目が覚めると、仮眠室はすっかり暗くなっていた。少しだけ寝るつもりが爆睡していたらしい。 …ってちょっと待て!仕事は…っ!? 俺は顔を青ざめると眼鏡をかけながら慌てて飛び起き、扉を勢い良く開く。 「っと、起きたのか」 「…え?」 執務室に戻ると誰もいないと思っていた筈の部屋にはバ会長がいて、俺は目を丸くしてその場に立ち尽くす。 とりあえず思い切り開けた音を誤魔化す様に静かに後ろ手で扉を閉めた。 「一応明後日までの表に出す分は全部終わらせたぞ。記録は分からねえとこあったから2日前までしかやってねえ」 「は、はぁ。…ありがとうございます」 「それはそうとお前寝癖ひでぇな」 「…生まれつきなんです。放っておいて下さい」 呆気にとれたまま髪を弄り投げられる言葉に返事していると、会長は眉を寄せてこちらに近付いてくる。 んん?今日は何月何日や?そして今のこの状況は何や? 「寝ぼけてんのか」 「っあー…そうかもしれません」 未だ覚醒しない頭を何とか起こして仮眠を取る前のことを思い出してみる。 その間に俺の前まで来た会長は、片手を仮眠室の扉につけ…って待て待て待て。近い、顔近いわアホ! 「んじゃ起こしてやるよ」 「え?…ってんぅ…っ」 文句を言う暇もなく、そう言いながら俺の顎に手をかけた会長はそのまま唇を重ねてくる。俺は反射的に体を押しやろうとするが…くそ、手は胸の前に置いていたせいで密着してくる会長に押し潰されて動けない。 おまけに二の腕を包むように腕を回されてしまい、これでは腕が使い物にならない。 「っぅん、」 「口開け」 アホか、何でんなことせなあかんねん! 一瞬唇が離れ、その隙に首を捩じろうとするが、俺の頭を扉に押し当てるように額同士が強く密着する。上半身の身動きが完全に封印された俺は成す術もなく会長の降りてくる唇を受け止めるしかなかった。 「っん、…んっ」 絶対口は開くものかと固く閉ざしつつ、俺は意識を下半身の方に持っていった。膝をバレぬようゆっくりとこいつの股間に…と、思っていたがどうやら気付かれたらしい。 下半身をぐっと扉に押しあてられ、俺の利き足は会長の足に絡め取られた。何やねんこの本気度。キスぐらい誰とでも出来るやろうが、この下半身馬鹿め。 「本当、強情…」 「っ」 俺は言い返したい気持ちをグッと堪え、口角筋を引き締める。 「思い出したか?」 「…?」 「お前、さっき俺の恋人になるっつったの」 その会長の言葉に、俺はさっきまでの出来事が一瞬にして蘇った。そして同時に気持ちが沸点まで急上昇する。 「っあ、アホか!!誰が…っうん!」 あぁぁぁぁぁぁ!!俺のアホ!!! 怒りのまま思わず口を開いたのを会長は見逃さず、すかさず唇で塞ぐ。口内に入ってきた舌を反射的に押し返そうとするも、硬口蓋から軟口蓋にかけてなぞられて俺はくすぐったさに身を捩らせた。 「ん…くぅ、ぅ、んんっ」 あれか。口の中犯されるってこういうこと言うんか。 舌や歯は勿論、歯茎は愚か上唇小帯や下唇小帯、舌小帯に…ってむしろ口内でこいつの舌が触れてない所はないんじゃないかってぐらい舐め尽くされる。 こんなに激しく吸い取られるようなキスは初めてだった俺は、呼吸も上手く出来ず震える足を踏ん張るのに必死だった。 もうどれだけ経ったか分からなくなってきた頃ようやく唇が離れたが、溜まった唾液は飲み込む力もなく顎を伝う。 こいつ、本気でキスしやがったな。 「はっ、…えっろ」 「っ…さい、わ」 腕は未だ拘束中の為、仕方なく唇を舌で舐めると目の前の男の喉がこくりと鳴った。 欲情されるのは女だけで勘弁してくれ、と俺は眉を潜めながら俯くと、再度呼吸を整えるように大きく息を吐く。 「言われた通り寝てる間は何もしなかったぜ?」 「…だから起きてからしたっつーんか」 こめかみに青筋が浮かぶのを俺は何とか抑えながら顔を上げる。 金の髪と青灰色の目が視界に映った。 「…めっちゃ理不尽やけど………仕事、ありがとうございます」 「おう」 何がおう、や。何が。 人の礼を当たり前のように受け止める会長を半眼で睨みつけてみるも、残念ながらこの俺様には通じない。 「おい、あれだ。これからちゃんと仕事してやるからよ、お前本当俺のもんなれよ」 「あほか。仕事は義務や、義務。それに俺彼女おるもん」 「なら俺が彼氏なら問題ねぇだろ」 「あ、る、わ!」 顔を耳元まで近付け低く囁く声に俺はぞわりと鳥肌を立てる。 「ってか、いい加減離れぇ!暑苦しい!」 「別に汗かいてねーじゃねぇか」 あかん。こいつとは微妙に話が噛み合わん。 [ ←back|title|next→ ] >> index (C)siwasu 2012.03.21 |