「副会長様おはようございます!どうかその薄い唇から私めに豚野郎と囁いてはいただけませんか」 「おはようございます。次私の前に現れた時は豚の餌にしてあげますね」 「やあ西崎くん、ペットを募集してないかい?」 「そうですね、では保健所の犬を引き取るので代わりに先輩が処分されてください」 「西崎様、僕はいつでも貴方様の奴隷になる準備が出来ております!」 「では卒業するまで裏庭の雑草を引き抜いておいてください」 代わる代わる現れる先輩や同級生の猛突進を交わしつつ、俺は無心で生徒会室を目指す。大丈夫、何も見てない、誰とも会ってない。 視界に映るもの全てを遮断しながらようやく生徒会室のフロアに辿り着いた俺は、安堵の息を共に体を硬直させる。目的地の扉の前、数人の男が見えるのは気のせいだと思いたい。慌てて踵を返そうとするが、その前に男たちが声を張り上げた。 「あ、西崎様がいらしたぞ!」 「副会長様、僕の方が会長よりも上手く鳴いてみせます!」 「西崎くん、それより屈強な俺の方がいたぶり甲斐があると思わないか」 「副会長様!」 「西崎様!!」 きっっっっっ、キモイ!!!!! 顔面を蒼白にさせながら俺はその場から逃げると職員室に駆け込んだ。 流石にここまでは追ってこないのか静かになった廊下に一息つくと、俺に気付いた高齢の教師が手を上げてくる。 「おはよう、西崎くん」 「先生……おはようございます。ご挨拶もせず入室してしまい申し訳ありません」 「まだ僕しかいないから気にしなくていいよ。それより君、すごい噂だね」 「は?」 「クールで知的に見えて実はSMが好きな女王様なんだって?生徒が話してるのを聞いてビックリしちゃったよ」 「……は???」 ちょっと待て。……ちょっと待て。 何がなんだか分からない状況に俺の頭は混乱を極めた。確かに先程二亜の親衛隊から注意しろと言われたが、女王様キャラの話は聞いてない。いや、もしかしたらあいつらも知らないのかもしれない。 「先生」 「ん?」 「ホームルームが始まるまで、ここにいてもいいでしょうか」 説明せずとも察してくれたのだろう。この学園で教師は生徒よりも権力が弱いが、それでも教師であることに変わりはない。結局隣のクラスの担任だった先生は、俺を教室まで送り届けてくれた。教室に入ると俺の姿を見て生徒がざわついたが無謀にも突進してくるような生徒はいない。俺は休憩毎に訪れる先輩たちをかわしながら、昼休みのチャイムと同時に脇目も振らず生徒会室へ逃げ込んだ。 「なっんやアレ!何やアレ!!」 「おい、どうかしたのか」 扉の前でしゃがみこんだ俺は叫びながら頭を抱える。授業に出ていなかったのか、業務に没頭していた二亜が俺を見て眉をひそめた。 「つかお前、鍵置いていかなかっただろ。寮長に頼んで閉めてもらうのかなり面倒だったんだぞ」 「んなことどうでもええわ!!!」 最早二亜の問題は二の次だ。昨日の記事でネコと勘違いされたのは分かる。不本意だがあの写真はどう見ても俺が女役だと言ってるようなものだ。だがSM好きの女王様という情報はどこから出回ったんや。 唸っていると、後ろの扉が開いて双子が入ってきた。 「あ、一星遅いよ。朝から確認したいことあったのに」 「ていうかなんでそんなとこでしゃがんでるの?」 俺の姿を見て不思議そうに首を傾げる二人を見て俺は一瞬こいつらか?と疑った。いや、こいつらならもっと幼稚な噂になるはずだ。例えば小学校高学年までおねしょしていたとか。 「そういえば一星っていつSM好きの女王様になったの?」 「会長掘って目覚めちゃった?」 よし、こいつらはシロ。拳骨で黙らせながら俺は自分の席に座ると机に顔を突っ伏して休憩する。 「おい、なんだよ女王様って」 双子の会話を聞いていた二亜が食いついてきたが俺かて知らんわ。もうほんま、昨日からなんやねん。 「なんかね、五華くんが言ってたよ」 「副会長って本当はSM好きで勃起した〇〇〇を縛って馬乗りになるのが好きだって」 「しゃせーかんり?だっけ?」 「そうそう、新しい奴隷をさがしてるって」 はい、犯人見っけ。 怒りのまま机の端にあったペン立てからボールペンを取り出して何度も机にぶっ刺す。 「んだよそれ。馬鹿馬鹿しい」 「でもそういうの好きな一部の人たちが興奮してるみたいだよ」 「蔑まされながら副会長に〇〇〇を扱かれたいって」 頼む……お前ら……そんな可愛い顔で○○〇とか言わんとって。俺の心が死ぬ。 二亜が不愉快だと言わんばかりの声で「馬鹿馬鹿しい」とため息をつく。 「こいつは女王様どころかイきっぱなしのドい――って危ねえな」 「次は外さん。確実に仕留める」 二本目のボールペンをダーツのように持ちながら俺は二亜の頭に照準を定める。 「冗談に決まってんだろ。それより庚の奴、あからさまになってきたじゃねえか」 「なりふり構ってられへんねやろ」 強姦が未遂に終わったことで計画が変わったのだろう。昨日の会話から推測するに、どうにかして俺をカッパ巻きに差し出したいようだ。これはもう逃げてる場合じゃない。一度話し合いを設ける必要がある。 何か言いたげな視線を送ってくる二亜を横目で見ながら俺は口を開いた。 「自分のことは自分でどうにかするからお前は自分の仕事に集中しとけよ」 「分かってる。守らせろって言ってもどうせ大人しくしてくれねえしな」 肩をすくめながら頭を掻いて自分のデスクに戻る二亜は俺が無茶なことをしないと信じている。胸中で感謝しながら、俺は携帯を取り出すと生徒会のグループメッセージから庚の連絡先をタップした。 [ ←back|title|next→ ] >> index (C)siwasu 2012.03.21 |