04


 俺は副会長モードの笑顔を貼り付けて六実と七実を交互に見ると、周りに聞かれない程度の声量でダメですよ、と注意する。

「外でこれ以上煩くするようなら、貴方達が会長を貶めるような陰口を叩いてると会長の親衛隊長に報告しますよ」

 どうやら想像通り二亜の親衛隊長はこいつらにとって恐怖の存在らしい。根本的に性格が合わなさそうやもんな。
 何度も強く首を振る二人に頷くと、ようやく静かになった。相変わらず両腕は解放してもらえないが。
 途中で会った俺の親衛隊が心配そうな顔を向けてくるが、大丈夫だと手を上げてそのまま生徒会室に直行する。そして入るなり二人を離すと、振り上げた手で頭上にゲンコツを落とした。

「痛い!」
「酷い!」
「当たり前やろ、場所を考えろ場所を!」

 蹲る二人に呆れた視線を向けると、上目遣いで訴えてくる。

「休んでる間二人の業務をこなしてたの僕たちなのに」
「それは悪かった思てる。ありがとうな」
「で、会長は遂に処女喪失したの?」
「いや、してへんから」

 どうやらグループメールの内容から二亜が掘られたと考えたようだ。痔にするんじゃなかったか。いや、でもいぼ痔程度でそんな発想に至るこいつらも大概だ。

「なんだ、つまんない」
「せっかくお赤飯用意したのに」

 そう言って鞄から包みを取り出すとタッパーを開けて赤飯を貪り始める六実と七実。いや、お前らわざわざそれ作ったんかい。

「そういえば一星がいない間に色々あったよ」
「なんなん」
「生徒会が戻ったの」

 どういうことや?
 まだ赤飯をつまんでる二人に詳細を聞こうと口を開いた時だった。
 軽快な声と共に扉が開き、予想外の人物が飛び込んでくる。

「おっはよー!……ってあれ。副会長じゃん、久しぶり〜」
「お……っ、」

 前、よくもノコノコと姿を見せたもんやな!!
 目頭がカッと熱くなる。いきなり殴りかからなかったことを褒めて欲しい。
 現れたのは俺が休みを取ることになった原因である庚だ。人にスタンガン使って襲わせたことを無かったことのように振る舞う姿は、カッパ巻きが現れる前の庚のようで別人じゃないかと疑いそうになる。

「改心して生徒会に戻ってきたんだよ」
「一星達がいない間にたまってた業務全部終わらせてくれたしね」

 橘が戻ってきたとはいえ会計の仕事はそれなりに滞っていた。とりあえず急ぎでない精算は後回しにしていたのだが、それを全てこの数日で片付けたらしい。
 はしゃぐ双子とは対照に、俺はどう反応していいか分からず憤りを持て余していた。副会長モードを崩さぬよう、庚に向き直るといつも通りの薄っぺらい笑みを浮かべる。

「おはようございます庚くん。もう戎くんはいいのですか?」
「皆が戻ったのに俺だけサボってるのはマズくないかって李九に言われたんだよね〜、ボイコットって一人でしても意味ないしぃ」
「そうですか」

 ニッコリ笑いながら脳内で庚の顔に拳を叩きつける。
 カッパ巻きめ、お前あんだけ生徒会をやめろ、俺を構えと言ってた癖に味方が減ったらこれかい。

「ねーねー、それよりあの噂ほんとなのー?」

 語尾を伸ばす癖は昔からだが、今はそれが煽られているようで癪に触る。

「何がですか?」
「会長と副会長がぁ、付き合ってるって話〜」

 ヘラっと笑いながら俺に近付いてくる庚に無意識で距離を取ってしまう。やはり身体が警戒しているのだろう。
 双子に視線を向けると、首を傾げられた。どうやら知らないらしい……と思いたいが、こいつらの場合とっくに付き合ってると思い込んでる可能性があるので当てにならない。
 とにかく否定を口にしようとしたところに、今度は慌てた声と共に扉が開き、橘が飛び込んできた。

「これ掲示板に貼っとったけどよかと!?」
「は?」

 そう言って、新聞部の速報記事を撮った画面を見せてくる橘から携帯を受け取って拡大してみる。内容は、俺と二亜が付き合い始めたと書かれていた。ご丁寧に俺が二亜にお姫様抱っこなるものをされている写真付きで。
 襲われた現場を誰かが見張っていたのだろう。これはその可能性を考えず油断していた自分が悪い。常套手段は実際されてみると三文芝居のようで笑いたくなるが、こんな記事でも疑う者や信じる者はいるのだろう。
 だが、それよりも気になるのは。

「何故この記事を回収しなかったのですか?」

 橘が写真を撮ってきただけで、記事を持ってこなかったということは、今もこれを見ている生徒がいるということだ。
 俺の責めるような口振りに、苛立った橘が眉を顰めた。

「あ?何言っとーとや、その記事にしっかり生徒会承認印ついとったったい。お前らが許可したっちゃろーもん」

 その言葉に逆に俺が眉を顰める。そんなもの許した覚えはないし、二亜だってこんな馬鹿な記事を認めるわけがない。そもそも俺たちは学園を休んでいたのだ。
 双子に視線を向けるがその表情は何のことだと言わんばかりだ。
 ……そうか、庚が生徒会に戻ってきた理由はこれか。
 庚を睨みつけるが、とぼけた表情を見せるだけだ。今更問い詰めてもこの記事は既に生徒会公認の元掲示板に貼られている。二亜はおそらく登校早々親衛隊長にでも捕まっているのだろう。
 さて、どうしたものかと冷静に考えていられるのは、ようやく状況が飲み込めたのかこの空気に焦り始めた双子と今にも庚の胸倉を掴みそうな表情を見せている橘のおかげだ。少なくともこいつらは俺の話を信じてくれる。一人ならカッとなって殴りかかっていただろう。

「どうしたの副会長〜?」

 黙ったままの俺に笑いかける庚の煽りには乗らない。脳内ではボコボコにしているが。
 一先ず記事の回収が先だと郡に連絡を取るべく携帯を取り出すが、同じタイミングで生徒会室の内線が鳴る。慌てて受ける七実が受話器越しの声を聞いてあからさまに嫌そうな表情を見せた。
 そして俺に視線を向けると、おずおずと受話器を向けてくる。

「一星、委員長からぁ……」

 その言葉に庚以外の全員が頭を抱えた。


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(C)siwasu 2012.03.21


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