「は、はは……」 つまり、俺は『ほとんど新品状態のゴミをゴミ処理場横に捨ててきて欲しい』と言ったのを庚は『ゴミ処理場横を掘って椿兄弟が時折持ってくるブランド物の皿を埋めてきて欲しい』と勘違いしたらしい。 どんな勘違いや。 いや、だが確かに双子はたくさんあって邪魔だからと大量のブランド皿を生徒会室の給湯室に置いているし、生徒会室にゴミを捨てにだけ来るときがある。 「つまり、悪いのは椿兄弟だと」 「「ひどい!」」 「あなたたちが生徒会室を私物化してなければ起こらなかった誤解です」 「そっちの勘違いを俺たちのせいにしないでよ!」 「大体、猫被ってる時にうっかり関西弁出してる一星も一星だし!」 「うっ」 無意識で出ていた方言を指摘されると辛いものがある。 俺は言葉を詰まらせながら、未だ頭を掴んで離さない背後の鬼――三亜の方に振り返った。 「ところで委員長はどうかされましたか?見回りはもう終わったのでしょうか?」 「ああ、おかげさまで視聴覚室から屋上まで走り回ったとも」 道理で汗だくなわけだ。俺を探して必死に走り回ったのだろう。申し訳ない気もするが、あの時捕まるわけにはいかなかったので仕方ない。 その代わり以前噛まれた分は今回の件でチャラにしてやろう。 俺の表情で何を言いたいのか分かったのだろう。片眉だけを上げた三亜が空いた手で自身のポケットを探り、俺に差し出してくる。 「ちなみに、これは第二会議室で見つけた眼鏡だ。お前のものに似ているが、合っているか?」 「ああ、そういえばあの時起き上がってきた生徒が殴りかかってきたので咄嗟に反撃したものの眼鏡をどこかに落としたんですよね。見つけてくれてありがとうございます」 「……窓枠に置かれていたが」 「上手く窓枠に落ちたんですね」 「……綺麗に畳んで置かれていたが」 「飛んだ時につるが奇跡的に畳まれたのでしょうか、すごいですね」 どこまでもしらばっくれる俺に半眼が刺さる。 だがしかし本当のことを言えばこのまま風紀委員室に連行されるのは目に見えていた。 庚の件だってそうだ。庚の仕業と公表されれば、猶更リコールへの声が強くなるだろう。 「あのメールは何だったんだ」 「ああ、誤解だったようです。ふらついた生徒に襲われるなんて、少し自意識過剰過ぎましたね。お手数かけて申し訳ありませんでした」 「そもそも電話もメールも庚からの受信だったが」 「庚くんが携帯をなくしたので届けている最中でした。手に持っていたので思わず使ってしまいましたが……すみません、庚くん」 「え、いや」 「庚のロックナンバーを知っているのか?」 「まあ、同じ生徒会の仲間ですし」 「その庚が合羽とお前と一緒に第二会議室の横から現れて走り去ったという報告もあるが」 「それは人違いでしょうね、風紀委員の中に目の悪い生徒でもいたのでしょうか」 刺さる視線にも負けず俺はしらを通しきる。あまりにも酷い言い分だが、認めた方が負けなのだ。 俺の主張が曲げられることはないと分かったのか、三亜がようやくため息をつきながら手を離す。 解放された頭部をさすっていると、呆れた顔が俺を見て口を開いた。 「……第二会議室の件はあくまで発見者でしかないと言うのなら、後日話を聞かせてもらう。ただし、現在こちらで回収している怪我人からお前の名前が出た時はすぐにでも連れて行くからな」 「はあ、その時までに上手い言い訳を考えておきます」 おっと、失言。 俺の言葉を聞いて三亜が睨みつけてくるので俺は目を背けて誤魔化した。 沈黙が続くが、それを破るように実行委員が俺たちのテントに近付いてくる。 「生徒会の皆さま!次は皆さまも参加の競技ですのでご準備お願いします」 「まちくたびれたよ〜」 「意外と生徒会の仕事って少なかったもんね〜」 「……俺が全部やったけんね」 余裕そうに伸びをしてみせる双子と違い、どこかげっそりとしている橘。 おそらく俺がいない間に色々とあったのだろう。……お詫びに後で何か奢ったるな。 三亜も実行委員が来たことで追及を諦めたようだ。疲れた表情でテントから去っていく。 去り際に「閉会式まであと2時間だ」と意地の悪い言葉を残していったが。 「それでは皆さん、行きましょうか。赤組は私と橘くんだけですがそちらは会長が不在、いい勝負になりそうですね」 「一星!青組が勝ったらなんかご褒美ちょうだい!」 「罰ゲームでもいいよ!」 「……いいですが、赤組が勝ったらあなたたちには今後サボらず生徒会業務に従事することを約束してもらいますからね」 それを聞いて逃げるように双子を見送りながら、動かない庚を合羽に手を差し伸べる。 「戎くんと庚くんも行きますよ」 「……怒らないのかよ」 「いや、十分怒ってますよ。そういえば庚くんからまだ謝罪をもらってませんね。謝ってください」 「……ごめん。馬鹿にされたって思ったら今までの副会長の態度って全部そうなのかなって、ずっと生徒会の仲間だと思ってたのに本当は見下してたんじゃないかって。考え始めたらどんどん頭に血が上ってた。李九の話も聞いて、副会長にとって何が一番辛いか考えたら男のプライドへし折ることかなって思いついた時には多分、我を忘れてたんだと思う。酷いことをしたと思ってる。本当にごめん。副会長が仕返ししたいって言うならしてもいいよ、大人しく受け入れるから」 ほんま、庚がカッとなりやすい性格だと知らなかったのは誤算だ。普段はヘラヘラしていたので表情では分かりにくいが、きっと今までも内心俺に対して思うことはあったのだろう。 頭を下げて反省を示す庚を見下ろしながら、俺はその頭頂部に軽い拳骨を落とす。 「分かりました、許しました」 「え」 「ただし、仕返しじゃありませんが条件があります」 顔を上げて驚いた表情を見せる庚に、俺はウインクしてみせる。そして庚とついでに合羽を連れてグラウンドへ行くと、赤青チーム対抗戦が始まろうとしているところだった。 俺は司会を務めている実行委員に耳打ちすると、実行委員は慌てて放送部のテントに向かう。 しばらくして放送部が「速報です」とグラウンドに向かって報告を始めた。 「裏切りです!生徒会の中に謀反がありました!どうやら庚会計と戎くんは、我らが長、皇生徒会長の不在を狙って赤チームに寝返ったようです!!」 「いやあ、謀反。いい響きですね。私も今のうちに生徒会長の座を乗っ取ってもいいでしょうか」 「それは別の意味で色々と混乱を招くので後日にしてください西崎副会長!」 いや、後日やったらええんかい。 放送部の本音駄々洩れの制止をかけられて俺はにっこりと笑って頷いておいた。 これに待ったをかけるのは勿論我儘末っ子キャラの椿兄弟である。 「ちょっと待ったー!!」 「俺たちはそんなの許してないよ!」 「そうは言ってもこれは庚くんと戎くんの意思なので。ねえ、庚くん?」 「え、あ、うん。はは、そういうこと〜」 「お、俺も!俺も一星と一緒に戦うから!」 「ちなみに先程の話、本気ですから。赤が勝ったらあなた方は休憩なしでキリキリ働いてもらいますよ」 「アーッそういうことか!」 「謀ったな一星!」 「最初に提案したのはあなたたちじゃありませんか」 勝つためなら引き抜きも厭わない。 庚のスペックは知らないが、合羽はサッカー部で走りに自信があったほど運動神経が高い。体つきからきっと今もなにかしらのスポーツはやっているのだろう。 こうして庚と合羽を手に入れた赤チームに、生徒会長不在の青チーム。結果は火を見るよりも明らかだった。 [ ←back|title|next→ ] >> index (C)siwasu 2012.03.21 |