03


 そんな俺を顎を押えながら見上げる会長。そのまま顎割れてまえ。

「いーじゃねーか、そっちのが」
「お前に話しかけたんちゃうわ」
「んだよ」

 拗ねたように唇を尖らせる会長に(全くもって可愛ないし)俺は冷たい視線を向ける。

「…も、ええわ。どーせ副会長辞めるし。会長、あと頑張ってな」
「あ?」

 丁度いい機会だし、このまま一生徒に戻るのもありやろ。更に言えばそのまま全員仕事せんと生徒会なんて解散してまえ、なんて思ってもいた。
 けれど会長はベッドから起き上がると俺の方に近寄って来るので、すぐ逃げられるよう扉の方へ後ずさる。

「何勝手に辞めようとしてんだ」
「勝手にも何も、お前等が仕事せぇへんからやろ」
「んじゃ仕事する」
「は?」

 その言葉に目を丸くする俺。じゃあ何で今までサボっとってん。怒りが沸々を脳内を占めていくのが分かる。

「仕事すりゃ、辞めねーんだろ?つか、さっさと泣きつきゃ戻ってきてやったのに」

 プチッ。
 俺の血管が一部ご臨終したらしい。いや、ほんまにしとったら死ぬけど。
 何なん、その俺様発言。元々はお前等の仕事やろ、それを何で俺が泣きついて頼まなあかんねん。そう思えば思うほど怒りが収まる気配はない。
 けど、それもあるけど今の言葉は自分を過小評価されているようにも聞こえるのが一番腹立った。俺は自分でも認めるが負けず嫌いでもある。じゃなかったらさっさとお前等に仕事しろって怒ってたやろうし。
 この辺りで自分の思考回路が睡眠不足でぐちゃぐちゃになってる事に気付いてれば良かったんかもしれん。

「べ、別にこんなん俺一人で出来るしっ!」
「クマ作って言う台詞か?」
「別にちゃんと3時間は寝てるしっ!」
「高校生にしては短いな」
「別にお前等の仕事なんか簡単なやつばっかやしっ!」
「さっき三亜に書類に不備あるって言われてたじゃねーか」
「…別にっ」
「だあぁぁっ!意地張ってんじゃねーよ!」
「っお前こそ何偉そうにしとんねん!今までサボっとったん謝れやボケ!!」
「あぁ、悪かった!悪かったよこれでいいか!」
「アホかっ!そこは土下座して『西崎様今まですみませんでした』ぐらい言えや!」
「じゃあ言ったらお前は俺のもんになんのかよ!」
「おお、お前のもんでも何でもなったろうやないけ!」
「言ったな」

 売り言葉に買い言葉とはよく言ったものだ。自分の失言に口を押さえるも気付いた時には時既に遅し。
 いやいや待て待て。だがこの偉そうな会長が土下座して謝る筈がないと思いつつも目の前には俺の前で膝をつく男の姿。

「おいおいおいおいおい、待て、あかん早まるなお前それでも生徒会長やろ」
「そうだな」

 ニヤリと笑いながらも膝をつき頭を下げる姿がスローモーションのように見える。
 そんな会長に俺は最早パニック状態。いや、あれ、…ていうか

「さ、ささささせてたまるかぁぁぁぁぁ!!!」
「ぐえっ」

 止めようと会長の頭をサッカーボールのように蹴ったら軽く吹っ飛んだ。小学校ん時はサッカー部のエースやったしな、俺。会長はついでにベッドの足に頭を打ち付けたらしく悶絶している。

「て、め、いい加減に…」
「あかん、ちょっと待って、俺一体何の話してたんやっけ…?」

 俺はフラフラしてきた頭を押さえながら壁に寄り掛かる。なんかちょっと気持ち悪い。

「だからお前が俺のもんになるっつー…」
「都合のええとこだけ抜粋すんなカス!」

 懲りずに茶々を入れてくる会長に怒りのまま怒鳴りつければ、視界がグラリと揺らいで立っていられなくなり俺はそのまましゃがみこんでしまった。

「あ…れ…?」
「寝不足で疲れ溜まってんのにそんなに怒鳴れば貧血も起こすだろうよ」

 頭を押さえながら伸ばしてくる会長の手を振り払うもその動作だけで頭がぐわんぐわんする。
 そんな俺を見かねたのか「何もしねーから」と優しく言う会長に従って俺は渋々引かれるままベッドに腰掛けた。

「ほら、寝とけよ」
「や、でもまだ仕事残ってるし…」
「俺がやっとくから」
「…」

 …何やこの優しい会長は。
 あれ、さっきまで俺何で怒ってたんやっけ?とか思いながらも、結局ふらつく頭と目に当てられた会長の温かい手に睡魔が俺の意識をどんどんと沈めていった。
 ああ、寝る。でもその前に。

「寝てる間に手、出してみ…噛み千切ったる…」

 最後に予防線として呟いた主語のない言葉にちゃんと息を飲む音が聞こえて、俺は笑みを作った。


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(C)siwasu 2012.03.21


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