「はぁ〜ええもん見せてもろた」 通話の切れた画面を見ながら、うちは大きく息を吐いてニヤつく顔を隠すように覆った。 「あんなんもう両思い言うてるようなもんやん」 「いや、ちょっとまって、トウルちゃんちょっと待って!?」 椅子の背凭れに体重を預けながらあの二人から流れる空気の余韻を堪能していると、後ろから焦った声が聞こえる。 振り返ると大きな目を更に大きくさせた親友が一体何が起きたのか分からないと言いたげな表情を見せていた。 そういえばおったん忘れてた。 「あ、ごめん。アリアちゃん三次元はあかんかった?」 「そういう問題じゃなくてぇ!」 腕を振ってぶりっ子のような仕草を見せるうちの親友、アリアちゃんはハーフで凄く可愛いが同性、というか同類からは嫌われるタイプの所謂オタサーの姫みたいな見た目の夢女子だ。歴史上のゴツいおっさんみたいな武人に恋しててリアルも割とゴリラみたいな男と付き合ってるイメージが強い。 腐女子とは相入れなさそうなタイプだが、アリアちゃんはうちが腐る前からの幼馴染なのでお互いそういった嗜好に目覚めても特に関係は変わらなかった。 「なんで?なんでなの?アリア分かんない!」 「なにが?」 首をかしげると、アリアちゃんは困ったように眉尻を下げた。そんな仕草もわざとのように見えるが本当は無意識で、実際可愛いのだから思わずニヤついてしまう。 「いっくんはトウルちゃんの彼氏でしょ?なんで他の人、しかも男に取られそうになって喜んでるの?トウルちゃんはいっくん好きじゃなかったの?好きより萌えなの??」 アリアちゃんは真剣に話をしているつもりなのか、少し怒っているようにも見える。けれど呑気なうちは頭を掻きながらこの恋愛脳にどう説明すれば分かってもらえるか考えていた。 「あー、うん、勿論萌えより好きやし一星が他の女と浮気したらって想像するだけではらわた煮えくり返って殺意沸くわ」 「じゃあ男ならいいってこと?」 「いや、男でも一星をレイプないし逆レする奴おったら以下同文」 「今の不良みたいな髪の人の話聞いてる限りレイプでしかないよね!?」 そうなんよな。 それをどう説明しようか頭を悩ませていると、アリアちゃんは興奮気味に話して喉が渇いたのか家に来る前にコンビニで買った紙パックの紅茶を一気に啜った。 「アリア、いっくんのこと正直いいなって思ってたの」 「おい、ちょっと待て」 おいちょっと待て。 それ初耳やしアリアちゃんのタイプと全然違うやないかい。思わず椅子から立ち上がって問い詰めそうになるが、話を続けようとうちを見つめるアリアちゃんの気持ちを汲んで座り直す。 「だってさ、すっごくすっごくトウルちゃんのこと好きで、それがアリアにも伝わってくるんだもん。男の人ってやっぱりどこか格好つけたいからって自分本意なところあるのに、いっくんってトウルちゃんに一目惚れしてからずっとトウルちゃんに必死で一生懸命で好きになってもらえるならって見た目まで変えてさ、そんないっくんが羨ましかったの」 「まぁ、確かに愛されてる自信はあんな」 告白された当時あんなに塩対応だったのにしつこ過ぎず、けれど諦める気はないと言わんばかりの距離感で追いかけられてたら流石のうちも折れざるを得ない。 「でもね、トウルちゃんもいっくんのこと初めて会った時から大好きって知ってたから、つまみ食いはやめようって」 「う、うぅん…」 「トウルちゃん、天邪鬼だからいっくんに意地悪してたけど、アリアはトウルちゃんもいっくんのこと好きって知ってたよ」 「う、うぅ、この恋愛脳め…恥ずいからそれ以上は人の中覗かんで」 アリアちゃんのそういうとこ、ほんま嫌い。 彼女は長い付き合いから全てを理解してるからこそうちの建前とか意地を全部見抜いてしまう。それをわざわざ口に出して言ってくるのだからタチが悪い。 何も言い返せずに頭を抱えていると、そんなうちを微笑ましく見ていたかと思えば眉を顰めた。 「だから、いっくんがあの学校入った時彼氏作れって言ってるトウルちゃんが何考えてるのか分からなかったの。だって学校入るまでは男女関係なく浮気は死刑って言ってたじゃん?」 「せやなぁ」 「なんで?なんで急にいっくんを誰かとくっつけようとするの?あの不良みたいな人にレイプされて笑ってるの?もういっくんのこと好きじゃないの?」 「いや、そういうわけちゃうんやけど」 さて、恋愛しか分からないアリアちゃんにうちらの関係をどう説明すればいいのやら。いや、どこから言えば伝わるのか。 首を捻りながら、うちの言葉を待っているアリアちゃんにゆっくりと噛み砕くように話を始める。 [ ←back|title|next→ ] >> index (C)siwasu 2012.03.21 |