06


「そして負けた」
「お、おう」

 翌日。保健室に寄ってから生徒会室に来るつもりだったので、迎えに来た二亜には先に向かっていてくれと頼んで、先生から痛み止めをもらってきた。
 そして生徒会室で不貞腐れて待っていた二亜に昨日の出来事を色々と省略して話したら、どう返していいのか分からないと言いたげな困った表情で頷かれた。

「そら運動部で体動かしてる奴は違うやん…俺めっちゃ筋肉落ちてるし勝てるはずないやん」

 だが十瑠に出会って喧嘩するようなことはなくなったとはいえ、こうもあっさり負けると悔しい。慰めるように袖を二回引っ張られて、俺は余計惨めな気持になった。

「ええねん、ええねんで。負けたのは俺やもん。ちゃんと約束は守るって」
「「ねー、なんで四鶴は一星の後ろに引っ付いてるのー?」」

 俺が後ろに向かってべそかいて返事していると、遅れて登校してきた双子が興味深そうに俺の背中にぴったりと張り付いてる橘を覗き込んだ。
 驚いたのか、びくつかせている肩も今まで演技だったのかと思うと騙されていた自分がアホらしい。

「転入生はどうしたのー?」
「なんで一星に乗り換えたのー?」
「今までなんで来なかったのー?」
「なんでなんでー?」

 矢継ぎ早に質問を浴びせられ、肩を震わせた橘は見えない位置で俺の脇腹を小突いてくる。
 あぁ、イラついてんねんな…。

「た、橘がびびってるからそれぐらいにしとき」
「昔から金魚の糞みたいな所はあったが、ただ喧嘩しただけで何で急にお前に懐いてんだ」

 ようやく現状に思考が追いついて来たのか、予想通り二亜が不機嫌そうに橘を睨み付けている。
 双子はどうにか誤魔化せるとしても二亜は何だかんだ鋭いところあるからな、さてどうしたものかと考えていると、後ろの橘からぼそっと声がした。

「裸の王様、チャック開いとるぞ」
「ぶほぉっ」

 視線の先には確かにふんぞり返った股の間から中学生か、と突っ込みたくなるようなどぎついピンク色のパンツが見えている。
 恥ずかしい。これがこの学園の王様といえる生徒会長なのか。

「か、会長、とりあえずトイレ行って来いトイレ……」
「は?ちゃんと朝抜いてきてるっつの。……あぁ、お前が抜――」
「ちゃうわボケ!!!ええからトイレの鏡で全身しっかり見てきてからもの言え!!」

 近くの棚にあったファイルを投げつければ、それを躱しながらぶつくさとトイレに立つ会長。多分ここで双子も気付いたのだろう、大爆笑して指さすから口を塞いでおいた。
 そして二亜ホモが部屋を出た瞬間に鍵を閉めて戻って来れないようにすると、ようやく後ろからホッと息をつく音が聞こえた。
 先ほどのビクついた雰囲気からふてぶてしい態度に早変わりした橘に、双子が目を丸くする。

「「四鶴??」」
「相変わらず綺麗にハモっとる」

 俺の時と同じく目を輝かせてこちらを見てくる双子に、俺は頷いて返すと嬉しそうに橘に飛びつこうとして、あしらわれた。

「男に抱きつかれる趣味はなか!」
「あんな、ちゃんと説明するから聞いてな。お前らはあの二亜ホモと違ってええ子やろ?」
「「うん、ええ子ー!!」」

 素直に手を上げて茶菓子を紅茶を応接用のテーブルに用意するとソファーに座ってわくわくと肩を揺らす双子に思わず笑みが零れる。

「まじでこの二人に話して大丈夫なん」
「最近分かったけど、あいつらは秘密を独り占めして周りの反応を楽しむタイプなんや」
「性格悪いな」

 六実の方とはクラスが同じため気付いたことなのだが、あいつら俺が副会長として周囲と話してる時は必ずと言っていいほど周囲の様子を見て楽しんでいる。
 たまにカマかけてからかってくるが、まぁ橘だったら上手くいなすだろう。
 今頃トイレで自分の羞恥に戦慄いているだろうアホは話しても面倒そうなので今回は申し訳ないが仲間外れにさせていただく。

「まぁ、要するにちゃんと説明するとやな……」


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(C)siwasu 2012.03.21


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