09


 二亜はそんな俺を暫く見つめた後、パソコンに顔を向けて口に手を当てている十瑠に鋭い視線を向けた。

「お前には負けねぇ。一星は絶対俺のもんにする」
『あかん、萌え死にそう…』
「茶化すな」

 フルフル震えながら身悶えする十瑠の反応に馬鹿にされたと思ったのか、二亜は声を荒げて俺の腰を取ると強引に抱き寄せる。その時腰が痛んで眉を顰めたら戸惑うように力が緩められたので一応罪悪感は持ってくれているのだろう。

『茶化してないよ。…なぁ、一星。一星はどうなん?』
「へ?あ、俺ぇ?」

 彼女の前で行われた突然の告白についていけずぼけっとしていた俺は、十瑠の言葉でようやく思考が戻ってきた。

「いや、俺は十瑠一筋やからそんなこと言われても」
『せやな、あんたほんまにうちのこと好きやもんな』

 困り果てているものの十瑠への気持ちが揺らぐことはない。揺らぐことはないが、なんだか腹の底がボコボコと沸騰したように煮え立っていてあまりの熱さに何かが飛び出してきそうだ。
 助けを求めるように十瑠を見つめるが、画面の向こうの彼女はいつもと同じ可愛い顔で笑みを浮かべている。お前のことは何でもお見通しだ、と言わんばかりの瞳は今の俺には毒でしかない。

『でもなぁ、一星』

 あかん、こいつの言うことは間違いがない。間違いがないから、言われてしまうと逃げ道がなくなる。俺は十瑠の言葉を止めようと口を開いた。
 開いたが、その口は大きな掌で覆われてしまう。

『あんた、そんなメロメロの顔してカイチョーさんに全く気がないとは言わせへんで』
「ーーッッッ」

 気付いていた。二亜に告白されてから耳まで真っ赤なのも、顔が熱くて仕方ないのも全部気付いていた。
 でも十瑠への気持ちにも嘘はついてない。だから今俺は二亜に一体どんな感情を持っているのか分からないのだ。
 俺の口を塞ぐ手に力がこもる。おずおずと見上げればギラギラと輝いた目が俺を見据えていた。あかん、これは絶対バレてる。

「お前のそのやたら上から目線なとこ、すっげぇムカつく。絶対負けねぇ。勝てなくても、一星にお前と同じぐらい俺のこと好きにさせてやる」
『これが三角関係…あかん、萌えすぎて死ぬ……』
「そういうとこだよ!!自分が捨てられるって微塵も思ってないのが腹立つ」
『たしかに』

 十瑠は完全に揶揄ってる状態だ。まぁあいつは人を煽る天才でもあるので二亜がイライラしているのも無理はない。
 俺は二亜に同情しながらも抱き寄せられているこの状況から逃げることが出来ないものかと身体を捩らせたが、動くなと言わんばかりに首を噛まれてしまった。

「ひぇっ」
『きゃーっ』

 変な声を出すと、十瑠はハートマークがつきそうな悲鳴をあげながら俺たちを凝視してくる。その期待に満ちた目に呆れていると、不機嫌さを隠そうともしない二亜がパソコンに手を伸ばした。

「見てんじゃねぇ。謝罪も話も終わったよな、切るぞ」
『えっ、うそ、せめて音だ』

 …けでも繋げてくれ、と言いたかったのだろう。しかし二亜は無情に電源を落とすと真っ暗になった画面を見て大きなため息をついた。

「お前の彼女、強烈すぎだろ」
「いや、うん、ほんま……」

 そこも可愛いねんけど。とはこの状況では言えず、口をもごもごさせて誤魔化す。しかし気付いているのだろう、呆れた視線を向けてくる二亜に気まずくなって俯いた。

「て、ていうか話終わったんならそろそろ帰ってくれへん?いつまでおるつもりなん?」
「はぁ?何でだよ」
「いやいや、逆にここに居座り続ける理由がないやろ!俺だって一人で整理したいことあるんやかっ……ら?」

 まくし立てるように口を動かしていると、触れるだけのキスが唇に落ちてくる。ポカンと口を開けて二亜を見ると今度は塞ぐように大きな口が降ってきて下唇を噛まれたかと思うと舌が滑り込んできた。

「んっ、う?ん、んぐッ」

 二亜お得意のしつこいキスが襲いかかってくる。窒息しそうなぐらい深い口付けに苦しくなって仰け反ると、そのままソファーに押し倒されて耳を舐められた。

「ひっ、ちょ、二亜ッ」
「ほら、やっぱり肩、動かねぇんじゃねえか。抵抗が弱い。さっきも風呂で転んだろ」
「う、ぐっ」

 そうだ、さっき風呂上がりに痛み出したから薬を飲んだが、薬は痛みを和らげても治してくれるわけではない。何も言えずにいると、二亜は俺の額に手を当てて眉を顰めた。

「それに熱も出てきてる。無理させたからな。責任持って学校通えるようになるまでは面倒見てやる」
「は、はぁ?!強姦魔に看病されても余計熱が上がるだけやわ!」

 これ以上こいつをつけあがらせたくない。と、いうか俺が落ち着かないから近くにいないで欲しい。手を突っ張るが全く効果は無く、むしろ二亜はまた口付けを落としてくるとそのままTシャツの中に手を滑り込ませてきた。


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(C)siwasu 2012.03.21


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