08


『一星!ケツは無事なん!?』
「……最初の一言がそれってどうなん」
『あぁ、無事そうやな、良かった…どうせなら処女は会長にって決めてるから』
「いやいやいや、おかしいやろ。いやまあ、お前が気付いてくれへんかったら面倒なことになってたから助かったけど」

 仮にも彼氏に向かって言う言葉だろうか。
 呆れた溜め息を吐くと、本当に安心したように大きく息をつく音が聞こえて、茶化しながらも心配してくれていた十瑠に感謝する。

『ほんで、媚薬どんな感じなん!?』
「いや、もうちょっと心配してや……」
『そんなん言われても周りにそんなん盛られてヤられそうになってる人おらんねんもん、気になるやん』
「周りにそんなん普通におったら引くわ」

 浮かされる熱を吐き出すように息をゆっくりつきながら、勃起している下半身に手を伸ばす。
 十瑠には悪いがお前で抜かせてもらうぞ。まぁ彼女やしええやろ。

「んー、凄い、熱い」
『そんなん知っとるっちゅうねん』
「あと、全身がむずむずする」
『それも知ってる』
「……何で知っとんねん」
『BLの媚薬ネタに書いてるから』
「さよか……」

 他愛無い雑談をしながらはぁ、と息を吐いて自慰の気持ち良さに浸っていると、こら!と十瑠に窘められる。

『今オナっとるやろ』
「バレたか」
『はぁはぁ言ってたら分かるっちゅうねん』
「やって、声聞いてたらしたなってんもん」

 自分でもよくこんな声が出るな、と思うぐらい甘ったるい声を電話口に囁きかける。気分は完全にセックスする気でいるが、悲しいことに十瑠はここにいない。寂しいなぁと落ち込んでいると、向こうもその気になったのか「なぁ、」とエロい声が脳に響いて腰が痺れた。

『何回抜いたん?』
「ん、まだ一回……」
『後ろ触った?』
「ま、まだ……」

 何故分かったのだ。肩を入れてもらったばかりの空いた左手で尻を弄ろうとした瞬間、十瑠の見ていたかのような言葉に思わず周囲を見渡した。あいつのことやから郡伝いに監視カメラを設置しててもおかしないからな…。

『どうせ私と離れてから格好悪いからってあんま弄ってないんやろ』
「う、」

 その通りである。
 俺は十瑠と付き合ってからあいつに尻だけでイける程度にアナル開発をされているのだが、どう考えても十瑠の趣味からの性癖だと分かっていたので一人の時は絶対弄るまいと学園に来てからオナニーの時も触っていなかったのだ。
 それなのに今日は男たちに入口をなぞられて、催淫剤の効果もあってかすっかり疼いたケツが早く中に突っ込んでほしいとヒクついている。非道な十瑠がいればバイブを遠慮なく突っ込んでくるだろうが、生憎今は俺の指しかないので仕方ない。

「とう、るが変なとこ教えるから、ぁっ」
『いやいや、前から言うてるけど一星には元々その素質あったから』
「そんな素質、いら、んっ」

 肩で挟んだ電話口に愚痴りながら左手で肛門の入り口に触れるが、さっきまで外れていたせいか上手く指を挿入できなくてもどかしい。出来れば息子を扱いている右手は離したくないので何とか体を横にしてくの字にすると、ようやく届いた指の先端が入り口からつぷりと入った。
 ほんの少ししか入っていないのに、久しぶりの感覚に全身が粟立って背筋が震える。指をさらに進めていけば、熱い息が漏れた。

「はっ、あ」
『何一人で盛り上がっとんの』
「盛り上がって、ない……っ」

 そうは言ったもののもう指は二本入っていて、前立腺に触れては上げそうになる女みたいな甘い声を押し殺していた。右手はすっかり添えるだけになっていて、ほとんど尻だけで感じている。
 ベッドの上で馬鹿みたいにケツ弄って喘いでるような彼氏の様子を電話口で聞いて喜ぶ女はこいつぐらいだろう。

『でもめっちゃ気持ちよさそうやん。……なあ、久しぶりでそんな感じるって、ほんまはもう誰かにヤられてるんちゃうの?』
「んなわけっ、んっ、ない、やろ……!」
『だってそんな声出してヨガってたらなぁ……委員長とか?』
「もっ、えーかげんにせぇよ……っん、俺のここはっ、お、前以外の誰にも……っ触らせへんわぁ、あっ、あっ!」

 いつの間にか三本になった指は快楽に身を任せるまま動かしていて、十瑠の声を聞きながらそろそろ尻だけでイけそうだ、と肩を震わせていると小さな物音がして反射的にそちらに視線を向けた。



「…………へえ」



 ら、片手に例のコンドームを持った二亜が、昂ぶった熱を凍りつかせるほどの冷たい視線をこちらに向けて、寝室の入り口に立っていた。


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(C)siwasu 2012.03.21


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