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 ◆◇◆



「と、いうわけで」
「お兄ちゃんとボクたちはこのように相思相愛なので、よけいなことはしないでください」

 落ち着いたジャズの流れる喫茶店。古びた内装が店の雰囲気とよく合っていて、店長の淹れる珈琲も美味い。
 俺はクラシックな赤のソファー席に座りながら、向かい側でスマートフォンに映るあられもない俺と目の前の俺を交互に見比べる友人の視線に耐えきれず、顔を両手で覆って俯いた。
 見えないがさぞ驚いた顔をしているのだろう。地獄だ、この世の地獄だ。

「ええっ……と、その」
「頼む、俺のなけなしのプライドのためにもコメントは控えてくれ」

 出た声は自分でも驚くほど震えていて、土屋は無言の後「そうかぁ」と盛大な独り言を漏らしながら大きく息を吐いた。

「いや、うん。そっか……うん。そうとは知らずごめんね、悠人くん、幸人くん」
「かまいません」

 俺の両側に座る二人の表情は、普段「礼央お兄ちゃん」と笑いかけるそれとは程遠い。冷たい視線のまま土屋の手からスマートフォンを取り返すと、画面を操作しながら口を開いた。

「カリンちゃんにはあの時の会話を録音したデータ、聞かせておきましたから」
「えっ、ちょ、それどういう――」
「礼央お兄ちゃん、カリンちゃんをようち園までむかえに行った時、帰り道にとった写真をSNSにあげてましたよね」
「顔をスタンプでかくしていたとはいえ、イッショにあんな目立つカンバンが写ってたら場所はすぐ特定できます」
「あとは礼央という名前を知ってるカリンちゃんを見つければいいだけの話なので」
「すごく泣いてましたよ、カリンちゃん」

 え、なにそれお前らカリンちゃんの幼稚園を特定して会いに行ったの?
 こわ、怖すぎる。もうネットに写真あげるのやめよう。
 二人の固くて他人行儀な話し方には土屋への完全な拒絶が見てとれる。土屋も気付いているだろうが、今は二人の衝撃発言に顔を青褪めさせていた。
 普通の恋人ならここで連絡を取ればいいだけの話だが、残念ながら幼稚園児であるカリンちゃんは携帯電話を持っていない。おろおろと落ち着きなく周囲を見渡す土屋に俺は胸中でスマンと謝った。

「話はそれだけです」
「お時間を取らせてしまい申しわけありません」

 お前ら、俺にキスを仕掛けた土屋に対して本気でブチギレてるだろ。立ち上がり頭を下げる姿を呆れながら見つめる。


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(C)siwasu 2012.03.21


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