『なんや、要するにうちを男やと間違えて襲ったってことなんかい』 「…………」 リビングでしんどすぎてソファーに身体を預ける俺と無言で床に正座してる二亜、そしてパソコンの画面越しで呆れたような声音を出しつつも頬が緩んでいる十瑠。クスリのせいもあるが結果的に浮気してしまった事実に、俺はソファーで項垂れながら十瑠がいつ別れ話を切り出すのかとこの世の終わりみたいな顔で待ち構えていた。 ちなみに床で正座している金髪のアホは元のイケメンが分からないほど顔面が腫れている。俺が散々ボコったからだ。本人も反省してるのか後悔してるのか、頭を下げたまま動かない。 そう、俺達は状況を理解した十瑠の次の言葉に怯えながらリビングで固まっていたのだった。 『……それ次の新刊のネタに使っていい?』 「ちゃっっっうやろ!!!!!」 あかん、思いっきり突っ込んでもーた。肩を落としてソファーにうつ伏せで転がると十瑠の笑い声が聞こえる。 『いやごめんって、冗談やって』 「もう、頼むわほんまに……俺お前に別れよ言われたらすぐに首吊って死んだるからな」 『別に怒ってへんで、一星のケツは浮気にカウントされへんとおもてるし。でもそのちんこ他の奴に入れたら首吊る前にうちが殺す』 その言葉に俺は大きく安堵の息を吐いた。よかったあああああ。安心しすぎて涙が出てくる。……いやちょっと待て、この場合喜んでええのか? 俺が十瑠の言葉に頭を抱えていると、画面の向こうで二亜に呼びかける声が聞こえる。 『それからな、カイチョーさん。大事なこと言っとかなあかんねんけど』 「…………おう」 『うちの名前はト・ウ・ル!ト・オ・ルじゃないねん、フリガナはト・ウ・ル!!イントネーションは一緒やけどそこ次から絶対に間違えたらあかんで、次トオル言うたら乳首に安ピン付けたるからな!』 「……わ、分かった」 襲った相手の恋人と会話するのは居心地が悪いのだろう、珍しくしおらしくしてる二亜だったが、十瑠の勢いに気圧されながら何度も頷く。 トオルとトウルの違いは大事なことやからな…。十瑠は幼少時代男の名前と言われてからかわれたせいか、トオルと呼ばれることに過剰反応を示す。とは言っても普通トウルと耳で聞いても頭にインプットされるのはトオルの方なわけで、そんな紛らわしくてややこしい名前を付けたじいちゃんを十瑠は度々愚痴っていた。ほら、今も愚痴っとるし。 俺は耳タコなんで聞いてるふりをしながら画面に向かって正座で真剣に頷く二亜を盗み見る。いつもの俺様な態度やえらそうな口ぶりはどこへ行ったのやら、もしかして女相手だと意外に弱かったりするのだろうか?もしそうならかなりウケるわ。 『な、カイチョーさんもそう思えへん!?』 「あ、お、おう」 二人とも話がかなり脱線してしまってるが早くこの状況に決着をつけてベッドでゆっくり眠りたい。…いや、ベッドは変なこと思い出すからもう今日はしんどくてもここで寝よ。 『で、一星はカイチョーさんボコって気が済んだんやろ?付き合ったら?』 「え、は、はあ!?!?」 今度は二亜の名前のことで盛り上がってるかと思ったら、突然元の話に戻った上に想像してなかった言葉を俺に振られて思わず声が裏返る。 上体を起こすと画面でしれっとした顔を見せる十瑠、というか画面に顔を近付けた。 「こんなんで許せるか!あ、あんな…あんなことしやがって……」 『でも後半はノリノリやったんやろ?』 「それはクスリのせいで……ってそもそも付き合うってなんやねん!」 『いや、相思相愛なら付き合ったらええかなーって』 「それはお前の妄想の話であって…!それにこいつと付き合ってじゃあお前とは別れろ言うんか!?」 言いながら二亜を指さして睨みつければ、さっきまでしおらしい表情を見せていた二亜は十瑠に向かって親指を立てている。…殴りたらんみたいやったな。 [ ←back|title|next→ ] >> index (C)siwasu 2012.03.21 |