01


 思いっきり頬を殴られて切れたのか、また新しい血の味が広がる。けれど、腸が煮えくり返って仕方ない俺からすればそんな痛みどうでも良かった。
 目を真っ赤にさせて怒りに震えている一星を一瞥して、仕返しとばかりに突っ込んだままの指を乱暴に進める。一星は唇を噛み締めながら身体を捻って逃げようとしたが、左肩をわざと強く掴めば声に出ない悲鳴をあげて固まった。目尻に涙を浮かべて痛みを堪えている姿に一瞬罪悪感を覚えるが、それよりも憤りと欲情の方が強く、伸し掛かって頭を押さえつけると指の数を増やして一星の内壁を擦る。
 すんなりと受け入れる入り口がいつもなら楽だと思えるのに憎かった。

 西崎に対して、最初は面白いという気持ちの方が強かった。
 今まで見てきた冷めた表情が笑ったり怒ったりころころと変わるのが新鮮で、じゃあベッドの上ではどんな顔をするのか気になって、漠然と一回ぐらいヤってみてぇという欲求を燻らせていた。好きだって言っとけば強く出れないのか甘くなる性格を利用して、押せばどっかでチャンスが来るだろうと思っていた。
 なのに、親衛隊長が一星の本性を知っていたことが面白くなかったり、三亜の奴にキスされたと聞いて無性に苛々したり、急に橘とつるむようになって気分が悪かったり、最近では双子が一星に絡むだけでムカムカしてくる始末だ。
 今日だっていつもより帰ってくる時間が遅かったから、まさか三亜にでも捕まってるんじゃないかと心配して探しに出れば、真面目な顔で親衛隊を引き連れ小走りに特別教室側の校舎に向かう親衛隊長の姿を見つけて心がざわざわした。
 脅迫に近い形で問いただせば、一星に何か合ったかもしれないと聞いて頭が真っ白になったぐらいだ。あいつが一星の為にも動かないでくれって何度蹴っても足に縋り付いてきたから頭を冷やして待てたものの、そうでなければきっと強引に乗り込んで中の奴らを半殺しにしていただろう。
 慌てて着込んだんだろうが衣類を乱して髪もぼさぼさで、眼鏡もずれて頬を染めてるあいつの姿を見た時は思わず怒りで我を忘れそうだった。
 ああ、どうやら俺は一星のことが本気で好きらしい。親衛隊達に宥められて外で待ちながら、ようやく自分の気持ちに気付いて、けれど同時に完全な失恋を味わった。
 あいつには彼女がいる。本人曰く、とても可愛くて何をされても許せる女だそうだ。いや、でも浮気は相手を殺すとか本気の目をしていたな。
 まだ本気で惚れてなかった頃は、正直彼女がいようがいまいが最終的にヤれたらそれでいいと思ってた。けれどこうして気持ちに気付いてしまうと、俺がどんなに好きだとアプローチしてもあいつの心は彼女の方に向いているわけだ、身体だけもらっても虚しいだけだろ。
 薬を盛られて怪我して弱ってる一星に理性を保ちながら何とか部屋まで運んで、ふと何故かあいつのポケットに入っていたコンドームを後日返すのも気まずいしと親衛隊長に一言告げて踵を返したのが悪かったのか。
 艶やかな嬌声と、愛おしそうに「トオル」と呼ぶ一星に頭が真っ白になった。どう考えてもそれ、男の名前じゃねえか。
 ゆっくりと部屋を開ければ、自分のケツを弄りながら電話口で甘えた声を上げている一星の今まで見たことのない表情に、俺は悔しさとかやるせなさとか怒りとか自分でもよく分からないごちゃごちゃしたものがこみ上げてきて、気付けばその後のことなんかどうでもいいからこいつを泣かせたいと思ってしまった。

「女だったら別に許せたとか、そういう意味じゃねぇんだよ」
「ぁっ!?」

 シーツを握りしめながら半ギレでこちらを睨みつける一星は、それでも感じているのか目尻に涙を浮かべて顔を紅潮させている。それに昂ぶる自分が腹立たしくて、指を勢い良く引き抜くと自分の勃起したモノを取り出して握りしめていたコンドームを付けた。片足を持ち上げてケツに宛てがえば、さっきまでの赤い顔が一気に青ざめていく。

「ち、ちょ、二亜、何ふざけて――」
「ふざけてこんなことするかよ!」
「っ」

 一星は俺の怒声に息を呑んで固まる。今更足を震わせて初心な反応を見せる姿に舌打ちすると、ゆっくりと陰茎を中に押し込んだ。

「お前がこんなくそつまんねえ嘘をつく男だとは思わなかったぜ」
「や、あ、あかん、そ、それだけは、ほんまにあか……っ」

 難なく受け入れる内壁に対し一星は首を振って逃げるように腰を引く。それが面倒で一気に奥まで突っ込んだら、口をはくはくとさせて声にならない悲鳴をあげた。身体を痙攣させて暫くした後、ぐったりと動かなくなる一星に少し頭が冷えてくる。

「男には興味ねぇ、みたいな素振りしやがって……なんでわざわざ女なんて言う必要があったんだよ」

 さっきまで襲われかけていた奴に無理矢理突っ込むなんてこと、考えれば許されることではない。それでもまだ虫の居所が悪かった俺は、自分の非を誤魔化すように悪態をついた。
 一星は瞳をぎょろりとこちらに向けると、無言で両手を伸ばしてくる。涙で濡れた目に気まずさを覚えていると、伸びてきた手は俺の首に絡んで――違う、勢い良く締めてきた。


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(C)siwasu 2012.03.21


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