04


 庚の言葉に合羽は眉を下げて唇を尖らせる。

「え、でも俺、もっと一星と話したい」
「これからいっぱい話出来るじゃん。ねえ、副会長〜?」

 厭らしい視線を送ってくる庚に俺は渋々頷く。それを見て合羽は嬉しそうに微笑むと、近付いて両手を握りこんでくる。

「じゃ、じゃあ明日昼飯一緒に食わないかっ!?」
「いいですよ」

 俺の返事に満足したらしい。合羽は少し俯いて何度も「そっか、そっか、また一星といれるんだ」と呟いて顔をほころばせる。昔はヤンチャな元気坊主って感じだったのに、成長と共に色気が増したのか頬を染めて緩ませる表情はなるほど、下手な女性よりよっぽど可愛い。いっちゃん可愛いのは十瑠やけど。

「俺、今度こそ一星に認めてもらえるように頑張るからな、親友になれるように頑張るからな!」
「はぁ」

 これだ。合羽は何故か俺と友情を育むことに異常な拘りを持っている。小学生は懐かれていたとはいえこんなにも必死な感じではなかった。やはり俺の思い出せない記憶で何かあったとしか思えない。
 ようやく俺と話すことが出来て満足したのか、合羽は頬を緩ませながら寮への帰路につく。
 一先ず今日のところはこれ以上探ることは厳しいだろう。スキップしている合羽の背中を見つめながら俺も足を踏み出すと、隣でこちらを無感情に見ている庚が視界に入った。

「貴方は生徒会に戻る気はあるんですか?」

 双子は二亜に便乗して、橘は博多弁をバラされないために生徒会の業務を放って合羽と行動を共にしていた。
 だったら庚はなんだ。俺と合羽の問題を解決するためなら、もう和解は出来た。ならば庚が生徒会をサボる理由はないはずだ。実際、俺がいない間は戻っていたようだし。
 純粋な疑問をぶつけてみると、庚は目を丸くさせて固まった後、頬を引きつらせて笑った。

「はは……副会長、あんなことされたのにまだ戻って欲しいとか思ってんの」
「ええ、まあ。戻さないとリコールするって言われているので」

 素直に答えれば、庚は眉を寄せて苛立ちを露わにする。

「ばっかじゃないの、普通は怒って顔も見たくないでしょ。副会長ってお人よし〜?」

 挑発するような口ぶりに、俺はため息をついた。

「いえ、怒ってますよ。今すぐ庚くんの顔面を誰にも相手にされない程この手で整形してあげたいですし、股間のものを切り取ってその口に押し込みたいぐらいです」

 俺の言葉に、そんなことを言うキャラではないと思っていたのか庚が先程とは違う意味で頬を引きつらせる。
 怒らへんわけないやろ。めちゃくちゃ怒っとるっちゅうねん。
 ただ、今怒りに任せて報復してもこの状況が全て解決されるわけではないし、どうせボコるなら生徒会室という俺の味方以外目撃者がいない密室空間で気が済むまでボコりたい。そう、とにかく最終的にボコるってのは俺の中で決まっている。
 そんな感情をなるべく表に出さないよう真っ直ぐ庚を見つめていると、気まずくなってきたのか庚が合羽を追いかけるように歩みを速める。俺はその横に並びながら、嫌がらせとばかりに庚を見つめ続けた。

「もしかして俺がいないから生徒会が機能しないとか?だったら俺以外の役員はよっぽど無能なんだね〜」
「いえ、貴方がいなくても問題ありません。おそらくリコールはけじめをつけろということでしょう。ですが生徒会を辞めてしまうと、学食が無料ではなくなります」
「はあっ!?そんな理由で」
「どうしたんだ五華?」

 突然の大声に合羽が振り返って首を傾げる。庚は笑って誤魔化しながら、また合羽が前を向いた瞬間俺を睨みつけて小声で話しかけてきた。

「西崎、ふざけんのもいい加減にしろよ。そうやってすぐ人を馬鹿にするからてめえは孤立したんだ」
「おや、それが庚くんの素ですか。とても柄が悪いですね。間延びした頭の悪い話し方よりはずっと好感が持てます」
「ッ」

 逆上しそうになったのか、拳を握りしめる庚を見て俺はなるほどと心中で頷いた。昨夜二亜から聞いた庚の話はあながち間違っていないようだ。

『あいつのことは幼稚園児の頃から知ってるけど、元々キレやすい性質だから気をつけろよ。中等部の途中ぐらいからあんなヘラヘラしたキャラに変わったけど……生徒会室の机の下見りゃ分かるが、根は変わってねえみたいだからな』

 その時は隙あらばセクハラをかましてくる二亜の言葉を全て受け流す態度だったから話半分に聞いていたが、今日念のために見てやったとも、庚の内側から蹴られ続けて歪んだデスクを。
 庚は怒りを飲み込んでいるのか肩を震わせて大きく息を吐いた。

「じゃあ、俺がいなくても生徒会が問題なく機能するなら、戻る必要は副会長の個人的なメリット以外にないわけだぁ?」
「そんなことありませんよ。皆心配してます」
「副会長、嘘ならもっと上手につきなよ〜」

 カラカラと笑いながら、庚は逃げるように合羽の隣に小走りで向かった。これ以上会話をするとボロが出そうだと思ったのだろう。
 今まで表面上の付き合いでしかなかった生徒会役員だったが、こうしてみると皆個性の塊のような面子だ。歴代生徒会は癖が強いことで有名だったが、あながち嘘ではない気がする。
 隣に庚が来たことで俺が後ろで寂しい思いをしているとでも思ったのか、合羽が手招きするのでため息をつきながら近づいていく。
 当分こいつに引っ付いて、俺と合羽に過去何があったのか聞きだしつつ庚を説得する方向で攻めていくしかないか。
 明日からまた周囲が騒がしいことになりそうだ。


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(C)siwasu 2012.03.21


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