01


「「一星が李九と一緒にいるって本当なのー?」」
「あ?んなもん見りゃ分かるだろうが」

 昼休みが終わって今は5限目の授業中。俺と同じクラスの双子は教師が出張で自習になってるためそのまま生徒会室で業務を続けていた。一星と橘は授業があるので昼休み終了10分前に教室へ戻っている。
 一星がいなくなった途端に話し出す双子は昼休み中ずっとそわそわしていたため全く業務が進んでいないようだ。俺のパソコンに全くデータが届いていない。お、ようやく一つきた。
 一星が実はSM女王様だったって噂が流れてから一週間。噂は質の悪い悪戯ということで収束したが、今度は一星が戎と行動を共にしだしたことで学園内はざわついている。
 一緒に登下校だけではなく、昼は食堂で仲良く飯を食ってる姿を見れば流石に皆気付くだろう。会長から転校生に乗り換えたか?とまで言われる始末だ。

「なんでなんで?李九とばっかり遊んでる僕たちを生徒会に戻そうとしてたんでしょ?」
「なのになんで今度は一星と李九が遊んでるの?」
「お前らと一緒にすんな。あいつは毎日自分の業務を終わらせている」
「「自分だって人のこと言えなかったくせに」」

 本当にああ言えばこう言う。半眼で見つめる二人の頭上に拳を落として黙らせると、俺は会計――庚の業務を進め始める。計算系は苦手なんだよな。前にミスしてから適材適所だと一星が代わりにやっていたので、正直ここからが辛い。
 今の一星は戎と登校した後そのまま始業ギリギリまで生徒会にこもり、昼休みは戎と食事を済ませた後十分ほど作業して、放課後はまた一緒に下校して、寮で持ち帰っても問題ない分を終わらせている。
 正直かなり無理をしているだろう。だが、俺が口を出すのも手を出すのも駄目だと言われたので大人しく見守るしかない。
 一応夜は生きているか確認するために部屋行ってるけど。ついでにほんの少しだけちょっかいかけてるけど。
 最近は慣れたのか後ろから抱き着いても無反応でパソコンを睨んでいるので面白くない。だが、そこで首でも舐めようものなら躊躇なく顔面に肘が飛んでくるので抱きしめるだけで我慢してるが。
 前のように拒絶されず部屋に上げてくれるようになっただけ進歩していると思っていいだろう。十瑠にも言われたし。
 これは夜居つくようになってから知ったことだが、一星は十瑠に毎日欠かさず連絡しているらしい。今日会ったことを報告し合い、主に一星が一方的に十瑠に愛の言葉を囁き、就寝まで話し続ける。
 遠距離恋愛でも流石に毎日はないだろ、と思っていたがこいつらにとっては当たり前の日課のようで、それが余計にムカつく。
 俺が居座るようになってからもそれを欠かすことはない。ただ、戎の件で帰宅後も忙しくなった一星は、音声だけ繋げて十瑠に話しかける頻度が減ってきた。元々無言でお互い本を読むこともあるらしいのでそれは問題ないのだが、今は俺もいる。そしてそれを男同士の恋愛に命を懸けているらしい十瑠が見逃すはずなく、一星の業務中は専ら俺が話し相手になっていた。
 話していけば自然と打ち解けもする。いつの間にか俺は一星の彼女である十瑠にどうすれば一星を口説き落とせるかという相談をするようになっていて、十瑠もそれを真剣に考えてくれるようになっていた。色々と言いたいことはあるがここは冷静になった方が負けだ。何も考えてはいけない。
 勿論その話を聞いている一星は最初こそ口を挟んできたものの、最近ではもう好きにしろと言いたげに放置している。まあ噛みつく度に自分の彼女から「ムキになるってことはやっぱ会長のこと好きなん?」と言われれば心も折れるだろう。一星に同情する気持ちもあるが、だからといって諦めるつもりはない。むしろ、感情は膨らんでくる一方で、彼女がいようが結婚してようが一星に少なからずその気があるのなら絶対自分のものにしたいと思っている。いや、結婚は流石に駄目だけど。不倫する女に肩入れするつもりはない。十瑠から一星を奪おうなんて気持ちもない。ただ、俺のことも十瑠と同じぐらい好きになって欲しいだけだ。何故日本には一夫多妻制がないんだ。

「会長は嫉妬しないの?」
「もしかして捨てられたとか」
「無駄口叩く前にさっさと自分の仕事終わらせろ」

 捨てられてはいない。それ以前に拾ってもらってもいないと少し悲しい気持ちを覚えながら、俺は庚の分の業務を進めていく。
 会計の仕事は、書記よりも圧倒的に多い。今までサボってた分を取り戻そうと頑張ってくれているが、フォローしてるとはいえ橘一人ではやはり無理がある。
 一層庚を辞めさせて新しい会計を探すべきかとも思うが、体育祭と文化祭が終わった後はすぐに生徒会選挙が始まる。その間代役を立てて一から教える時間も無ければ効率も悪い。結果的に生徒会の機能を万全にしようと考えれば、どうしても庚には戻ってきてもらう必要があるのだ。
 庚は同じクラスだが授業にもろくに出てないようだ。いくら生徒会免除があるとはいえ、このままだと出席日数が足りず留年という問題もある。
 俺は大きくため息をついた。駄目だ。やっぱ待つのは性に合わねえ。
 パソコンを閉じると、机の上を整理して扉に向かう。

「あれ?」
「どこ行くの?」
「庚のところ。お前らは放課後までに早く書類提出しろよ」

 そう言って生徒会を出ると、俺は迷わず職員室に向かった。


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(C)siwasu 2012.03.21


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