05


「ふむふむ、つまりお前の場合脅されてたようなもんか」
「ん〜、でも戎くんも悪い子やないと思うんやけど…」
「アホか!お前が隠してる博多弁言いふらそうとしてる時点で悪い子に決まってるやろ!」

 どうやら俺とは少し違うが似ている理由で方言を隠していた橘は、こちらが素直に仲間だと教えるとあっさり生徒会に来なかった理由を話してくれた。
 どうやらさっきの俺の時のように、親と電話しているところをかっぱ巻きに見つかってしまい「友達である俺の前やったらありのままのお前でいてええねんで!」と、広い心で受け止めてくれたのかと思いきや「でも皆に隠し事するのはあかんと思うねん、だから俺みたいにもっと堂々と話したらええんちゃう!?」と周囲に橘の秘密を話そうとする始末。
 最初の発言は一体なんやったんや……。
 結局秘密をバラされたくないので、始終張り付いていなければならない羽目になったとか。ご愁傷様……。

「でも、それで生徒会の仕事放棄するのは何か違うと思ったし、皆に嫌われたくないけんこれを隠しとったのに、結局本末転倒だなって」
「うんうん、分かるぞその気持ち」
「と、いうわけでこれ以上生徒会にご迷惑をおかけするのも博多弁隠すのも疲れたので、生徒会を辞めさせてください」
「いやいや、それはおかしいやろ」

 丁寧に頭を下げる橘に、俺は首を横に振る。

「だって、どうせこのままやったら戎くん俺のこと言いふらすやろうけん」
「かっぱ巻きが言いふらしたからって生徒会辞めるのは違うやろ」
「かっぱま……っっ」

 何かツボったらしい。
 急に噴き出したかと思えば腹を抱えて震えだす橘に、俺は呆れたような溜め息を一つ落とした。

「確かに方言って恥ずいけど、それで橘が仕事出来ひんわけちゃうやろ?」
「でも、一応人気で得とる地位でもあるけんさ……」
「親衛隊か?」

 聞けば、苦い顔をしながら橘は頷いた。
 そう。橘が博多弁を隠してしまったのは、卒業してしまった元親衛隊の先輩に「そんなださい言葉遣いをされていると、誰にも好かれませんよ?」と言われたかららしい。
 嫌われるのが怖くて博多弁を封印して、かといって標準語を話すとどうしても訛りが出てしまう為結果的に無口なキャラクターに落ち着いたのだとか。
 普通に話しとってもええ子やのにな。

「あんま無責任なこと言われへんけど、俺は橘がそんな話し方しとっても親衛隊はきらえへんと思うで?」
「……え?」
「お前探してる時な、クラスに行ったら親衛隊の子がおったんやけど、めっちゃ友達のこと心配してるーって感じやったで?」
「え、」
「俺の親衛隊は隊長が理解ありすぎるというかそういうの偏見ないし、俺の都合考えて周りにも上手く隠してくれてんねんけど、橘は別に隠したいわけちゃうんやろ?」
「あー……」
「せやったらまずは橘の隊長に話つけてみたら?親衛隊って、俺らのこと好きで勝手になってるもんやし。それで自分の思ってた人とちゃうかったって、それ、そもそも親衛隊ちゃうから。ただの追っかけやん」
「追っかけ、」
「そうそう。あんだけ統率とって親衛隊って名乗ってるからには、どんな橘でも道を外れん限りは味方でいるもんやと、俺は親衛隊ってそういうもんやと思ってたけど」
「そう、なんです?」
「ていうか俺の都合良くない親衛隊やったらまず解散させてるわ!普通なに勝手に人のファン捌いとんねんって思うやろ」
「はは……副会長、素でも言いたい放題じゃん。性格変っとらん」
「それは初めて言われたわ」

 全然違うと言われ続けていただけに、変わってないと言われると何かむず痒さを覚える。
 橘は俺の言葉で吹っ切れたのか、そうですよね、と呟きながら首と肩を回して吹っ切れたような表情を見せた。

「とりあえず親衛隊と話、つけてきます。文句があれば黙らせればいいっちゃんね?」
「ん?お、おぅ?そうやな……あと言おう言おう思っとったけど、先輩やぞ、ちゃんと敬語使えよ殴るぞ」

 どこか引っかかるところがあるが、どうやら橘は自分の中で納得してくれたらしい。
 話すことに慣れてきたのか、タメ口なのが気に障って本当に殴りたくなったが、なるべく愛想のいい笑みを浮かべて注意してやる。

「は?」
「あ?」

 が、「はい、すみません」で終わらなかった。
 突然喧嘩腰になる橘につい俺も乗せられて二人同時に立ち上がる。

「いやいや、俺が先輩や、ゆーとるやろ。お前敬語の使い方知らんのか?」
「敬語って尊敬しとる人に使うもんやろ、副会長に感謝はしとるけど尊敬はしとらんし」

 その瞬間お互い感じ取ったはずだ。
 こいつ、同類や。
 何も言わずとも肩慣らしし始める二人に、そういえば部室の鍵を閉めておいて正解だったと過去の自分を褒めてやる。こんな状況見られたら二人とも確実にアウトだ。下手すれば退学だ。

「おし、顔はあかんぞ」
「それぐらい分っとる」
「敬語使えや殺すぞ」
「敬語使わせてみろや」
 迷わず横っ腹に一発決めたのを合図に、結局俺たちは子供みたいな喧嘩をした。


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(C)siwasu 2012.03.21


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