05


 俺は体を捩って腕の中からの脱出を試みるも、力を籠められ余計に密着度が増した。
 くそ、さっき俺の力(華麗なるアッパーとキック)を出し切るんやなかったわ。確実に警戒されとる。

「なぁ、いいだろ?」
「…っく、くすぐったいわ…ボケ…」

 耳元に近い唇は、少し動かしただけで柔らかい肌に刺激を与えてくる。
 思わず漏れそうになる声を抑えながら、俺は目を閉じ平常心を保つよう心掛けた。

「どうすりゃ俺と付き合うんだよ?」
「……知るか…っ」
「…強姦とか脅迫とか?」
「ごめんそれだけは勘弁してマジで…!!!」

 本人の前でよくもまぁそんな物騒なことが言えるな、お前は。
 俺は慌てて会長を見上げると、何故か言った本人が不服そうな顔。

「…俺も嫌いだ」
「何で言うたんや」
「んー…」

 そこで会長は甘えるように俺の肩に顔を埋めた。

「好きだから」
「…っ」
「とか?」
「…何で疑問系やねん」

 返す言葉がそれとかおかしいやろ、俺。
 しかしこの状況をどうにかするには一度こいつの言葉を受け入れた方がいいの、か?
 ただ素直に受け止めるのも何だか釈然としない為、俺は溜め息を吐きながら条件をつけることにした。

「…これから仕事は真面目にやれ。あと役員戻せ。ついでにあのカッパ巻きをどうにかしろ。それから絶対俺の嫌がることすんな。…それが出来たら」
「俺のもんになんのか?」
「アホかっ!考えることぐらいはしたるだけや!」
「んだよ、ケチ臭えな」

 ブツブツ言いながらも妥協はしてくれたらしい。腕の力が弱まるのを見計らって俺はすかさず右手を抜くと、会長の脇腹を狙ってボディブローをキメた。

「ぐふ…っ」
「いつまで人をマネキンにするつもりや。腕固まってもうとるやんけ」

 膝をつく会長を見下ろしながら、俺はようやく自由になった腕を回して凝りを解す。

「お前…約束忘れんなよ」
「…何の?」
「さっき言ったこと出来りゃ、俺と付き合うっつー」
「だから何でいつの間にランクアップしとんねん!何でもかんでもすぐ捏造すんな!!」

 自分の都合のいい方向に持っていきたがる自己中男に俺は呆れた視線を送る。これさえなければまだ会長として尊敬出来たものを。

「なぁ、一星」
「なんや、二亜ホモ」
「三亜のネタを使い回すなよ、ムカつくから」

 相変わらず兄弟仲の悪いことで。
 お互い妙な対抗意識を持っている面倒臭い兄弟に好かれた自分に目眩を起こしつつ、俺に手を伸ばす目の前の男を遠慮なく足蹴にした。
 こういうのは下手な素振りを見せずかつ徹底的に叩くことが大事だ。

「っ…蓮姫っつーよりはじゃじゃ馬姫だな」
「じゃかぁしいっ!そのあだ名嫌いやねん、言うな!!………ていうかおい、そういえばお前、いつの間に俺の名前勝手に呼んどんねん」

 余りにもナチュラルに下の名前で呼ぶからつい流す所だった。
 しかし会長からは何馬鹿なことを、と言いたげに鼻で笑われる。

「名前は呼ぶ為にあんだろーが」
「…ここで名前呼びとかしたら誤解されるやろ、西崎でええって」
「それだと他人行儀だろ」
「いや、他人やから!」

 あかん、こいつの噛み合わん所をいちいちツッコんでたら話が終わらん…。
 痛くなる頭を押さえつつ、俺は落ち着く為に一度深呼吸した。

「…他の奴おる前では言うなよ?」
「?」
「二人だけの時は許したるー言うとんねん!」
「あぁ、なんだ。お前やっぱり俺のこと」
「好きちゃうから!もう嫌!この男!!」

 耐え切れず顔を手で覆うと、目の前にいるらしき会長が俺の両手を掴んだ為顔をさらけ出される。

「二亜」
「は?」
「お前は二亜って呼べよ?」

 口角を上げ偉そうにそう告げる男に、俺は思わず口の端が引き攣った。
 この先振り回されそうな予感しかない現状は、諦めるべきか足掻くべきか…どちらにせよ苦労は見えている気がする。

「もう遅いから帰ってとっとと寝ろ。んで、俺の夢見ながらぐっすり眠れ」
「夢にまで出てくるとかほんま勘弁して…」

 そう言いながら俺の手を引く会長と共に生徒会室を出ると寮に戻る。
 ちなみに当たり前のように一緒に帰っている状況には首を傾げるだけで済んだが、同じく当たり前のように部屋に上がってこようとした時は思いっきり腹に拳を入れておいた。こいつ、全ての行動に迷いが無さすぎてつい流されそうになる。油断出来ん。

「っあー…二亜…?」
「あ?」

 俺は言い忘れてたことを思い出し、周囲に人がいないことを確認してから自分の部屋に向かう会長…二亜の背中に声をかけた。

「俺が関西人なん、誰にも言わんといてや?」
「?当たり前だろ?」

 眉を寄せて不思議そうに答える二亜に俺は思わず笑ってしまい、謝罪すると「おやすみ」と声をかけて扉を閉める。
 自己中で偉そうな俺様だが、悪い奴ではない。今までは二亜のことを心中で蔑んでたがこれからの態度次第では見直してやらんこともないな、と俺は鼻歌を歌いながら日課である愛する彼女への一日の報告をするべく、パソコンの電源を入れた。


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(C)siwasu 2012.03.21


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