「西崎様は、もっと融通のきかない方だと思ってましたがそうではないのですね」 「そんなつもりでいたわけじゃないんですけどね」 いつの間にか融通のきかない頑固者というキャラになったのは主にこの口調のせいだろう。まぁ一応クールビューティー副会長やからな、そう思われても問題ないけど。 「とにかく、方言が出ることによってそのユルユルな下半身問題や粗暴な性格まで表に出てこられては、前隊長の言う通りやはり皆に嫌われてしまいます」 「だったらさっきの通りあのかっぱ巻きをどうにかしろ!」 「話を最後まで聞いてください。ただし、その二点を改善しろとまでは言いませんがもう少し控えめに出来るのでしたら、ありのままの橘様で学園を過ごすことに我々は反対しません」 つまり、女に節操なくて喧嘩っ早い性格を押さえることが出来るなら、いつも通りの橘で問題ないってことか。 「あれ?でもそれじゃあやはり橘君は今まで通りの無口で大人しく真面目な子でいることになりませんか?」 「結論で言うとそうなりますね」 部屋が沈黙に包まれた。 うーん、つまり? 「意味ないけんね!」 「だから話すときはそのダサ……ごほごほ、特徴のある話し方でいていいと――」 「博多弁馬鹿にしとるんか!?」 「そうやそうや!お前ちょっと東京弁混じってるからって西日本のこと下に見とるやろ!!」 「え?」 「え?」 え? もう一回部屋が沈黙に包まれた。 「えーっとぉ」 「今のは……」 「……」 「…………」 「………………」 「……成る程、西崎様が橘様の肩を持つ理由が分かりました」 親衛隊長の納得したような溜め息が聞こえて、グサッと胸に何かが刺さった。 「あっ、なんか馬鹿にされた気分」 「おい一星、ついでに今までの鬱憤晴らそうぜ!」 「せ、せやな!実はさっきからこいつの東京弁鼻についとったんや!」 ので、ここぞとばかりに西日本組で東京の悪口とも言えない愚痴を言い続けてたら――夜になった。 「満足しました?」 「ほ、ほら、こういう基本上から目線な所が腹立つねん……」 「本州やないからってすぐ田舎呼ばわりするのはいけんと思う……」 「今まで一度も馬鹿にしたことないんですけど」 まくし立てたせいで喉がカラカラだったところに親衛隊長が飲み物を差し入れてくれたのでありがたく飲み干す。 喉がすっきりしたところで頭も冷えてきて、俺はソファーの背凭れに体重を乗せて休憩した。 「で、何の話してたんやっけ?」 「橘様が今後どういった方針で学園を過ごされるかですね」 「めっちゃ忘れとった……」 夜になったというのに本筋の話が全く解決してなかった。 一体この数時間何をしてたんだ俺たちは……。 いや、思い出すのはやめよう。 「あの、提案なんですけど」 さて、これからどうしたものかと思考をまともに動かし始めたところで、親衛隊長がそっと手を上げた。 「当面橘様は西崎様と一緒にいる、というのはどうでしょうか?」 「私とですか?」 「はい。……あ、今更なので口調は戻さなくていいですよ、逆に違和感しかないので」 「こいつ結構失礼な奴やな」 「実は前から俺も思っとった」 「話を戻していいですか?……お二人とも相性は良さそうですし、もし戎くんが橘様の方言をバラしたとしても、西崎様といれば冗談で済むでしょうし、済まなくても西崎様となら多少本性が見えても上手く手綱を引いてもらえるのではないかと」 確かにそれは橘にとって悪くない話だ。 しかし手綱を引く、と言われても――。 「俺こいつに喧嘩で負けるんやけど」 「スタンガンを用意しましょう。ついでに他の虫退治にも使ってください」 「おいおいおいおい」 迷うことなくブレザーのポケットから出てきたスタンガンを渡される。 俺は何故かこの親衛隊長とは仲良くなれる気がしてがっしりと固い握手を交わした。 [ ←back|title|next→ ] >> index (C)siwasu 2012.03.21 |