07


「駄目です」

 きっぱりと言い切ったのは、美しい姿勢を動かしもせずに座る橘の親衛隊長だ。
 そこそこ綺麗な顔立ちだが、先生のような厳しさがにじみ出ている、何だか苦手意識を持ってしまう男だ。
 結局喧嘩に負けて橘の頼みのまま一緒に親衛隊長に話をつけに来ているのだが(こんな男一人で行かせては親衛隊長に何するか分からない不安があったのも理由の一つだ)あっさり話は終わるのかと思いきや、この頑固な隊長は素直に頷いてはくれなかった。

「いや、話を聞いていましたか?橘くんはこれが本当の橘くんで……」
「分かります。確かに前親衛隊長の橘様への異常な価値観の押しつけは僕たちも目に余っていました」
「だったら、」
「けれどその目に余る行為を受け入れざるを得なかったほど、橘様は酷かったのです!」
「……は?」 

 隊長は勢いよく立ち上がると俺の横に座っている橘を指し、指先を戦慄かせながら涙ぐんでいる。
 何故か橘は明後日の方向を向いているが……なんだ、なんか嫌な予感しかしないぞ。

「西崎様、橘様は貴方にこの現状をどう説明されましたか?」
「ええっと……前の親衛隊長にそんなダサい言葉遣いをしていると嫌われるって言われたので無口キャラでいたのが、かっぱ…戎くんにバレて言いふらされない様に彼に付き合っていた為生徒会の仕事が出来なかった……と」
「ほほう」

 何故か橘は後ろを振り向いて首をかきだした。隊長の見えないところで俺の脇腹を小突いてくるのも怪しい。

「確かにその説明に間違いはありませんが、それでは説明の半分も出来ていません」
「と、言うと?」

 要するに、橘の真相はこうだった。
 中等部の三年で編入してきた時から目立つ容姿をしていた橘にはすぐに親衛隊が付き、高等部からの即生徒会入りも間違いないと噂されていた。
 が、こいつは根っからの女好きで、そもそも地元では精通した途端にすぐ女を孕ませるクズ野郎として名を馳せ、結局矯正目的でこの学園に放り込まれていたのだった。なんちゅー話や……。
 しかしそれで懲りないのが性欲魔人橘。男は嫌だと度々学園を抜け出しては都会に降りて女を漁りに行ってたのだが、地元で遊んでいた時と比べて女たちの反応は悪い。不思議に思いつつも数撃てば当たる精神で毎夜ナンパを繰り返していたら、当時の親衛隊長が「橘様がそんなことするはずない」と部屋を監視しだす始末。
 勿論ブチギレた橘は親衛隊長に抗議。すると、親衛隊長から出た言葉が

「そもそも、そんなダサい博多弁のヤンキーに都会の女が股開く訳ないでしょう、嫌われるに決まってます。あ、でも僕は橘様のこと大好きなのでご安心ください」

 ダサい博多弁ヤンキーという言葉にショックを覚えた橘。
 都会怖い……と、暫く引きこもり生活を続けていたらしいのだが、その間も甲斐甲斐しく世話してくれた当時の親衛隊長となんやかんやあって無口キャラとして学園で大人しくしている代わりに休みに合コンに連れて行ってくれることで今の橘が出来上がった……らしい。
 ところが転入してきたかっぱ巻きによってそのキャラが崩されそうになり、このままじゃ合コンに行けなくなると思った橘はかっぱ巻きの取り巻きに。生徒会は普通にずっと休んでるのが申し訳ないから早く後任を探せるようにと、辞める意思を伝えたのだそうだ。
 シモ以外は真面目なのが橘の唯一の長所ってことか。

「……橘くんが悪いんじゃないですか」
「だってお前、これ言ったら絶対バラしとったやろ」
「ええ、間違いなくバラしてましたね」

 半眼で橘を見るとぐう、とバツが悪そうな表情を浮かべながら親衛隊長の方を睨み付ける。

「情報不足は時として嘘と捉えられても仕方ありませんよ」
「やったらあの転入生はよどうにかしろ!」
「それは確かにそうなんですけど」
「いやいや、私の前で制裁の話なんてやめてくださいね、止めたくないので」

 出来ればいいぞ、非道にならない程度にやってしまえー!と、言いたいところだが、副会長モードでいる為そうもいかない。
 けれど俺が転入生に対してどう思っているのか分かってもらえたのか、親衛隊長はクスリ、と笑うと目を細めて俺を見た。


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(C)siwasu 2012.03.21


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