「あんな、高校が全寮制って分かって中学最後の春休みめっちゃデートしたり泊まりでどっか行ってたりしたやん?」 「そだね、その時トウルちゃんアリアと全然遊んでくれないしメールも既読つかないからイラってした」 「いや、それも今ぶっちゃける?や、もうそれはええんやけど。その時一星から『離れても俺の気持ちは絶対変わらんから、十瑠も俺が帰ってくるまで俺のこと好きやったら高校卒業してから婚約してくれ』って言われてて」 「え?それアリア初耳なんですけど」 「なんでそんなキレ気味なん?!」 「当たり前じゃん。トウルちゃんの全部はアリアに報告義務があるんだよ」 「うわ、こわ。幼稚園の頃から言ってるやつまだ言う?」 アリアちゃんってたまにヤンデレみたいなこと言うよな。女友達がうちしかいないと言ってもたまに度が過ぎる執着心みたいなものを感じる。これが男同士なら萌えれるのに。 「じゃあ余計に離れてから彼氏作れとかおかしくない?」 「いや、ちゃうねんそれでな、うち一星のその言葉にいややって言うてもうて」 「は?」 「いや、あの、だから、うーん…一星とは一生一緒にいてもええって思ってんねんけど、婚約とか夫婦とかそうゆう感じちゃうくて、うーん、なんて言うたらええねんやろ。家族にはなりたいねんけど」 「うーん、なんか分かるような分からないような?」 うちでもどう説明していいか分からんことをアリアちゃんに説明しても伝わるはずがない。けれど話の続きをうながしてくるので、うちはパソコンの横に置いてたお茶を飲み干して大きくため息を吐いた。 「まぁそれで一回ラブホで喧嘩してな、あんまりにも腹立ったから一星のケツガン掘りしたってんけど」 「あ、ちょっと待って。そういう生々しいのはアリアいらない」 あからさまに嫌な顔を見せて耳を塞ぐアリアちゃんの反応にニヤニヤしつつうちは口を開く。 「まぁ、それで、喧嘩したまま一星は寮入ってもーて、このまま自然消滅するんかなぁって思ってたら一星から先輩に襲われたって泣きながら連絡が来て、その時なんか、納得したんよ」 「何に?」 「うちは一星の家族になりたくて、家族だから一星に好きな人が出来たら応援したいって」 「ねぇ、だからいっくんの好きな人がトウルちゃんなんじゃない」 「そうなんやけど、そうじゃなくて、うーん…どう言ったらいいんやろ」 あかん、これ以上は説明のしようがない。 どうしようもなくなって頭を掻いてると、アリアちゃんが真剣な表情で距離を詰めて来た。 「ねぇ、アリア思うんだけど」 「ん、うん?」 「トウルちゃんは、いっくんがトウルちゃんのことが好きでトウルちゃんとずっと一緒にいるって前提でいっくんの恋愛感情面や生活面を自由にさせてあげたいんだよね?」 「うん、まぁ…せやな」 「それってトウルちゃんの中でいっくんとの関係は家族っていうより犬と主人というか、主従というか、SMの関係に似てる気がする」 「は、はぁ」 SMときたか。アリアちゃんの発想に呆れるが、自分でも少し納得してしまった部分があるので言い返せない。 「つまりトウルちゃんといっくんは、恋愛とか結婚とかそういう普通の形にするものじゃない愛で繋がってるってアリア、思うの」 「アリアちゃんってそういう小っ恥ずかしいこと平気で言うよなぁ」 聞いてると頬が熱くなってきて両手で押さえると、近付いてきたアリアちゃんがその手を包むように合わせてきた。 「トウルちゃんって恋愛に対して相当拗れてるよね」 「う、煩いなぁ」 「いいと思う、私もトウルちゃんのこと誰よりも好きだけど、トウルちゃんへの好きは恋とかそういうのじゃないもん」 「そ、そうか」 だんだんと顔が近くなってきたので背を逸らすと、アリアちゃんはにっこりと可愛い笑みを浮かべて離れていった。 そして残った紙パックの紅茶を飲み干してゴミ箱に投げ入れると、帰り支度を始める。 「え、もう帰んの?」 「うん、なんかトウルちゃんの惚気を聞いてお腹いっぱいになっちゃった」 「いや、惚気た覚えは…」 ないんやけど。という言葉を続ける間も無くアリアちゃんは色々と納得したと言いたげなスッキリした表情で立ち上がる。 「アリア、トウルちゃんの味方だからいっくんの恋愛、応援することにするね」 「お、あ、ありがとう?」 「だからトウルちゃんもアリアの恋、応援してね!」 「…次は誰や」 「現国の高林先生」 そういえば最近ずっとあの先生に引っ付いてたけどやっぱりそういうことか。見た目がアリアちゃんのタイプやなっておもっとったけど。…いや、ちょっと待て。あの先生奥さんおらんかったか? 「あ、アリアちゃん、不倫は…」 「子供が出来る前ならセーフ!」 「セーフちゃうわボケ!!」 ツッコミ虚しく舌を出して首を傾げながら去っていくアリアちゃんにもう何も言うことはない。ただし揉めたら絶対縁切ってやる。 一人になった部屋で溜息を吐きながらうちは真っ暗な画面のパソコンを見つめた。 そうか、うちは一星を本当の意味で自分のものにしたかったんやな。 納得すればもう怖いものはない。そもそもあの会長のことは生徒会就任の頃からずっと一星に聞かされていたのだ。そのほとんどが愚痴だが、例え愚痴でも近況報告の半分があの会長の話なら既に意識しているようなものだ。 一星がうちを好きなのはよく分かる。でも、うち以外に好きな人が出来た時一星の中でうちに向けてた気持ちは減るだろうか。 「減らんやろなぁ…」 きっと、増やして会長への気持ちも飲み込んでしまいそうだ。 まぁ、最終的に決めるのは一星やからうちは何も言わんけど。ただしうちを捨てたら殺す。そんな決意を固めながら、うちはさっき読み終わったBL本をもう一度読み直すことにした。 [ ←back|title|next→ ] >> index (C)siwasu 2012.03.21 |