08


「会長さえ戻ってきてくれたら勝ってたのに……!」
「会長のバカー!アホー!ハゲー!!」

 無事に全ての競技が終了し、結果は当然ながら赤チームの勝利。青チームには陸上部や体操部のエースがいたので少しでもあちらの人数を減らそうという作戦だったが、どうやら上手くいったようだ。
 庚がバランス感覚が優れていたおかげで平均台での綱引きにも勝てたし、案の定合羽はリレーで大活躍だった。なんなら運動部が合羽を取り囲んで取り合いをしていたぐらいだ。
 走るために邪魔だからと取ってしまったカツラの中からは美少年が現れて生徒たちは黄色い悲鳴をあげ始めるし、この学園では割と身勝手な奴が多いので合羽の性格を忌避する奴も少ないだろう。そう考えれば素顔の方が友達出来やすいんじゃないだろうか。
 ……あ、いやそれを嫌がっているのが庚だったな。合羽が素顔を晒して周りにキャーキャー言われてからずっと渋い顔を見せている。なるほど、単純に好きな子を他に取られたくなかっただけか。
 こうして終わりを告げる体育祭、いよいよ閉会式が近付いてきた。
 整列する生徒を眺めながら、俺は内心で叫び声をあげるしかない。

(普通に楽しんで発表のこと完全に忘れてた!!!)

 いや、最初の方は庚を赤チームに引き入れてそのままうまいこと説得出来ひんかなーなんて思っとってんで。
 でも玉入れあたりから勝負に夢中で生徒会のことなんか完全に忘れていた。なんなら笛が鳴ってもみっともなく球を入れ続けてペナルティを食らったほどだ。

(やばー、どうしよう……庚はクラスの列に並んでもうてるし)

 生徒会の並ぶ場所にいたならまだ最後のチャンスはあるかなー、なんて思っていたが悲しきかな、庚はクラスの列にしれっと並んでいる。
 いや、考えてみればあいつの中では辞表を出してしまっているから生徒会役員でも何でもないんだろうけど。
 考え続けてもいい案が出るはずもなく、実行委員代表が閉会式の挨拶を終えると俺を見て困ったように眉を下げる。

「えー、次は本来生徒会長の挨拶があるのですが……副会長、どうせならここで乗っ取り発言でもしてみますか?」

 先程の冗談を持ってきて茶化す実行委員に、俺は乾いた笑いを浮かべた。
 とはいえ二亜がいない以上挨拶は副会長である俺の仕事だろう。
 適当な挨拶を即席で考えながら壇上に向かおうとした時だった。

「その必要はない」

 そう言って俺を遮るように壇上へ現れたのは三亜である。
 三亜は実行委員からマイクを奪い取ると、大事な発表があるとざわつく生徒を黙らせた。

「知っての通り、今年度の生徒会は職務を放棄し他の役員、及び風紀委員会に対して不誠実な行為を続けた。現在は更生し真面目に業務を取り組むようになったが、まだ昨年度の選挙で選ばれた役員は全て揃っていない。生徒会を唯一律する立場を持つ独立機関として存在している風紀委員会としては、これはあまりにも見過ごせない状況だ」

 三亜の言葉に生徒のざわつきが小さくだが広がっていく。
 あいつがあの場に立った時点で予想していた奴もいるのだろう、今のところ大きな反発はないように思える。
 この反応は俺たちにとって良くない兆候だ。三亜の発表に賛同が多ければ、下手すればそのまま本当に解散が決定されてしまう場合がある。

「既に庚から辞表も預かっている。俺は、来期の生徒会も見据えて今から新たな生徒会役員を選出することを提案したい。つまり、現生徒会を解散、新たな生徒会役員として唯一業務を放棄しなかった西崎を――」
「ちょっと待てよ!!!!」

 橘や双子は知らなかったのか、話がついていけていないようで固まっている。そりゃそうだ。突然解散なんて言われてすぐに状況を飲み込めるわけがない。
 俺は止める術がないまま三亜の言葉を黙って聞いていたところに、整列している生徒の中から制止の声が上がった。そのまま列をすり抜けて現れたのは庚だ。
 庚は真っ直ぐ三亜のいる壇上まで上がると、マイクをひったくって息を大きく吸い込んだ。

「戎李九!好きだ、付き合ってくれえぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
「えええぇぇぇぇぇぇぇ俺えぇぇぇぇぇ!?!?!?!?」

 突然の庚による告白タイムと合羽の叫びに一同がどこぞの新喜劇のように盛大にずっこける。
 いやいや、どう考えてもそんな場面ちゃうやろ、何を言い出すんやこいつは。
 呆れながら庚の様子を見守っていると、庚は俺を見て小さく笑みを浮かべた。

「皆、俺に付き合ってくれてありがとう。俺の李九を守りたいって我儘で業務も疎かになっちゃったよね。副会長も、今まで応援してくれてありがとう。俺、もう決めたよ。李九に告白して、玉砕したら素直に諦めるって。そのためにわざわざ辞表まで出したんだから」

 俺は思わず双子と橘を見た。三人ともポカンとした顔を見せている。
 なるほど、そう来るなら乗るしかないな。
 俺は壇上に足を向けると庚からマイクを受け取った。

「皆さん、今まで黙っていてすみません。そう、あれは一人の転校生がやってくる。その話を庚くんから聞いたことが始まりでした。転校生、戎くんが庚くんの想い人だと聞いて、私たちは応援しました。彼の想いを叶えてあげたい。しかし生徒会業務に追われる中、戎くんに接することの出来る機会は限られている。そこで私たちは、戎くんと庚くんをくっつける組と業務を引き受ける組で分かれたのです。いえ、正確には一か月程度なら私が全部引き受けるから庚くんは他の役員に手伝ってもらって何としてでも戎くんを落としてきなさいと言いました」
「おい、何を言い出すんだ」
「皆さんも知ってるはずです、庚くんにはずっと好きな人がいたと。そのために生徒会役員でありながらも親衛隊を作りませんでした。実はその想い人が戎くんなのです!」
「俺、親衛隊作らなかったのは修羅場で大変な目にあったせいなんだけど……」

 止めようとする三亜や小さく呟く庚の言葉を無視して俺は続ける。

「ですが、結果的に生徒会は機能しなくなった。これは私の過信が原因です。優秀な役員の揃う生徒会の仕事を一人でこなせるなどと思い上がった私が悪いんです!それもこれも、全て庚くんを応援したかったから……ッ」

 涙まで浮かべて力説すれば、生徒の中からぽつぽつと同調の声が聞こえる。
 副会長頑張れー、なんて仲間思いな人なんだ、西崎様は悪くないです、などと言った賛同の声が増えていくのを耳にしながら、俺は畳みかけるように口を開く。

「私の思い上がりで迷惑をかけていると知った生徒会の皆はすぐに戻ってきました。勿論、庚くんも戻ろうとしましたが、私たちはそれを許しませんでした。未だ尻込みしている庚くんに告白するまで戻ってくるなと」
「好きな奴に告白一つできないで何が生徒会会計だって、辞表まで書かされて風紀委員長に持って行かせるなんて無茶苦茶すぎるよ〜」

 俺からマイクを受け取った庚が頭を掻きながら三亜に視線を向ける。三亜は睨みつけてくるが何も言う気はないようだ。
 悪いな、お前の提案はとても魅力的だが、やっぱり俺は今の生徒会が嫌いじゃない。
 これからもっと仲良くなれそうな楽しい仲間がいるなら、俺は新しい関係を作るより今の関係をより良くしたい。
 俺はまた庚からマイクを受け取ると、委員長に向かって頭を下げた。

「風紀委員長もありがとうございます。私たちの茶番に乗ってくれて。あなたが焚きつけてくれなければ、きっと庚くんは今日、告白できないままだったでしょう」

 さあ、どうだ。これで状況はひっくり返った。


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(C)siwasu 2012.03.21


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