08


「い……っッッッたあぁぁぁぁぁー!!!」

 歯、歯ぁ刺さってるやろこれ!!!
 勢いよく突き飛ばせばよろけながら離れていく三亜ホモ。じくじくと痛む首を手で押さえれば血が出ていた。くそ、油断してた。

「何すんねんボケが!ええかげ……ン、次近付いたら助けを呼びますからね」
「……くっ」

 クソ、やってもーた。三亜ホモは笑いを堪えているようだが肩が震えている。もうここまで来ると演じる必要はないんじゃないかとも思うが、コイツの前で素を出すのはなんか癪だ。俺は冷静さを欠かぬようポケットからハンカチを取り出すと、噛まれた場所を押さえて血が止まったのを確認してから緩めていた首元を戻した。

「お前、痛みには弱いんだな」
「誰だって痛いのは嫌いです」

 笑いを堪えすぎて目尻に涙を浮かべる三亜ホモを半眼で睨みながら警戒しつつ窓で首元を確認する。残念なことに噛まれたところは隠せておらず、くっきりと歯型が残っていた。

「最悪」

 これ絶対二亜になんか言われるやん。ボソリとついた悪態は三亜ホモの耳に届いていたらしい。「今度アレの反応を聞かせろ」なんていうから心の中で唾を吐きつけておいた。
 渡される救急セットを受け取って処置をする。そして話が終わったと思い込んだ俺は、ガーゼをひっかきつつ入口に向かおうとして茶化すような三亜ホモの声に呼び止められた。

「お前たちはこの下で密談する習性でもあるのか?」
「なんのことですか」
「……そろそろか。見つからぬようにな」

 そう言って窓に向かって顎をしゃくる三亜ホモに、俺は眉を寄せながらも先程までいた位置に戻った。そろそろ帰らないと親衛隊長に解放された二亜が暴走しかねない。十瑠には連絡してあるので大丈夫だと思うが、流石に1時間以上経てば郡を動かし始める筈だ。ここに来る前に「うち会長推しやからとにかくケツだけ守って。それ以外はノーカンやから」と言っていたあの台詞はおそらく本音なので心配はしてくれているのだろう。……多分。
 俺は三亜ホモへの警戒を怠らぬまま壁際に背中を寄せながら窓から外を見下ろす。ただの土と雑草しかない光景に、からかわれたのだろうかと三亜ホモに視線を移し嫌味をぶつけようと口を開いた時だった。

「そ……なに引っぱ……なくても大丈……だよ〜」

 遠いが耳にするりと入ってきた声は、先程生徒会室で聞いたものだ。間延びした、人を煽るような話し方はあいつしかいないと見つからぬよう窓から下を覗く。窓に隔たれて声が聞き取りづらいので耳を寄せると、両手を上げながら近づいてきた三亜ホモが上の小窓だけ開けてくれた。これなら気付かれても通気の為だと思うだろう。後ずさりで離れていく三亜ホモに口パクで礼を言う。「これ」で噛まれた分をチャラにしろってことか。

「だって、だってさ、あれって、本当なのか?」

 次に聞こえたのは俺のにっくき敵……の声だが、どうやら様子がおかしい。声のトーンや話し方がいつもと違う。

「なんのことー?」
「二亜と一星が……その、付き合ってるって。皆もその話ばっかりで」
「何、またハブられたの?」

 庚とカッパ巻き。転入してきた当初は後ろに生徒会役員たちを侍らせてでかい顔をしていたが、庚だけになると心細くなったのだろう。つか、やっぱり関西弁作ってたんやんけ。
 いつも耳障りで大きな声は控えめで、むしろ庚の声の方が大きく聞こえる。

「ううん、驚いてついていけなかっただけ。それよりどうなんだよ」
「ああ、それね。大丈夫、リクは何も心配することないよ〜」
「返事になってない」

 不満そうな声のカッパ巻きと、いつもより甘ったるい雰囲気の庚は見ていて噛み合ってないのがよく分かる。普段とは違うマトモなカッパ巻きに、俺は最初からそれでいれば良かったのにと半眼を向けた。

「……俺、一星とまた友達になれるのかな」

 ため息交じりにそう言いながらカッパ巻きが空を見上げる。見つかっただろうかと窓から離れるが、丁度出窓になっていて向こうから部屋の中までは見えないようだ。

「安心して、ちゃんと副会長は自分からリクの元に戻ってくるから」
「来てくれるかな……なんか、また嫌われたような気がする」

 落ち込んでしゃがみ込むカッパ巻きを庚が慰める。いつもヘラヘラと笑っている顔はどこか怒っていて、今まで見たことない庚に俺は思わず身を乗り出しかけた。

「だったらさ、もう諦めなよ。今は俺がいる、同室の奴だってリクのこと気にかけてくれてるんでしょ?副会長にこだわる必要はないんじゃないの?」
「一星と友達になるためにここに来たのに、それじゃ意味ないじゃん。ずっと探してたんだ、次こそ失敗はしたくない」

 次とかまたとか、まるで前に会ったことがあるような発言に俺は目を細めてカッパ巻きを見てみるが、やっぱりあんなボサボサ髪の厚底眼鏡には覚えがない。知り合いならあんな個性的な見た目、絶対忘れないはずだ。

「そんなに好きなの?」
「うん、好き」

 おっとこれは総受けフラグか、と脳裏に過ぎってしまう程度に毒されてる自分が憎い。いや、さっき「友達」言うてたやんけ。なんでもかんでも恋愛に結びつけるようになってしまったのは確実に二亜のせいだ。

「もうすぐ予鈴鳴るだろ、俺ここでちょっと練習していくからまた後で」
「あんまり自分を追い詰めないでね?リクは何も悪くないんだから」
「うん、ありがと」

 カッパ巻きの言葉に庚がようやくその場を離れた。一人残されたカッパ巻きは、何やら壁に向かってブツブツと独り言を呟いている。

「なんでやねん!……これじゃないな。なんでやねん!」

 ……漫才の練習か?それにしてもイントネーションが全くなってない。練習のし過ぎで分からなくなってしまったのか、本人も間違ったまま納得してしまっているし……ああ、今すぐ降りて言いたい。教えたい。


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(C)siwasu 2012.03.21


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