き込むように顔を見れば、顔を真っ赤にさせている。まさか浮気……はこいつに限ってない。絶対ない。そもそもしてたら今頃こんなところにいるはずないし。
 仕方ないのでもじもじしてるジークが口を開くのを待っていたら、突然目の前に箱を突き出された。

「なんだこれ。あ、お土産?」

 受け取りながら言えば肯定の頷きが返ってきたので、現金な俺の機嫌は一気に浮上する。
 礼を言いながら箱を開ければ、中に入っていたものは予想の斜め上どころか別次元の存在で、俺は一瞬それが何なのか理解できずに固まるしかないのであった。



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(C)siwasu 2012.03.21


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