「なんやねんな、もう」 訳が分からへん。俺が合羽と過去何かあったのまでは把握していたが、庚とも亀裂を生むようなことがあったのは初耳だ。 生徒会の皆が合羽に引っ付いて業務をサボっていた時、あいつだけは合羽と行動を共にしながらも業務をサボるようなことはしなかった。今の俺のように持ち帰れる分は持ち帰って、無理な時はわざわざ下校後校舎に戻って来てまで自分の仕事を終わらせていた。 だから俺はあの時、庚を見直していたのだ。まあ結局は来おへんくなったけど。 「いや、もしかして俺が何か言うたから来おへんくなった……?」 まさかそんな。当時のことを思い出すが全くあいつに失礼なことを言った覚えはない。むしろ、珍しく副会長としての俺が庚に感謝を伝えていたぐらいだ。 だが、そのせいで庚に恨みを買っているのだとしたら。じゃなきゃ庚があんなにも怒る訳がない。合羽の件だけなら、きっと間を取り持とうとしてくれていただろう。 えーと、思い出せ俺。そもそも戎が転校してきたのは、生徒総会後だった。一年の中で書記が最も忙しいイベントだというのに、双子がサボったせいで俺と庚があいつらの片付いていない資料をまとめていたはずだ。 だから俺は珍しく庚に珈琲を淹れて労いの言葉をかけ、庚も驚いていたが少し照れ臭そうにしつつ喜んでいた。 そう、確かにあの時、庚との距離は縮んだように感じた。だから俺も油断して、いつもは自分がしているゴミ捨てという雑用を押し付けてしまった。 もしかしてそのせいだろうか。あの時庚は変な質問をしていた。考えてみればあれから庚は生徒会室に来なくなった。 「やっぱ金持ちにゴミ捨てとか頼んだのがあかんかったんか……?」 ボールを両手に持って考えていると、不意に頭上から規則的な音が聞こえてくる。俺は音――ではなく、笑いを堪えている声のする三階の風紀委員室を半眼で見上げた。 「……何か知ってるんじゃないですか」 「知るか。それよりその見た目のギャップをどうにかしろ」 言われて自分の姿を見てみると、確かに優等生な見た目の男がサッカーボールを両手に持ってポツンと一人で立っている姿は滑稽だ。そもそもこの学園に来てから授業以外でサッカーボールなんて持ったことがないので、他の生徒が見れば何事かと思うだろう。 ……ああ、クラスで奇異な目を向けられていたのはそういう理由か。 「いいじゃないですか、サッカーボール。ボールは友達。というかもうボール以外の友達を作ることが嫌になってきました」 「ならボールに話しかけてみろ、何か言ってくれるかもしれないぞ」 揶揄ってくる三亜に俺はため息で返事する。三階なので届いているかは分からないが。 「転校生のことは会話から知っていたが、会計とまで喧嘩していたのか」 「全く身に覚えがないので一方的に恨まれていると言った方が正しいです」 そう言えば、窓から顔を覗かせていた三亜が俺を指さして笑みを浮かべる。 「どうせ転校生と似たようなすれ違いを起こしているのだろう。お前は気を付けていても無意識に出ることがあるからな」 「何が?」 眉を寄せると、三亜はそれ以上は教える気がないのかさっさと行けと言いたげに手を払う。 人の話を盗み聞きしてて失礼なやっちゃな。 「体育祭まであと十日だ。閉会式までに早く誤解を解いておくんだな。あと、準備委員会のローテーション表がまだこちらに届いてないぞ。今日中に提出しろ」 「げっ」 それは確か手の空いていた双子に頼んでいた仕事だ。 俺は時計を見ると、まだ昼休みが半分近く残っていることを確認して生徒会室へ向かった。昼休みは庚と俺以外は業務に追われてこもっているはずだ。もしサボってたら締め上げる。 だが、俺はすっかり手の中にあったサッカーボールの存在を忘れていた。 おかげで生徒会室に入るなり四人に大爆笑され使い物にならなくなったので、結局俺が泣きながらローテーション表を作りあげる羽目になった。 放課後合羽が迎えに来るまでの短い間、競歩で廊下を急ぎ橘に押し付けたせいで太ももが悲鳴を上げている。 サッカーボール、お前のせいだ。俺は体育倉庫に借りていたボールを蹴り入れて八つ当たりした。 [ ←back|title|next→ ] >> index (C)siwasu 2012.03.21 |