03


「一星!」

 駆け寄って抱きしめてくるカッパ巻きを冷めた目で見ながら、俺はその後ろからのんびり歩いてくる庚を睨みつける。
 放課後、呼び出しに応じた二人と人気の少ない校舎裏で待ち合わせした。人気が少ないとはいえ、この場所は例のカウンセリング室の窓から見える場所だ。きっと三亜ホモも俺たちに気付いているだろう。保険はかけておいて損はない。

「やっと一緒におってくれるんやな」
「戎くん、その、少しお話が」

 腰に手を回しながら嬉しそうに満面の笑みを浮かべるカッパ巻きに、俺は歯切れ悪く口を開きながら庚に視線を向ける。

「なに?俺は空気だから気にしないで〜」

 席を外す気はないってことか。
 内心で舌打ちしながら俺はカッパ巻きを見下ろす。分厚い眼鏡に鳥の巣かとツッコミたくなるようなぼさぼさの髪。昔の記憶を引っ張り出してもやはり見覚えはない。

「あんな、俺、一星に認めてもらえるようにめっちゃ頑張ったんやで」
「そうですか」

 頬を染めるカッパ巻きに適当な相槌を返しながらどう話を切り出そうか思考に浸っていると、突然眼鏡をひったくられる。

「ちょっ」
「一星にこんな眼鏡似合わへんって!話し方も!それよりまた前みたいにサッカーしようや!」

 屈託ない笑顔とその言葉に俺は確信する。

「……君、もしかして合羽君ですか?」

 俺の質問にきょとんとした表情を見せるカッパ巻きは、何か思い出したように手に拳を置くとぼさぼさの髪に手を突っ込みだす。

「そうだ、こんなん付けとったら分からんよな」

 そう言ってピンを地面に落としていくと、眼鏡と髪を乱暴に叩きつけた。現れたのは、先程までの見た目と正反対の金髪美少年だ。

「ほら、中学入ったら一緒に金髪しよって言ってたじゃん?一星黒いままやねんもん、俺だけとか恥ずかしいわ」
「随分……変わりましたね」

 昔の記憶より大分整った顔になっているが間違いない、合羽だ。目尻にある縦に並んだ黒子には覚えがある。
 確かに俺も中学に入った時髪を染めたが、十瑠に似合わないと言われてすぐやめた。そんなこと知らない合羽は頬を膨らませて俺を見上げる。

「俺、めっちゃ一星探したんやで。また友達になってくれるやろ?一緒にテッペン目指してくれるんやろ?」
「あ、え、ええ、その……テッペン、とは」

 ついていけない合羽の言葉に俺は首を傾げる。合羽はショックを受けながら数歩後ずさると、大袈裟に両手を広げた。

「漫才のテッペン!俺らで目指そう言ったじゃん!だから俺、ずっと関西弁練習してたのに……してたんやで!」
「……あ」

 思い出した。
 なんでもない放課後、どうでもいい会話。暇つぶしに将来の話をしていた時、ノリで合羽と漫才でコンビ組もうぜって話をしたことがある。俺は冗談のつもりだったが、こいつは本気にしてたってことか。

「すみません、あれは冗談のつもりで」
「ええっ!そうやったん!?」
「リク可哀想〜」

 少し離れたところで傍観していた庚が煽ってくるが、俺は聞き流してカッパ巻きに頭を下げる。カッパ巻きはあまり気にしていないのか「そっか〜、俺の勘違いだったんだ」と標準語に戻すと照れ臭そうに頬をかいた。

「でもこれからはまた昔みたいに仲良くしてくれるんだよなっ」
「それなのですが」

 屈託なく笑うカッパ巻きに俺は言葉を濁す。昔と今じゃ全然環境が違う。もうサッカーはやってないし、この学園では副会長を演じているためふざけ合うことも出来ない。俯く俺に、カッパ巻きは理解が出来ないと喚きだした。

「なんでだよっ!やっぱり生徒会に入ったからか?一星がそんな話し方するのもそのせいか?だったら生徒会やめればいいじゃん!!」

 煩い。あからさまに眉をしかめると庚が睨んでくる。
 事情は分かった。要するにカッパ巻き――合羽は、俺と友情を育み小学生の頃の約束を果たすため俺を追っかけてこの学園に来たというわけか。だったら最初からそう言ってくれればいいのに、何故こうも回りくどいことをするのか。庚が俺を敵視している理由もまだ分からない。

「生徒会の皆を引き離せば一星も目を覚ましてくれるだろうって俺、頑張ったのに」

 生徒会の連中を連れまわしてたのはそれが理由か。逆効果や、むしろ余計なことをしてくれたせいで結果的に処女喪失までしてもーたし。……あ、つまりこいつも元凶の一人か。なんか腹立ってきた。

「苗字が違うのはご両親に何かあったのですか?」
「へ?あ、ああ、うん。離婚したから母ちゃんの方についてった」
「変装していなければもっと早く気付けたかもしれないのに」
「だ、だってこの学校、ホモが多いから俺なんかすぐレイプされちまうって五華が言うから」
「……私のことも庚君から?」
「うん!最初話聞いた時、同姓同名の別人かなって思ったけど写真見てすぐ分かった!」

 お前を見間違うわけねーよ!と言う合羽は知りたい情報を次々と教えてくれる。どうやら庚と合羽は学園外で知り合いだったようだ。だから最後まで合羽から離れなかったわけか。

「その、合羽くん。私が転校した時、合羽くんは――」
「リク、感動の再会も分かるけど今日はそれぐらいにしておいたら?」

 自分でも記憶が曖昧な転校当時の話も聞けるかもしれない。俺は続けざまに質問しようと口を開くが、タイミング良く庚の言葉が被ってくる。これはワザとやな。


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(C)siwasu 2012.03.21


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