06


「惚気ているお前の横顔を二階から見下ろしてると、あまりにも嬉しそうな顔が可愛いと思えてしまって、それからはお前の頭が悪そうな愛の睦言を聞くのが楽しみになっていたんだ」
「頭が悪そうって……いや、確かにあの時の俺は相当馬鹿丸出しで彼女に惚れ込んでましたけど」

 やってずっとアタックし続けて、ようやく付き合えたと思ったら遠距離恋愛になったんやから、本当あの時の俺はかなり病んでたと思う。多分五分間だけでも好きやでって百回以上言ってた気するわ。

「そんなお前が副会長になって、会議で話せばいつもと違う話し方をしている。いつの間にか昼休みの電話は来なくなっていたが、俺は周りが気付かない本当のお前を知っているという優越感に浸っていたと同時に、この学園では俺だけに本当の姿を見せてくれと思い続けていたんだ」

 残念ながら学園で真っ先に俺の素を知ったんは親衛隊長やけどな。
 思わず言いそうになったが、余計話がこじれそうだったので口を噤んで三亜ホモの話を真剣に聞いているフリをする。
 要するに、こいつは十瑠に惚気てる俺に惚れたってことか。彼女持ちを知ってて今まであんなことやそんなことをしていたのかと思うと、コイツも大概二亜と変わらない図々しさを持ってるな。流石兄弟。
 また距離を詰めてくる三亜ホモに身体を背けるが、いつもと違う真剣なまなざしにどうにも決定的な拒絶が出来ない。

「何故だ。ずっとお前のことなんか見向きもせず、むしろ小間使いのように扱っていたあの馬鹿の方を好きになったのか?彼女よりも?」
「いえ、俺の中で一番は後にも先にも彼女だけです。彼女を捨てて会長を選ぶことはまず有り得ません」

 口に出して、自分の言葉に納得する。そうだ、十瑠を捨てて二亜を選ぶなんてことは考えられない。俺の中での一番は十瑠で、あいつは……あいつは、何なんやろ。

「じゃあ、あの写真はなんだ。少なくとも何もなかったとは言い難い状況だぞ」
「それは……」

 ここは素直に本当のことを言うべきか。しかし言ったところで庚がやったという証拠はおそらく残していないだろうし、聞きたいことも有耶無耶になってしまう気がする。
 黙っていると、ため息をついた三亜ホモが頭を掻いて明後日の方向を見た。

「ところで」
「はい」
「先日、お前のところの親衛隊が暴漢に襲われて風紀委員室に駆け込んできた。幸い他の隊員が救い出したようだが、暴漢は皆見事に気を失っていてな。あの面子が自分よりも大柄な男を撃退できるとは思わない。武術の経験も無さそうな一般生徒が、どうやってあの三人を対処出来たのか」
「……人は見かけによらないと言いますし、実は格闘家の達人がいたのではないですかね」
「それから目を覚ました加害者は、怯える被害者を見て不思議そうに首を傾げていたのだが」
「自分達の行いを反省していない証拠ですね、最低としか言いようがない」
「……聞いたところ、視聴覚室で暴行があったらしい」
「そうですか。あの周辺は空き教室が多いですし、見回りの回数を増やしてはいかがでしょうか」
「……この掲示されていた写真、お前たちの後ろに視聴覚室の扉が見える気がするんだが」
「わあ、すごい偶然ですね。それはたまたま私が体調を崩した時に会長が見つけてくれて保健室まで運んでくれようとしていただけですよ」
「……この写真の下の方に見える頭、お前の親衛隊長じゃないのか?」
「ああ、そういえば郡くんもその場にいましたね。彼は体力がないので役には立ちませんでしたが」

 続く沈黙と半眼の視線が痛い。痛いが、ここでコイツに全部言うわけにもいかない。
 考えてみればリコールを推している男だ、生徒会内での揉め事がバレれば、解散の署名に動き出しかねない。
 視線を明後日の方向に向けながらとぼけ続ける俺に、大きなため息が落ちる。

「そんなに俺が嫌いか」
「まあ、嫌いと断言するほどではないですが関わりたくない相手ではありますね」

 見て分かるほど落ち込む三亜ホモに、俺は温情をかけることもなく本音を曝け出す。そして、口にしてから俺はコイツに苛立っているのだと気付かされた。コイツがあの時キスをしなければ、生徒会室に来なければ、二亜が俺に興味を持つきっかけは生まれなかったんじゃないだろうか。
 以前と変わらず、俺を見下したような冷めた視線のまま、同じ生徒会役員としてだけの上辺だけの関係で終わったはずだ。……いや、なんかそれもムカつく。
 でも三亜ホモがいなければ、俺はこんなモヤモヤした気持ちを抱えることなく十瑠一人だけを愛し続けることが出来ていたと思うと、八つ当たりだと分かっていても当たりが強くなってしまう。
 カウンセリング室に呼んだということは、三亜ホモも本音をぶつけてくれているのだと思う。だからこそ俺も感情を誤魔化すのは失礼だと思った。今回の騒動に関しては身の安全のため全力で誤魔化すが。

「……せめて、その話し方を」
「いえ、変えません。貴方にそれをするのは不誠実だと思ってますので」

 冷たく即答すれば、自嘲気味に笑った三亜ホモが馬鹿馬鹿しいと言いたげに口の端を持ち上げた。


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(C)siwasu 2012.03.21


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