03


「お前、戎と知り合いなのか?」

 すっかり夜は人の部屋に居つくようになった二亜に声をかけられて、俺は眉を寄せながら振り返った。
 あれ以来合羽とは朝の登校から帰りの下校まで行動を共にしている。そのせいで生徒会の業務をする暇がなく、大事な書類以外は部屋に持ち帰って片付けていた。
 特に体育祭前ともあって、いつもの1.5倍はある仕事量に苛立ちを募らせているというのに、二亜はこともあろうかソファーで寝そべりながら漫画を読んでいるのだ。
 そろそろ追い出してもいいんじゃないかと思うが、如何せんこの男は部屋にあげないと扉の前で騒ぎ立てては生徒の注目を集める。
 噂に噂を重ねて最近では生徒会メンバー全員を調教した調教師という称号までついているので、これ以上余計な噂を立てられるぐらいならと仕方なく入室を許していた。
 蓮姫の次は調教師って何やねん。振り幅広すぎやろ。

「で、どうなんだよ」

 漫画をテーブルに置いて体ごとこちらへ向き直す二亜に、俺は集中力が切れてしまいため息をついた。

「小学校ん時の同級生やってん。俺がちょっとの間、千葉に転校しててな」
「……お前って小学生の時いじめっ子だったか?」
「はあ?んなことしてへんし。健全なサッカー男子やっとったわ。むしろ最初は方言のせいで俺がハブられてたぐらいやで」

 俺が弱い者を虐める悪ガキ大将に見えるんか。
 半眼で見つめると、二亜は頷きながら「だよなあ」と呟いた後考え込むように黙ってしまった。何なんだ、一体。
 これで話は終わったのなら業務を再開しようかと考えていると、顔を上げた二亜が俺を真っ直ぐ見つめてくる。

「お前、戎と一緒にいて昔のこと話さねえのか?」
「話したくても庚の奴が邪魔すんねんて。ほんま腹立つねんけどあいつ」

 そうなのだ。合羽と行動を共にする時、常に庚が隣にいる。そして俺が合羽と昔話に花でも咲かせようかと口を開くたびに別の話題を振ってきて誤魔化すのだ。
 合羽も合羽で小学生時代の話は避けたいのか庚の話題に乗っかるし。
 転校した時のことはまだ思い出せないし、何故庚があそこまで俺を敵視するのかも分かっていない。表面上は仲良くしているように見えて、その実裏ではギスギスいているのが現状だった。
 こういう腹の探り合いは好きじゃない。はっきりさせて俺が何か悪いことをしていたのなら謝罪したいのだが。
 俺の言葉に二亜は首を傾げてまた考え込むと、大きくため息を吐き出した。

「庚は戎がお前に裏切られて他の奴に虐められてたって言ってたぞ。心当たりはねえのか?」
「はあっ!?何それ」

 俺は目を丸くさせて声を荒げる。虐められてたなんて初耳だ。そもそも合羽を裏切った覚えもない。

「ちなみにこの話をお前にチクったらレイプ以上のことをするとも言ってた」
「あいつ……」

 全く凝りてない。むしろエスカレートしている。
 俺は頭痛を覚えながらも小学生時代の記憶を手繰り寄せた。
 関西に戻ることになって、その時は皆が寂しがってくれていた。サッカー部の連中もまたこっちに来ることがあれば一緒に遊ぼうと言ってくれた。
 合羽もその時は引っ越しなんて嫌だなんてわがまま言って……ん?
 俺はふとその時の違和感に気付いて固まった。
 合羽はサッカー部だった。サッカー部だったが、サッカー部の皆が金を出し合ってサッカーボールのキーホルダーをくれた時、あいつはその場にいたか?

「……あ」

 いなかった。サッカー部の連中の中に、合羽はいなかった。
 と、いうか思い返してみればサッカー部に誘ってくれたのは合羽だったが、あいつがサッカー部の皆と一緒につるんでいるところを見たことがない。
 合羽と俺が話すときはいつも部活のない日の放課後の教室だったり、昼休みの中庭が大半だ。部活動の間は合羽自身があまり話しかけてこなくて、あの時の俺はそれに小さな違和感を覚えていたのだ。
 もっと掘り返してみれば、合羽が俺以外と親しげに会話をしている姿を見たことがない。いつもあいつは一人で俺のところに突撃してきて、たまに俺が他のクラスメイトと話している時は遠巻きに眺めて輪の中に入ろうとしなかった。
 でもそれはしなかったのではなく、もしかして出来なかったのではないか。

「なんか思い出したか?」
「ああ、うん。今思えばあいつ、俺以外に友達おらへんかったなあって」

 あの時から既に虐められてた?いや、それなら流石に俺だって気付く。確かに除け者にされていたような節はあったが、合羽はあまり気にしてなかったように思う。これはあくまで俺から見た主観なので合羽自身に聞かないと分からないことだが。
 それに虐められたのは俺が裏切ってからのようだし。裏切った覚えはないけど。
 でもその可能性があるとするなら転校するって決まった時だ。あの時は折角できた友達とまた別れることになって俺も悲しかった。引っ越すって言ったらサッカー部の連中に泣きながら引き留められて、クラスメイトも皆悲しんでくれて、手紙くれた子もおって、合羽なんか関西まで追っかけてこようとした。
 サッカー部の皆が金出しあってプレゼントしてくれたサッカーボールのキーホルダー、クラスメイトが用意してくれた花束、告白と共に手紙をくれた子。引っ越す直前、家までおしかけてきた合羽。

「そうや、そういえば」

 俺は合羽が家までおしかけてきた時のことを思い出した。


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(C)siwasu 2012.03.21


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