02


「おい、聞いてんのか?」
「へ?………ところで会長がどうしてそんな所にいたんですか?」
「…今更誤魔化しても無駄だからな」

(うわー…めんど)

 何で俺様で偉そうなんだけが取り柄の会長様がクローゼットん中隠れてんだ。もしキュウリとかくれんぼしてましたーとかやったら殴る。
 でも素がバレるのは困るので。

「誤魔化すって何をですか?それより会長ともあろう者がそんな所に隠れていた理由の方が気になるのですが。もし私のストーキングをしていたというのなら教えて下さいね、今すぐ風紀を呼びますので」
「…よくもまぁそこまで口が回るもんだな」
「褒め言葉として受け取っておきます」

 俺は心ん中で会長に唾を吐きつけながら軽蔑するような目で笑みを浮かべた。ええからさっさと部屋から出てけって。

「ふーん」

 けど会長は口元に手を当てながら何やら考える素振りで俺を見つめる。
 その目がギラっと光ってんのは見ないフリして(思わず鳥肌立ったし)つか自分が部屋を出ればいいことか、と立ち上がった。

「って、…会長、何ですか」

 が、それを阻むように俺をベッドに押し倒す会長。さっさと逃げとけば良かったと少し後悔する。

「お前、さっき三亜とキスしてただろ」

 ギクリ、つい肩が揺れてしまう。
 よく考えたらその時からこいつ中に隠れてたって事やん、俺のアホ。

「…そうでしたか?」
「あいつとデキてんのか?」
「なっ!んな訳………そんな訳、ないでしょう?いいから早くどいて下さい。まだ仕事も残っているの、で…っ」

 疲れてるせいか思わず素が出そうになる自分を叱咤しながら目の前の身体を押し返すと、何を思ったのか俺の首筋に顔を埋める会長。ついでに服の中に手突っ込まれて鳥肌倍増。
 拒絶反応を起こした体を正直に動かすと、気付いた時には会長のこめかみを容赦なく殴っていた。

「っ、っさ、さっさと離れろ!」
「ってー…」

 言いながら俺の上に体重を預けたまま痛みに蹲る体を押しやるも動く気配なし。それどころか強い力で肩を押し付けられ、見れば苛立ってるのか不機嫌そうな会長の目が金の髪の間から見えた。あかん、俺ピンチ。

「お前今本気で殴っただろ」
「あ、当たり前です。仕事する気がないのならキュウ…戎くんの所にでもどうぞ。邪魔なので」
「あ、あー、カッパ巻き…ね。いや、もういいわ」
「は、」

 わざとらしくその呼び方を強調する会長にうっかり青筋が立ってしまいそうになったけど、それよりも2週間仕事をサボってまで固執していたあのキュウリにあっさり興味をなくす方が気になった。主に怒りの意味で。
 俺が片眉を上げて訝しんでいると、会長は子供みたいな無邪気な目(って言ったら子供が可哀想やな)をこっちに向けてきたかと思えば。

「お前の方が面白そうだし」
「なに…っ」

 唇が落ちてきて、避ける間もなく俺の唇にダイブ。

「ぅん、ん…っ」

 あれか、あの兄にしてこの弟ありってか。
 冷めた視線を容赦なく人の息を奪う目の前の男に向けていると、何を思ったか会長はそのまま舌まで突っ込んできた。

「…はっ」
「なんだ、満更でもねぇみたいだな」

 唇から離れ至近距離でニヤリと意地悪そうに笑う会長。それを視界に入れた俺は、もう我慢の限界。

「お前実はインラ…」
「っ、え、ええ加減に、せーやっ!!この仮性包茎っっっ!!」
「ぐはっ」

 おし、綺麗に入った。
 俺の華麗なるアッパーは見事会長の顎にクリーンヒット。中学生ん時ボクシング通ってたからな、俺。
 そのまま気絶してくれたらええのに、顎を押えながらも肩を震わせる会長を見て俺は溜め息を吐いた。ついでに今の内に避難。ベッドから下りると立ちあがって蹲る会長を見下ろす。

「てめ、人の顔に一度ならず二度までも…」
「うっさいわ!皮剥いてから出直してこいボケ!!」

 怒気を孕んだ目を向ける会長の言葉を畳みかけるように怒鳴りつければ「んでお前が知ってんだよ」と呟く声。お前のとこの親衛隊がちょくちょく相談に来るなんて言ったらこいつどんな顔するんやろ。
 おまけに「西崎様のはどうなんですか?」なんてズボンに手をかけながら言われた事もある。俺を比較対象にするな、自分のもん見て考えろオカマもどきめ。

「あー、最悪。バレるとかほんま最悪」

 開き直った俺はズレた眼鏡をかけ直しながら前髪を上げて肩を落とした。よりにもよって愉快犯なこいつに見つかるとか…ないわー。


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(C)siwasu 2012.03.21


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