05


「呼び出した用件は分かっていると思うが」

 そう切り出した三亜ホモは、声こそ冷静に聞こえるが纏っているオーラが黒い。怒っている。これは完全に怒っている。
 他の委員達もその空気を読んでか、いつものように俺を蓮姫だの揶揄ってこない。
 前方には三亜ホモ、後方には様子を窺う風紀委員達。風紀委員室で完全孤立状態の俺は、せめて橘を連れてくれば良かったと後悔する。

「まさかお前等がこんなくだらない三文記事を承諾するほど落ち潰れたとは思わなかったぞ」

 そう言ってかざしたのは掲示板に貼られていた俺と二亜の記事だ。例え生徒会の許可印があっても、風紀を乱すと判断した場合は風紀委員会が独断で回収することが出来る。
 正直それが生徒達の目に触れ続けることは耐えられないので回収してもらえたのは助かったが、今にも人を殺しそうな目をしている目の前の男をどう説得すればいいのか。

「それは……こちらの、伝達不足によるミスです。ご迷惑をおかけして申し訳ありません、回収していただきありがとうございました」

 素直に頭を下げれば、一先ず喧嘩にはならないと安堵した風紀委員達の柔らかな空気を後ろから感じた。だが三亜ホモはそんな説明では納得出来ないと言いたげな表情だ。
 そもそもコイツが怒っているのは、生徒の風紀を乱すような記事を承認した生徒会に対してではない。記事の内容が許せないのだ。
 まあ会う度抱きしめられたりキスをされたりしていれば、嫌でもコイツが俺に好意を抱いていることを認めざるを得ない。今まではそれに生理的嫌悪感を抱いていたはずなのに、怒っている姿を見て納得してしまうのは自分の中で何かが一線を超えたからだろう。不本意やけど。
 さて、兄弟なのに二亜との相性が最悪なコイツの怒りをどう収めるべきか。
 反省の態度を見せながら頭の中で様々な方法を考えていると、大きく息を吐いた三亜ホモがカウンセリング室の扉を顎で指す。
 ……いやいやいや、あかんやろ。
 自分に好意を、しかも場を考えず襲ってくるような奴と個室なんてアホでも頷くわけがない。
 反射的に首を横に振った俺に、三亜ホモの眉間のしわが濃くなっていく。

「話の詳細を聞くだけだ」
「いえ、ここで構いません」

 絶対この場から動かん。そんな固い意志で地面をグッと踏みつけると、後ろから悲痛な声が聞こえてきた。

「副会長、頼むから委員長に従ってくれ」
「何かあったら絶対助ける。俺たち総出で委員長を止めるって約束するから」
「とにかく委員長の怒りを鎮めて。一生のお願い」

 嘘やん。
 風紀委員全員が俺に向かって頭を下げる姿を見て思わずを引きつらせる。やっぱり橘を連れてくるんだった。

「ですが」
「そっ、そもそも記事の承認ミスは仕方ないとしてあの写真はどう見ても勘違いされて仕方がない画じゃないですか!」
「そうですよ!それとも本当に会長と何かあるんですか?あったんですか?」

 お、お前らぁ……。
 委員達の声に、三亜ホモの空気が黒くなっていく。なぜ煽る。なぜ煽る。
 たじろぐ俺に、委員達も集団心理か強気になって追い詰めてくる。
 ぐ、う。

「……この恨み、絶対忘れませんよ」

 そう言って既にカウンセリング室の扉を開けて待っている三亜ホモの方に足を向けると、委員達は揃って手を振ってきた。もしなんかあったら素がバレてでもボッコボコにしたろ。
 部屋に入ると幸い鍵は閉められなかったが、防音なので油断は出来ない。なるべく距離を取って様子をうかがっていると、中央に置かれた簡素なテーブルに手をつきながら俯いた三亜ホモはしばらくブツブツと独り言を呟いていた。こわ。

「あの、委員長」

 困惑を隠せないまま戸惑いの声をかける俺に、三亜ホモは視線だけをこちらに向けてくる。

「お前、彼女とは別れたのか」
「は……え?」

 思わず頬が引き攣る。十瑠のことはこの学園で親衛隊以外知らないはずだ。どこからその情報を仕入れたのか。聞き返そうと口を開く前に、顔を上げた三亜ホモがこちらに近付いてきた。

「あんなに甘い声で好きやで、と言っておきながら、あいつに乗り換えたのか」
「あ、あの」
「デレた顔で俺にはお前しかおらへん、と囁いていた言葉は嘘だったのか」
「い、いいんちょ……ッ」

 近い!近いからせめて一歩下がって!いや、やっぱり十歩ぐらい!
 ゼロ距離で詰め寄られて顔を背けるが、座った視線が突き刺さってくる。
 て、いうかさっきからコイツ……。

「あいつには、本当のお前を見せているのか?」
「え、と……」

 これはきっとバレてる……んやろなぁ。いやしかし一体どこで。俺の演技は完璧やったはずや。
 困惑する俺に気付いたのか、三亜ホモは唇を持ち上げると体を引いて窓を指さした。

「お前、入学当初この下で毎日のように電話していただろう」

 三亜ホモの言葉に俺は首をかしげて窓に近付くと、地面を見下ろす。そしてその景色に覚えがあって思わず顔が引き攣った。
 ここ、俺が学園に入りたての時ホームシックで昼休み毎日十瑠に電話してた場所やん。校舎裏で静かやったから安心しきっていたが、まさか二階が風紀委員室になってるとは。

「変な喋り方でずっと彼女と惚気ているから煩わしくてな。他所でやれと茶でもぶっかけてやろうかと思ったんだが」
「それは、大変ご迷惑をおかけしてしまい……」

 見つめてくる三亜ホモに、あの当時の情けない電話を聞かれていたのかと思うといたたまれなくて目を合わせられない。あの時の俺は今でも十瑠にからかわれるぐらい子供っぽくて、忘れたい過去でもある。
 けれど三亜ホモは俺を見つめたまま微笑むと、窓の前で突っ立ったままの俺に近付いてきた。一層ここから飛び降りて逃げたいが、残念ながら窓は半分しか開かない仕様になっている。


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(C)siwasu 2012.03.21


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