01


「かの副会長様もキス一つで崩れるなんて落ち潰れたものだな」
「っ」
「ほら、次はお前からしてみろ。上手く出来たらこの件に関しては暫く伏せててやる」
「…っ、卑怯、者…!」
「何とでも言え。…で、どうなんだ?『蓮姫様』?」
「っ……」



 よし、まずはこれまでの経緯と紹介と言う名の現実逃避をしよう。

 生徒会室に備えつけられている仮眠室のクローゼットに隠れている俺、皇二亜(すめらぎにあ)は2学年でこの全寮制男子校の生徒会長だ。
 名前を笑った奴はこっち来い、殴ってやるから。
 まぁ男子校という閉鎖された空間のせいで、どこかのお決まりかってぐらいホモやらバイやらオカマやらが増殖。それだけならまだしも会計の庚(かのえ)曰くチワワという新たな人種まで出てきて、親衛隊だのファンクラブだのを作っては同性相手にキャーキャーもしくはウォーウォー言いながら皆毎日を送っている。あれか。暇人か。
 かく言う俺も…まぁ、親衛隊に誘われたら少しつまみ食いするぐらいだな。あ?向こうが股開くんだからいいだろうが。

 そんな異様な空間の中、それをぶち壊すような転入生が時期外れにやってきた。

「お前カッコええな!名前なんて言うんや?俺は戎李九(えびすりく)やで!李九って呼んでなー!!」

 を、合言葉に学園の綺麗どころ、イケメンどころをゴキブリホイホイかの如く捕獲していく転入生。
 正直見た目はボサボサの黒い髪に瓶底眼鏡とダサい姿この上ない奴なのだが、誰に対しても物怖じしない所が良かったのかはたまた上記の台詞で分かる通り学園には珍しい関西弁が良かったのか。まぁこの学園の奴等は方言なんて幼少期の教育で直されてるからな。素の自分を出せるあいつが羨ましいのかもしれない。
 ちなみに俺もこの破天荒な転入生が気に入って、最近では生徒会メンバーは全員仕事せずに李九にばかり引っ付いていた。

(…いや、待て。そういえば引っ付いてない奴がいたな)

 俺はノンフレームの眼鏡に鬱陶しそうな黒い前髪を垂らした、いつも説教ばかりを口にする生徒会副会長の姿が脳裏に過ぎった。

 同じ学年の西崎一星(にしざきいっせい)。こいつは超のつく真面目男で、何かあるとすぐ俺に嫌味ばかり言ってくる面倒臭ぇ奴だ。顔は綺麗で整ってはいるが背も平均男子ぐらいはあるし、何よりあんな性格だから可愛気がない。
 ちなみに去年文化祭で演劇部に駆り出され親指姫を演じてからは『蓮姫様』という別名が一部の生徒で流行っていたりもする。本人は物凄く苦い顔をしていたが。
 そんな西崎はどうやら転入生が苦手らしい。
 確か理事長に頼まれて門まで迎えに行った時は、すぐに帰ってきては珍しく青い顔をしていたな。まぁ「私は彼と馬が合わないようです」と、少し怒気を含んだこれまた珍しい声のおかげで俺は転入生に興味が沸いた訳だが。
 結局生徒会の奴等も「副会長がいるからいいじゃん」と言う理由の元、李九にばかり構って自分の仕事は愚か生徒会室にさえ寄っていない。

 そんな状態が2週間程続いたある日。
 俺はふと生徒会が気になって気まぐれに寄ってみた。一応会長だしな、ヤバそうなら手伝ってやらんこともない。
 だがしかし見てみれば生徒会室は俺達がいた時と何も変わっていなかった。書類が溜まってる様子もないし、部屋も散らかっていない。

(まさかあいつ部外者を入れて手伝わせてんじゃねーだろうな)

 そう思いながら仮眠室を開けてみれば、制服の皺も気にせず死んだように眠る西崎を発見した。

(おいおい、こいつの寝てる姿とか初めて見るぞ…)

 近付いてみても揺すってみても起きる気配なし。前髪を上げて顔を覗き込めば、眼鏡がないせいか幼くなった表情に俺は少しドキリとした。

(こいつ顔だけは本当綺麗だからな)

 騒ぐ心を落ち着かせて目の下の隈を親指で撫でてやる。

(馬鹿か俺は)

 この超のつく真面目な男が、仕事を手伝わせることは愚か他の奴を生徒会に入れるなんて訳がないだろう。幾分か白く痩せた頬に手を添える。この2週間、こいつは6人分の仕事を1人でこなしていたのか。

「…悪かったな」

 これから俺もお前に免じて少しは仕事をしてやらんでもない。そう考えながら西崎の顔を撫でていたら、生徒会室の入り口を強く開く音が聞こえた。
 おい、こいつが起きるだろうが。

「ん…」

 マズイ。普段から西崎に冷たく当たっているこの俺がお前の寝顔を見ていましたー、なんて本人に知られでもしてみろ。もれなく呆れと侮蔑と嘲笑のこもった満面の笑みをプレゼントされるに決まっている。
 さっさと立ち去ろうと思ったが、誰か来訪者が来たらしい。仕方なく俺は仮眠室のクローゼットの中に隠れることにした。どんな屈辱だ。

「一星、いないのか?」

 いやしかしこの状況を打破するにはと暗い空間の中悶々と悩んでいると、聞き慣れた声が仮眠室に入ってきた。ドアの隙間から覗き見れば嫌な顔が視界に入ってくる。

(何で手前がここに来てんだ…)

 3学年で風紀委員長の皇三亜(すめらぎみあ)。名字で分かる通り俺の兄貴だ。

「おい、起きろ」
「ん…なに」

 西崎は強く肩を揺すられ寝ぼけながら返事した。砕けたその声が可愛いとか…思ってない、思ってないからな。

「この書類に不備がある。今すぐ書き直せ」
「…ん」

 渡された書類を受け取って、西崎は眼鏡をかけ確認してから顔を上げ固まった。

「皇委員長…何を勝手に入ってきてるんですか」

 西崎は覚醒したのか、すぐに表情を取り繕って三亜を睨みつける。

「ノックをしたが返事がなかったお前が悪い」
「…それは失礼しました。すぐに書き直して持って行きますので早く出て行って下さ…っ」

 苛々し気に吐き捨てた西崎だったが、その言葉を言い終えることはなかった。

(おい、マジか…)

 三亜の奴、西崎にキスしたぞ。


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(C)siwasu 2012.03.21


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