そして扉を開ければ案の定壁に凭れ掛かっている二亜ホモがいるわけで。 「終わったでー」 「…………本当に大丈夫なのかよ」 ぐ、と堪えるように肩を揺らした二亜が、俺を伺うように見ながら近付いていいものかと躊躇う動きを見せる。 俺は俺で二亜を見てホッとしたのか、一気に体の力が抜けそうになったので郡の肩を勝手に借りて踏ん張った。 「うちんとこのは皆かしこいから問題ない。…お前が動いたら余計こじれるから、待っててくれて助かったわ」 「そこのクソドMが足にしがみ付いて頼んできたんだよ。蹴っても殴っても離れやしない」 よくやった、郡。ちょっとだけ偉いぞという意味を込めて頭を撫でてやったら調子に乗ってハァハァ言い出したので肩に添えた指に力を込めた。こら、支えがよろめいてどうする。 「わざわざ来てくれてありがとうな、でももう大丈夫やから――って何やねん……、っ」 右手で二亜に手を振って郡の背中を腰で押しながら帰路につこうと足を踏み出した瞬間、二亜に距離を詰められて俺は思わずたじろぐ。 左肩を掴まれて眉を顰めると、不機嫌そうな二亜が小さく舌打ちした。 「大丈夫じゃねえじゃねえか」 「だから今から寮に戻って保険医呼ぶつもり……」 「おい、お前保険医呼んで来いよ」 「はへっ!?」 先ほどまで空気になってた(というより俺と二亜のやり取りを楽しんでいた)郡が、話しかけられることを予想していなかったのか必要以上に驚き跳ねる。 「俺がこいつを運ぶ」 「いやいやいや、それやったらお前が保険医呼んでこいや」 「こいつの身長だったら肩も掴まりにくいだろ」 「いや、別に歩けるから問題ないし」 「ぼ、僕が保険医を呼べばいいんですね!?」 「おい、なんでお前そんなに目キラキラさせとんねん、殴るぞ」 嬉しそうに俺を見つめる郡の期待が分かるからこそ思わず半目になる。 俺は人の話を聞かずに郡の立ち位置と交代しようとする二亜を何とか防ごうと郡に引っ付いたりして抵抗を見せるが、いつもと違って力が抜けている分中途半端な拒絶にしかならない。 「だあぁぁぁ、面倒くせえ!!」 そんな姿に業を煮やしたのか、二亜はいらいらした口調で俺を引っ張ると勢いよく持ち上げて横抱きにした。要するに、お姫様抱っこというやつだ。 「なっ…………っっっ」 「〜〜〜、〜〜、っ!」 口を両手で押さえて声にならない悲鳴(勿論嬉しい方の)を上げる郡とは対照的に、俺は顔面蒼白になりながら逃げようともがくが二亜に力強く押さえ込まれてしまう。 「や、やめ――っ」 「さっさと連れてくだけだから暴れんなって」 「ちゃうくて、そんな……っや、」 俺が怖がってると思ったのか、二亜は宥めるように俺の耳元で優しい言葉をかけてきた。 いやそうじゃなくて、お前ら、俺が頑張って普通にしとるからって、薬効いてるの、忘れてへんか!? 「気になるんだったら上着で顔隠してやるから」 「あ…っ、耳元で話す、なぁ……っ」 「?一星?」 「ひ、そこ触らん……ん、んぅ〜〜っ」 我慢の限界だった。 強く抱きしめる二亜にすり寄るように肩に顔を埋めて、目の前にあるシャツの襟元を強く握りしめると、びくびくと肩を揺らし溜まっていた欲望が吐き出される。 次いで訪れたのは沈黙で、誰も何も話さないシンとした空気が居た堪れなくて死にそうだった。 「あ、あの、皇会長、そろそろ動かないと親衛隊も出てきますので……」 「お、おお、おう」 「…………」 死にそう、やなくて死にたい。 パンツの中の不快感に羞恥で固まっていると、ようやく我に返ったのか二亜が俺を抱え直して上着を包むように被せてくれた。おそらくスラックスに染みが付いているので、有り難い。 「あの、ダッシュで保険医呼んできますので、皇会長はくれぐれも手を――出すなら是非僕の前でお願いします!!」 「手を出したら殺す……末代まで呪ってやる……」 「いや、流石にこの状況では出さねえと思うから安心して行って来い」 「思ってなんや、思うって、断定しろや!」 「せめて治療が終わるまでは我慢ですよー!」 おそらく俺の二亜の状況を観察し続けたいのだろう。名残惜しそうに去っていく郡に落ち着いたら覚えてろよ、と恨みながら二亜の腕の中に大人しく収まると、二亜もようやく持ちやすくなったのか俺が疲れない体勢を上手く作ってくれた。 「あっ、んま、動かさん…とって……」 「あ?あ、あぁ、悪い」 いつもより元気のない俺に二亜も調子が狂うのか、妙に優しいのが何だか気持ち悪い。 人目に触れないよう寮まで連れて行ってもらいながら、かくして俺は貞操の危機を免れ――たのだろうか…。 二亜が寮に向かってる最中ずっと無言なのも、若干腰が引いてるのも嫌な予感しかしないのだが。 [ ←back|title|next→ ] >> index (C)siwasu 2012.03.21 |