04


「このやろっ」

 男たちもようやく喧嘩モードに切り替わったようだが、その時には既に十人近くが倒れている。見立てでは今のところぶっ倒れた奴で再起してきそうな奴は二人ってところか。
 残り七人。これなら明日は顔面が腫れるぐらいで済みそうだ。
 俺は振りかぶった男の拳に自分から飛び込むと、それを避けて綺麗なアッパーを食らわせる。うん、上手く入ると気持ちいい。
 そのまま左から飛びかかってきた男にはジャブを入れて怯んだところにローキック。今のはちょっと場所がずれた。だがそれでも十分な痛みはあるだろう。転がって悶えている。
 残りは馬鹿ではないのか、慎重に距離を取っている。闇雲に突っ込んでどうにかなる人数ではなくなった。さて、どうしたものかと考えていると、突然首に布が食い込んで器官を圧迫される。
 どうやら再起した男が後ろから襟を掴んできたようだ、これはまずい。

「ぐ、ぅっ」

 後ろの男がそのまま腕を首に回して拘束してくる。その間に様子を見ていた男たちは俺の両手足を掴み、服を脱がせにかかる。

「脱がせろ!突っ込んじまえば大人しくなるだろ!!」

 一人の男の言葉に従って体操服のズボンが脱がされていく。足を拘束するつもりなのか途中で止めたズボンに俺の動きが止まり、男たちがようやくホッとした時だった。

「甘いんじゃブォケェーーー!!!!!!」

 そう言って俺の首に腕を回していた男の腕に噛み付き、緩んだ瞬間頭突きを落とす。同時に足を折り曲げ突き出すように近くにいた男の脇腹に靴底をめり込ませた。
 すぐにズボンを脱ぎきると、脇腹を抑えながら座りこんだ男に踵を落とし首を拘束していた男の鼻に拳を叩きつけておく。折っとけばもう再起もせんやろ。
 残りの男たちはもうなりふり構わなくなったらしい。頬に叩きつけられた拳を受け止めながら、俺は上はジャージに下はボクサーパンツのみという格好で体を揺らす。
 それにしてもさっきは危なかった。ていうかそもそも喧嘩中に掴まれるようなものを身に着けているのがいけないのだ。

「せやねん、服着てるから悪いねん」

 そう言って俺は上も脱ぎ捨てると、ボクサーパンツ一枚の姿になる。
 周りは服を着ている中半裸一枚なのは少々恥ずかしいが、残り四人。俺も久しぶりの運動で息が上がってきたし負ければケツにチンコをぶち込まれるのだ。そんなこと言ってる場合ではない。

「こいつ……頭おかしいんじゃねえの」
「ははっ、男のケツにチンコ勃てとるお前らの方が頭おかしいっちゅうねん」

 十人以上いた男たちが残り四人。流石に自分たちの状況が悪いと分かったのだろう。一人が逃げるように入口へ向かったので後を追って頭を掴むとそのまま扉に叩きつけた。衝撃でガラスが割れてしまったな、こいつに弁償させよう。

「まだ庚と話が残っとんのじゃ。はよ終わらせるで」
「ひっ」

 床に沈んだ男から手を離して俺は隅で怯えきっている庚を睨みつける。すると何を思ったのか、男の一人が庚に近付いて腕を掴んだ。

「な、なにっ」
「そうだ、こいつに用があったんだろ!だったらさっさと話せよ、俺らはもう邪魔しねえよ!」
「は、離し……」
「そうだ、それとも会計様を皆で犯すか?だったら副会長だって――ぐえっ」
「アホちゃうか」

 庚の腕を掴んでいた男に近付いてぶん殴ると呆気なく沈んだ。最後の方まで残った割には雑魚だったな。
 俺は庚を見下ろして、口を開こうとした瞬間だった。脳天から痺れるような衝撃が走る。

「あ、」

 膝から崩れる感覚に、しまったと俺は後悔した。安心した庚の表情を見て気を抜いてしまった。まだ二人残っているというのに。

「よし、一回落とすぞ」

 どうやら後ろから教室の後ろに並べられていたパイプ椅子で殴りつけられたようだ。武器は卑怯だと言いたいが、喧嘩に卑怯もクソもない。
 また床に引きずり倒されて首に腕を回されるが、今度はさっきのような素人の動きじゃない。確実に相手の落とし方を知ってるやり方だ。
 久しぶりの喧嘩で十人以上は無理があったかもな。でもまあ、ここまで頑張れたのであとは掘られながら相手のチンコでも噛みちぎってやろうと考えている時だった。拘束が緩んで、俺はすぐに転がって相手から離れると息を吸い込む。

「はっ、ひゅーっ、は、はっ」

 見れば、俺の首を絞めていた男がのたうち回っている。どういうことだと視線をあげれば庚がパイプ椅子を手に肩で息をしていた。俺はもう一人が庚に掴みかかる前に足へしがみ付いて叫んだ。

「庚、起き上がってくんぞ!遠慮せんでええからもっかいそれで殴れ!!」

 庚は俺の言葉に従って思い切りパイプ椅子を男の顔面に振り下ろした。よし、ピクリとも動かないが死にはしていないだろう。……多分。

「ふざけんなよっ!!」

 最後に残った一人が俺の手を振り払って庚に掴みかかると顔面を殴る。庚も抵抗しているが、力は男の方が強いようだ。

「俺はな!てめえでもいいんだぞ!!お前の方が女っぽいしな!」
「――ッ」

 そう言って馬乗りになって庚を押さえつけると、服を脱がし始める。
 これはまずい。俺は立ち上がろうとするが、脳天に食らったパイプ椅子のせいで頭がふらついて上手く起き上がれない。
 庚はいつの間にか鳩尾を殴られていたようだ、息をするのに必死で最早ろくな抵抗が出来ていない。
 俺はずりばいで二人に近付くと、咄嗟に男の足を引っ張った。

「なあ、なあ」
「んだよ!お前は次だからな!覚悟しとけ!!」
「ちゃうくて、庚、多分処女やで?」
「いいじゃねえか、処女。余計やる気出たわ」
「ちゃうくて、多分もうすぐ昼休み終わるやん?そしたら風紀が校舎に人残ってないか見回りするやん?」

 俺の言葉に、男は眉を寄せると手を止めてこちらを見る。

「何が言いたい」
「時間ないやろ、庚は処女やからすぐ入らんやろ」

 それで何を言いたいか察したらしい。庚から離れて俺を仰向けに転がす男に、俺はビッチをイメージしながら小首を傾げて男を見上げた。


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(C)siwasu 2012.03.21


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