09


 体をうずうずさせながらカッパ巻きを見ていると、後ろからせき込む音が聞こえる。振り返れば三亜が半眼で俺を見つめていた。

「ここにずっといてもらうのは歓迎だが、そろそろ他が騒ぎ出すんじゃないか?」
「はっ」

 忘れてた。時計を見れば生徒会室を出て一時間以上経過している。これはマズい。カッパ巻きは気になるが今は早く戻る方が賢明だとカウンセリング室を飛び出せば、何故か風紀委員に取り押さえられてる橘がいた。どうやら心配して真っ先に来てくれたらしい。

「副会長に何もしとらんちゃろうな?あ?」
「むやみやたらに聞かせていい話じゃなかったからな。勿論手は出してないぞ」
「ならいいっちゃけど……あっ、首!」
「手は出してない」
「屁理屈やろそれ」

 仮にも風紀委員長なのに全く物怖じせずガンを飛ばす姿は流石博多のヤンキー。血気盛んなところは衰えていないらしい。
 突っかかってくる橘に向かって手を払う三亜ホモのあしらい方もかなりいい加減だが、仲が悪いわけではないようだ。なるほど、これが普段風紀委員を相手にしている時の橘か。

「ほら、わんわん。もういいので行きますよ」
「わんわ……ッ!俺は犬じゃなか!」

 犬扱いされたことが恥ずかしかったのか顔を赤くさせる橘に風紀委員たちが吹き出している。放っておくと喧嘩を売りに行きそうだったので、俺は橘の手を掴むと三亜ホモに頭を下げて風紀委員室を退出した。
 ついでに十瑠にも連絡をしておく。

「迎えが橘君で助かりました。他の面子だと厄介ごとしか持ち込まないので」
「……別に」

 生徒が通る廊下で俺たちは役員としての仮面をかぶりながら生徒会室に向かう。すっかり俺たちの姿に慣れた生徒たちは、目が合うと首元のガーゼを気にしながらも会釈してくれるので、俺も手を上げて挨拶を返す。橘も後ろで小さく会釈を返すと、珍しさに歓声があがった。今まで挨拶されても無視を通していた橘が俺とつるむようになってから愛想が良くなったと、生徒たちの間では好感度が上がっているようだ。

「その調子ですよ橘君」
「……うざ」

 俺にしか聞こえない声でそう呟く橘。額に青筋を浮かべながらも俺は笑顔を絶やさぬよう生徒会室に入ると、扉を閉めてから庚がいないことを確認して大きなため息をついた。

「許すいうてもやっぱ腹立つわー」
「これでも副会長には感謝しとるとよ?」
「そう、その上目線なところな」

 半眼で睨みつけながら視界の端で双子が駆け寄ってくるのを見つけると、手で制して素直に止まった二人の頭を撫でる。

「大丈夫だった?」
「虐められてない?」
「それ怪我したの?」
「委員長がしたの?」
「大丈夫、大丈夫やから。二亜はまだ来てないんか?」
「一応連絡したけど」
「もうちょっとかかるみたい」

 どうやら親衛隊長を宥めるのに手こずっているようだ。それなら丁度いいと、俺は三人を見回して口を開く。

「悪いけど、ちょっと仮眠室で考え事したいから今日のミーティング無しでもええか?」
「肝心の会長も来とらんけんな」
「いいけど……本当に大丈夫?」
「朝より顔色悪いよ、そのまま少し寝てもいいんだよ?」

 戻ってきてからずっと落ち着きなく俺の周りをくるくると動く双子はまるで子犬のようで思わず笑みが漏れた。本当に心配してくれているのだろう、優しさに感謝しつつまた頭を撫でてやる。

「あー……じゃあもし寝てたらそのままにしといて」
「鍵は?」
「二亜が帰ってくるかもしれへんからそのままでええよ」

 ホームルームも終わって今は一限目が始まる頃だ。俺は普段から優秀なので生徒会特権で授業を休んでも問題ないが、こいつらはそうもいかない。俺が気になるのか重い足取りを追い出すように見送って、仮眠室に入ると鍵を閉めた。流石に全部開けっ放しでいられるほど間抜けではない。先日の件を考えると尚更だ、ここは役員である庚も好きに出入り出来るからな。

「さて」

 仮眠室のベットに腰かけてようやく一人になれた俺はまず携帯を確認する。「無事ならオッケー☆」という十瑠の返事に胸が暖かくなるのを感じながら、三亜ホモのおかげで聞けた二人の会話を整理していく。
 どうやらあのカッパ巻きは俺の知り合いらしい。三亜ホモの言葉から推測するに小学生の頃、当時入部していたサッカー部に関連のある人物のようだが、あんな引きこもりオタクのような見た目をしたサッカー部員はいなかったはずだ。それに当時俺から絶縁宣言したような記憶もない。
 いや、でも関西に戻る時なんかあったような気がするんよな……。引っ越すって言ったらサッカー部の連中に泣きながら引き留められて、クラスメイトも皆悲しんでくれて、手紙くれた子もおって、追っかけてこようとした奴も……。

「……あれ?」

 ちょっと俺の記憶もう一回その辺り回想してくれへん???
 サッカー部の皆が金出しあってプレゼントしてくれたサッカーボールのキーホルダー、クラスメイトが用意してくれた花束、告白と共に手紙をくれた子、家までおしかけてきた奴……んんん????

「あれ?なんかちょっと思い出しかけてきたわ……」

 えーと、そうそう。俺がどんなに無視しても近寄るなオーラ出しても空気読まんと話しかけてきたアイツ……確か口癖はサッカーやろうぜ、の……そうや、中島や!

「ちゃう!それそいつの名前やない!!!」

 勝手に心の中でつけてたあだ名や、あだ名。本名は確か……かっぺ……かっちん……かっぱ……合羽……。

「そうや!合羽や!」

 かっぱと書いてあいばねと読むそいつは、皆からはカッパから派生したあだ名がつけられていた。
 サッカー部ではニコイチかってぐらい一緒というか合羽がずっと俺の後ろをついてきていて、鬱陶しいと思いつつもあまりに懐いてくるものだから邪険に出来なかった。
 俺が関西に帰るって時なんか誰よりも号泣して引き留められないなら一緒に行くとまで言ってたぐらいだ。
 ――でも合羽があのカッパ巻きと何の関係があるんや?


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(C)siwasu 2012.03.21


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