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 生徒会にある程度面子が戻り、夏休みが明ける頃にはほぼ以前のような生徒会に戻っているといっていい平和な毎日――とはいかず、取り巻きが消えていったせいか、最近頻繁にかっぱ巻きにまとわりつかれてうんざりしている日常を送っていた時。

「皇会長じゃ飽き足らず椿くん達の次は橘くんってわけぇ?」

 放課後職員室にコピーをとりに行く途中で久しぶりに会う庚に捕まった。

「こんにちは、庚くん。お久しぶりですね」
「白々しい、そういう所大っきらい」

ちゃんと嫌味として言ったので伝わってくれているのなら本望だ。

「生徒会には顔を出さないのですか?皆心配して――」
「そうやって今まで友達を奪ってきたんだぁ〜?」
「は?」

 俺が首を傾げていると、憎々しげに頬を歪ませた庚が俺を見て笑った。

「リクも可哀想……またアンタのせいで一人になって、でもアンタはそうやってのうのうと笑ってて」
「言ってる意味がよく……」

 リク、とは誰のことか数秒悩んでかっぱ巻きのことかと思い出す。そういえばそんな名前だったな。
 もしかして俺がかっぱ巻きに何かしたとか……いやいや、会ってからこれまでむしろ逃げ続けているし(人手として)大事な生徒会メンバーを奪っていったのは向こうの方だ、返してもらって何が悪い。
 俺の困ったような表情をどう受け取ったのか、庚は大きくため息を吐くと頭を掻いた。

「リクは、もう一度アンタと仲良くなりたいと思ってここまで来たのに、これじゃあ報われないよ」
「庚くん、出来れば私に分かるように話してもらえません、か――っ!?」

 どうしたものかと溜め息をついた瞬間、後ろから気配がして振り返る間もなく両腕を後ろ手に取られた。
 ぐ、と背中を押されて相手を確認しようと首を回すが、詰め寄ってきた庚にすぐ視線を戻される。

「一応こんなの持ち歩いちゃってんだ、貞操でも守ってんの〜?」

 そう言って俺のブレザーの内ポケットから抜き出したのは、先日橘の親衛隊長からもらったスタンガンだ。
 頬にキスして以来勘違いした会長に襲われたので三度ほど使っているが、なかなかの威力で無駄に体を使う必要もなく気に入っていたのだが……風紀に見つかれば何かしら言われてしまうだろう。
 成る程、こういう嫌がらせをしてくるか……と庚を睨み付けていると、何故かにんまりと笑った庚がスタンガンの電源を入れたり消したりしている。先端から走る青白い電流がこちらに向けられ――ってこっちに使う気か!

「ちょ、待っ――」

 慌てて逃げようとしたが、目の前まで迫っていた電流はすぐに俺の横腹に押し当てられた。ビリリとした痺れる感覚が頭を直撃して脳が揺れる。こんなにも刺激が強いとは思わなかった。成る程、あの二亜がぶっ倒れるわけだ。
 死にはしないことは使ってみて確認済みなのでその辺りは安心なのだが、むしろ気を失った後に自分の身に起こることを考えて過ぎった不安は、すぐに意識が飛んで消えていった。






 昔から、関東が嫌いだった。
 小学生の頃、親父の都合で数か月母親の姓を使って関東にいたことがあったが、おそらく標準語嫌いになるきっかけはこの時だ。
 何を話しても周りからクスクス笑われ、馬鹿にしたような物真似をされ、関西だから面白いこと言ってみろと無茶ぶりまでしてくる。殴りかかれば怒られるのはいつも俺の方で、俺はとにかく関東も関東人も大嫌いだった。
 親も、今のうちに標準語を覚えろと言うし、仲間なんて一人もいなかった。

「なあ、なんでいつも一人なんだよ?」

 結局クラスでもずっと孤立していた時に話しかけてきたのは確か別のクラスの奴だったと思う。
 近寄るなオーラを出していても空気を読まず話しかけてくるそいつは、「暇だったらサッカーやろうぜ!」と何度もしつこく誘ってきた。お前は中島か。
 結局根負けしてサッカー部に入るのだが、思った以上に楽しいし何より話し方よりも技術で認めてもらえる場に、俺は嬉しくって舞い上がって毎日サッカーの練習をした。おかげでエースになれたりもして、とにかく学校に行けばサッカーのことで頭がいっぱいだった。
 エースになって周りから認めてもらえれば自然とクラスの奴らも俺に注目してくれる。気付けば俺は友達がいっぱいいて、関東もわるないやん、と引っ越してきた頃と印象が変わっていた。
 あれ?じゃあなんで最終的に関東嫌いになったんだ?


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(C)siwasu 2012.03.21


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