「ふ…ん、く…は、離せ…っ」 抵抗する西崎を余所に三亜は更に口づけを深いものへと変えていく。俺はまさかの展開に呆然とするしかなかった。 それにしても西崎だってそれなりに力はある筈だ。襲い掛かってきた不良を蹴散らした過去も聞いている。三亜ぐらい突き放すことは出来るだろうと考えたが、先程の西崎の顔を見て今はそんな体力も無いのかと納得した。 「あ、う…やめ…っ」 「おい、蓮姫様」 「…その名で呼ばないで下さい」 「他の奴等はどこに行った?」 「っ」 まぁ、そうなるな。 「あれもこれも、全てお前の判と字だ。書記は?会計は?あの馬鹿は?」 おい、誰が馬鹿だ誰が。 「…っ」 「あの噂は本当のようだな…。こちらでも今その内容にリコールの声が上がってきている」 「なっ!」 「当然だろう。機能しない生徒会を放置する程俺達も暇ではない」 (いや、それは困る) と言っても自業自得だから何も言えないが。俺は出ていこうかどうしようか悩んでいると、西崎が三亜にゆっくりと頭を下げていた。…お前、そんなキャラじゃねーだろ。 「…もう少し、待って下さい。彼等もすぐ戻ってく…っん」 また三亜の奴キスしやがった。次は舌まで入れてるらしい。驚いた西崎も抵抗しているが、全く効果がない。 「かの副会長様もキス一つで崩れるなんて落ち潰れたものだな」 「っ」 西崎の顔が屈辱に歪む。 「ほら、次はお前からしてみろ。上手く出来たらこの件に関しては暫く伏せててやる」 「…っ、卑怯、者…!」 「何とでも言え。…で、どうなんだ?『蓮姫様』?」 「っ……」 と、いう経緯で冒頭に戻る。 俺は現状について行けず一瞬トリップしていたが、すぐに気付くと二人の様子を覗き見た。って…。 「ん、…も、少し屈んで…下さい」 おいおいおい、マジで自分からキスしたぞ、西崎の奴。どうしたんだお前。どちらかと言えば俺達のことなんか嫌いな筈だろ。 「ほら、舌も使え」 「っ…ん、は、」 俺は二人の行為を思わず凝視してしまった。西崎がやけに色っぽいからとかそういうんじゃねえ。あれだ、気色悪さに思わず呆気にとられただけだ。 「…っん」 「ふん、まぁこんなものか。…暫く様子を見てやるがこれ以上目に余るようなことがあればリコールは決定されると思え。その書類、明日までには持ってこい」 「…っはい」 ようやく三亜が帰り、俺はホッと一息ついた。嫌なもん見ちまったな。西崎もそろそろ部屋から出るだろう。せめてクローゼットの中からさっさと出たい。 「…っ」 とか思っていたが、西崎が仮眠室から出る気配がない。そのままベッドに腰かけてしまった。俯いてるので表情は読めないが、まさか泣いているのだろうか。 「っ、や…」 おい、流石にここで泣くのは勘弁してくれ。 俺は責められるであろうことを覚悟して西崎に声をかけるべくクローゼットの扉に手をかけた、…が。 「やってられるかぁぁぁぁーーー!!!!!」 「っ!?」 突然の叫び声に固まってしまった。 なんだ、いや、誰だ。今の声は。 「なっっっんやねん!!!意味分からんわミアホモ!『かの副会長様もキス一つで崩れるなんて落ち潰れたものだな』ぁぁ?何カッコつけとんねん、アっっホか!!何が悲しゅーてお前とチューせなあかんね…って思い出したらキモなってきたほんまキッショーーー!!!!!」 あ、ミアホモって三亜とアホとホモをかけてんのか。最高のネーミングセンスだ。 じゃなくて。 俺は先程まで西崎がいた筈のベッドに腰かけている男を見た。何やらシーツで口を拭いている。 「あかん。ほんまあかん。もー無理。てかあの転入生……もうあんなんキュウリでええやろ。あのカッパ巻のせいで俺の人生は目茶苦茶やー!もうあいつ殺して俺逃げたんねん!」 いやそこは「俺も死ぬ」だろ。しかもなんでキュウリって…ああ、漢字が李九だからか。つかキュウリから更に名前が変化してるぞ大丈夫かお前。 「アホ面5人衆もあんなエセ関西弁でよーヘラヘラ出来るわ。そやから東京人は嫌いやねん。あー!はよ卒業して大阪帰りたい…!!」 アホ面5人衆ってあれか、俺等のことか? 思わず拳に力が入ったが成る程。確かに「本物」を聞けば李九の方言がワザとらしいと分かる。 「もー生徒会やめたろっかなぁ…。学食タダもええけどさぁ、このままやったら割に合わんやん」 そう呟く男…いや、西崎は溜め息を零しながら肩を落とした。 (つまりこれがお前の「素」ってことか) 思わず動揺してしまったが、俺は西崎の秘密を知って思わず笑みを浮かべていた。おいおい、素の方がいつもよりよっぽど可愛気あっていいじゃねーか。 いつもワザとらしい笑顔か人を見下すような顔しかしねぇこいつが今は面白いぐらいコロコロと変わる表情に、俺は満足しながらゆっくりと扉を開いた。西崎は案の定驚いたように目を丸くしてこちらを凝視している。 「な…っ、なっ…」 「全部聞いたぜ」 さぁ、今からしらばっくれるか?それとも開き直るか? 俺はその姿を想像して深くなる笑みもそのままに西崎に近寄って腕を掴んだ。 「お前、気に入ったぜ。俺のもんになれよ」 今からタップリと「本当のお前」を知ってやる。覚悟しとけよ、一星。 end. [ ←back|title|next→ ] >> index (C)siwasu 2012.03.21 |