「なんだ、やっぱりぶっ倒れたのか」 「やっぱりって……」 「ここ最近変な時間に連絡やデータが飛んできたからな。今日も明け方4時にメールがあったから昨日から、酷ければ数日寝ていないのだろう」 三亜の言葉に俺は驚いて二亜を見つめるが、二亜は目を閉じて動かない。 寝たふりをしているが下手すぎてバレバレだ。 「寝てないですって?馬鹿ですか?いえ、馬鹿なのは前から知っていましたがそれでも言わせてください。馬鹿ですか?」 「……うるせえ」 「昨日生徒会室で体育祭は体が大事だからよく寝るようにと言ってた馬鹿はどこの馬鹿ですか?低能や愚鈍も度を過ぎれば言葉を無くしますよ?貴方は大丈夫だと過信していたのでしょうが、結果的に人に迷惑をかけているような人間が生徒会長とは呆れますね。言葉では表現できない馬鹿以下の存在になり下がるなら生徒の代表なんて辞めてしまいなさい」 「西崎の言うとおりだな」 三亜の言葉に、俺はハッと口を閉じる。 やばい、流石にぶっ倒れた人間相手に言い過ぎた。二亜は俯いていてどんな顔をしているか分からないが、いい気分ではないだろう。 俺はフォローしようと口を開くが、上手い言葉が見つからない。その間にも三亜は言葉を続ける。 「お前がどれだけ必死に取り繕って庚のフォローをしようが反省文を出そうが、結果的に生徒に不安を招いている。リコールの発表は閉会式だ、覚悟を決めろ」 「はぁ?お前今なんて言ったとや」 「え、ちょ、ちょっと待ってください」 三亜の問題発言に俺と橘が思わず食いついて足を止める。 庚のフォロー?反省文?そんなの聞いてないし閉会式で生徒会が揃うまでリコールの話は待ってもらえるはずだ。閉会式で発表があるなんて聞いていない。 「今から六時間程で庚を説得できるとでも?五月からずっと何も出来なかったお前らが今更生徒会を戻せるわけないだろう」 「まだ、六時間、ある」 「そんな状態ではもう今日は何も出来ないだろう。お前も皇家ならみっともなく縋らず腹をくくれ」 ぐったりとしていた二亜が暴れようとするので、俺は橘に言って抱えていた腕に力を込めてもらう。 よし、若干意識が飛びかけているが大人しくなったな。 「橘くん、そのまま救護所に会長を運んでください。先生もそちらで待っているはずです。私は委員長と少しお話しますので」 「分かった。委員長。嫉妬するともよかけど、あんま副会長虐めとったら口きいてもらえんくなるけんね」 橘はガンを飛ばしながら三亜にそう言い残すと、二亜を抱えなおして救助へ走り去って行った。 体育祭は今のところ問題なく進んでいるようだ。グラウンドの中央で必死に大縄跳びをする生徒を見つめながら、俺は口を開く。 「約束が違います」 「だったら残り時間で庚を戻せるとでも?あいつはもう辞表を出しているんだぞ」 「え……」 俺は驚いて三亜に顔を向ける。庚が既に辞表を出しているなんて聞いてない。出すとしたら二亜に渡しているはずだ。 つまり、あいつは庚が辞める意思を見せていたことを知っていたのか? 「あいつが突っ撥ねたから俺のところに流れてきた。庚の辞表は俺が管理している」 「受理印は生徒会長しか押せません。あなたが持っていても仕方ないでしょう」 「ああ、だがそれがあればリコール発表の反対組の主張は多少なりとも押さえつけられるだろうな」 庚以外が戻ってきたとはいえ合羽の件で生徒会に不信感を抱いている者はまだ少なからず残っている。 合羽に対しての反応もそうだ。皆、二亜を支えていた合羽に対して良い感情は抱いていないように見えた。 あそこで反発や騒ぎにならなかったのは二亜の親衛隊長のおかげだろう。彼が冷静だったからこそ、皆あれで済んでいたのだ。 「……それに、リコールは悪い話ではない」 そう言って三亜が含みを込めて俺に笑みを向ける。 どういうことだ。 俺が眉を寄せると、三亜は間を開けてからゆっくりと口を開いた。 「リコール後、次の生徒会長に風紀委員会はお前を推薦する」 「は……」 三亜の言葉に俺は口を開いて固まった。どういうことだ。 「そもそも、お前は生徒会長選挙で生徒会長候補に選ばれていたが二亜に敗れ副会長のポストを与えられた身だ。元々は生徒会長の座を狙っていたのではないか?」 「それは」 確かに俺は、生徒会長選挙で人気投票から生徒会長候補として選ばれていた。だが最終選挙で二亜が選ばれ、俺は二位に与えられる副会長の座に落ち着いた。 いつの間にか副会長に選ばれてたなんて嘘だ。誰だって一番がいいに決まっている。あの時はすごく悔しかったし、だからこそ二亜をライバルとして意識していた。 カリスマだけで学園のトップに選ばれた皇二亜。能力値で言えば絶対俺の方が生徒会長に相応しいという自負もあった。 そんな思いが少なからずあったせいで、三亜の言葉に反応が遅れてしまう。 「揺らいだな。まだ生徒会長の座は諦めていないということか」 「い、いえ、そんなことは」 「俺もお前の方が生徒会長に相応しいのではないか、学園のトップに適しているのではないかと思っている」 俺は返事の代わりに三亜を睨みつける。 確かにそう思うことは何度もあった。だが、こいつがそれを口に出す理由が分からない。 「何を考えているのですか」 「これに関しては下心も何もない。純粋に俺と業務上相性が良く、学園をより良くするために適切である人物を思い浮かべたらお前だっただけだ。他に相応しい人材がいればそちらを選ぶ」 三亜の言葉に嘘はないようだ。確かにあの反抗心丸出しの二亜を比べれば俺の方が扱いやすいのだろう。 俺は少し迷っていた。感情面は置いておいて、生徒会長の椅子は魅力的だ。この学園では誰もが憧れ、夢を見る。 生徒会長にもなれば進路にも大きな影響があると聞く。生徒の自主性を重んじる校風から、生徒会長をやり遂げられる生徒はそれだけで優秀だと評価され、就職先も大学先も思いのままだと。 一流企業に就職することが出来れば、流石に親も家業を継げと言われることはない。会社員になれば、きっと十瑠だって結婚にオッケーしてくれるはず。 二亜の馬鹿気た提案なんか無視して、十瑠と一緒になれる可能性がある。 「閉会式までに庚を説得し副会長のままでいるか、大人しくリコールを受け入れ生徒会長になるかはお前次第だ。好きにすればいい」 三亜から与えられた新たな選択肢は、俺の心を動かすには十分だった。 見回りから戻ってきた風紀委員の元に行く三亜の背中を見つめながら、俺は迷っていた。 [ ←back|title|next→ ] >> index (C)siwasu 2012.03.21 |