01


 翌日。俺は校舎裏――ではなく、空き教室で囲まれていた。俺を睨む生徒たちに見覚えはないが、心当たりはある。どちらかと言えば中性的な、所謂可愛い顔の集団は後ろの気配を感じて一歩下がった。代わりに前に出てくる生徒は細身で綺麗な近付きがたい雰囲気を持つ生徒会長の親衛隊長だ。噂にはよく聞いていたが直接対面するのは初めてな俺は、確かに綺麗な子だと感嘆を漏らす。

「お呼びした件は分かっていると思いますが」
「ええ、そこまで馬鹿ではありませんので」

 答えると、鼻を鳴らして小さく笑う。顔はいいけど性格悪そうやなあ、こいつ。一生相容れなさそうな相手に俺は内心で舌打ちする。
 昨日は夕方になってようやく親衛隊長から逃げきれたらしい二亜が不機嫌そうに生徒会室に来ると、俺の首を見て更に機嫌を損ね危うく部屋に乗り込まれるところをなんとか鳩尾に蹴りを入れることで撃退した。
 ……と思ったのだが、扉を叩きながら騒ぐ二亜に同じ階の役員持ちが何事だと顔を覗かせ、放っておくと騒ぎになりそうだったので慌てて部屋に招き入れた。視界の端でニヤニヤ様子を眺める三亜ホモが見えたが反応しないよう平常心を努める。
 そしてしつこく何もなかったのか聞いてきたり絡んできたり好きだ好きだと言ってくる二亜に飯を食わせ風呂に入れ寝室に押し込んだ俺は、寝室の扉にバリケードを置いてソファーで就寝。起きたら二亜に抱きしめられながらベッドにいたので思いっきり顔面を踏みつけてそのまま登校してみればこの状況に至る。二亜の手前下手な行動は出来ないだろうと踏んでついてきたが、予想は間違っていないようだ。これ以上会長に近付くなとかネチネチ嫌味ぐらいは言われそうだが。親衛隊長がわざとらしくため息を吐いた。

「本日は忠告に来ました。今後なるべく一人で行動するのはお控えください」
「分かっています、必要以上に会長とは……は?」

 脳内で用意していた台詞を吐いてから親衛隊長の言葉が予想外のものであったことに気付き目を丸くする。
 そんな俺を小馬鹿にしたような笑いは、次いで真っ直ぐ結ばれた。

「先日の記事を見て生徒たちは副会長様が実はネコだったと騒いでおります。特に3年の先輩方は鼻息を荒くしてますので十分ご注意くださいますよう」
「あ、え、ちょっと待ってください」

 まくしたてられた言葉を理解しきれず俺は脳内で整理する。昨日から思考続きの頭は既にパンクしそうだ。

「あ、貴方たちは牽制に来たのではないのですか?」
「何の牽制ですか?あまりにも不釣り合いなあの転入生ならともかく、見目麗しく優秀な副会長様相手でしたら我々も安心して会長をお任せできます。そもそも今年度に入ってから会長が副会長様にアプローチを繰り返しているのは皆知っております。むしろようやく付き合ってくださったと喜んでいますよ」
「いえ、付き合ってませんから。付き合ってませんから」

 必死で否定するも親衛隊は無反応だ。あかん、これ信じてない。俺としてはむしろ反対して欲しかったんやけど。

「だったら何故皆さんそんなに怖い顔をされているのですか」
「それは副会長様を狙う蛆が増殖したというのに副会長様が人の少ない早朝にのこのこ登校してきたからですよ。警戒心がないにも程があります」

 俺を睨んだまま揃って頷く親衛隊を見てそれはすまないことをしたと素直に謝罪する。会長の顔だけシンパだと思っていたが思ったよりまともな集団だったようだ。

「さて、それでは本題に入りますが」

 え、今の本題ちゃうかったん?
 俺の前に出て髪に触れてくる親衛隊長に内心怯えていると、親衛隊長は目をくわっと見開いて俺を睨みつけてきた。

「何です、この髪は。ちゃんとトリートメントされてますか?それに肌も少し荒れています。役職柄悩みが多いのは分かりますが最低限のケアぐらい就寝前に5分あれば出来るのですから怠るような真似はおやめください。それに眼鏡、レンズの端が汚れていますよ。この眼鏡拭きで今すぐ磨いてください。あぁ、あと前々から気になっていたのですがお付けになっているピアスは少々派手すぎて副会長様に似合っておりません。もう少し落ち着いた色合いのものに変えてください。会長のお隣に立つのでしたら完璧かつ清潔なお顔を維持していただきませんと我々も……って聞いておられますか?」
「すみません……ちょっと既視感が」

 生徒会の親衛隊は皆こうなのか。
 親衛隊長の情報が主に郡からだった時点でもう少し疑うべきだった。性格が悪く潔癖だとは聞いていたがただの同族嫌悪だろう。まだ続きそうな話を生徒会室に用事があるからと逃げた俺は、二度と二亜の親衛隊長に近付かないようにしようと心に決めた。

「まあ警戒心を〜って言っても生徒会室におれば何の問題もないし」

 生徒会室なら一般生徒は入れないし、庚に注意していればいいだけだ。
 そう思いなるべく最短ルートで生徒会室に向かっていると、目の前から駆け寄ってくる生徒を見つけて立ち止まる。

「西崎くん!どうか僕の体をその足で踏みつけてほし……ッ」
「おはようございます、先輩。すみませんが気持ち悪いので二度と顔を見せないでください」

 俺はそのままスライディングで倒れこむ先輩を避けると早歩きでその場を立ち去る。後ろから今のでイったとか聞こえてきたけど無視や無視。
 ていうか今の何!?


[ ←backtitlenext→ ]


>> index
(C)siwasu 2012.03.21


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -