03


「ええか、この扉を開けた瞬間からお前は俺に半径三メートル以上距離を取れ。約束やからな」
「エレベーターはどうすんだよ」
「別々に乗ればええやろ」

 まだ納得がいかないといった表情を見せる二亜を半眼で見つめながら、俺は先に行けと手で払う仕草を見せる。
 結局熱が下がるまで甲斐甲斐しく、しかし時にはいらんちょっかいをかけつつ面倒を見てくれた二亜には感謝しているが、ここで絆されるまま流されてはいけない。例え昨晩は一緒に風呂に入る羽目になった程気を許しているとしても、だ。

「休み明けにあからさまに馴れ馴れしくしてたら勘繰られるやろが。お前はそんなんでも一応学園で支持を誇る生徒会長、俺はその次に慕われる副生徒会長。上に立つ者として周囲の目を気にするのは当たり前やろ」
「今までも一緒に登校してたじゃねーか」
「何言っとんねん、今までとは違うやろ」
「……あぁ、気持ち的な問題か」

 俺の言葉に少し考えた後ニヤつきながらこちらを見てくる二亜を無言で蹴り飛ばして部屋から追い出した。
 あかん、二亜は俺が二亜を好きやと思っとる。否定しようにも、否定するほどの拒絶を出来ない自分が悔しい。
 頭の中で十瑠の姿を思い出しながら好きやな、と思えることに安堵する。大丈夫、俺は二亜なんか好きじゃない。
 10分程経ってから、そろそろいいだろうかと廊下に出る。二亜は大人しく一人で登校したようだ。安心してエレベーターに乗り込むと、慌てた声が聞こえてきた。

「待って待って〜!」
「僕たちも乗るから!」
「あー、おはよう」

 階数を押す前に閉めるボタンを押していた指を開くボタンに移動させながら、俺は乗り込んできた六実と七実に挨拶する。

「もぉ、閉めるの早くない!?」
「テレビで見たことあるよ、これだから関西人は…」

 二亜と登校する時もよく言われるが、むしろお前等は閉まるのを待つ時間がもったいないと感じないのか。
 言い返そうかと思ったが面倒なので、半眼だけ向けて階数を押した。このエレベーター、閉まるのめちゃくちゃ遅いんよな…。

「あ、イライラしてる」
「じゃあ僕押そうっと」

 七段が閉まるボタンを押してドヤ顔を見せてくる。頬が引き攣るが挑発に乗ったらあかん、こいつらは俺を怒らせて楽しみたいだけや。
 髪をかけあげるだけで何も言わない俺に二人はつまらなさそうな表情を向けてきたが、すぐに面白いことを見つけたと言わんばかりの笑顔を見せると鞄を引っ張ってくる。

「なんやねん」
「「一星ってさ、もう会長とエッチしたんでしょ?」」

 ゴン。
 これは俺がエレベーターのドアに思い切り頭をぶつけた音だ。
 綺麗に揃った双子の問題発言にまさか二亜が言ったのだろうかと二人を睨みつける。しかし双子はお互い耳の後ろを指すと、不思議そうに首を傾げてきた。

「だってさっき見えたそれ、キスマークじゃん」
「会長ってばいやらしいところに跡残すんだぁ」

 咄嗟に耳の後ろを触ろうとして踏みとどまる。こいつらの引っ掛けかもしれないし、例え本当にあったとしても自分で見ることは出来ないからだ。

「さぁ、眼鏡かけてるから蔓の跡かもしれへん」
「あーしらばっくれるんだ」
「でも僕たち知ってるんだもんねー」

 何をだ。
 焦りを隠しきれない俺の視線に二人がクスクスと笑う。

「一星が教えてくれたじゃん」
「まさか自分で言うとは思わなかったけど」

 こいつらは何の話をしてるんだ?
 首を傾げて眉を寄せていると、双子は俺に詰め寄ってキラキラした目を向けてくる。

「で、どうだったの、会長の身体」
「痔になるぐらいヤりまくったんでしょ?」
「会長ってそういうの強そうなのにね」
「ていうか会長が下ってのも驚きだけど」
「……はぁ!?」

 俺の声に合わせてエレベーターが扉を開いた。
 逃げるようにエントランスまで歩みを早めると、駆け寄ってきた二人が俺を挟んで逃がさないとばかりに腕を絡めてくる。
 その光景に登校途中の生徒が珍しいものを見たような表情を向けてくるが、俺はすぐに副会長としての自分に切り替えると双子を無視して生徒達に笑顔を向けた。

「おはよう、今日も一日頑張ろうね」
「あっ、おはようございます!」
「西崎様おはようございますっ」

 生徒たちはいつも通りの俺に姿勢を正して挨拶を返してくれる。
 けれど誤魔化せないほど主張の激しい左右の双子に、周りは皆隠しきれない動揺を見せていた。

「ねーねー、無視しないでよ」
「せめて会長がどんな感じで抱か……ッ」

 周囲への笑顔を崩さぬまま、七実の口を叩きつけるように塞ぐ。
 あかん、こいつらを無視し続けてても場所なんて関係なく質問責めされるだけや。


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(C)siwasu 2012.03.21


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