02


「人の恋路にちょっかいかけるもんじゃないね……はは」

 俺は乾いた笑いを見せる土屋に心苦しさを感じて口を開いたが、二人に腕を組まれて引きずられるように席を外す。
 慌ててレシートを取れば、土屋が弟達を呼び止めて困ったように微笑んだ。

「ちなみに、君達のお兄ちゃんとの友人関係については、現状維持でかまわないのかな?」
「……それはお兄ちゃんが決めることなので」
「ボクたちが口を出すところではありません」
「寛大な弟くん達で良かったね」

 そう視線を向けてくる土屋に、俺はどう答えていいのか分からず頭をかいた。むしろお前こそ俺のあんな痴態を見せられた挙句、カリンちゃんとの仲も危ういというのに友人関係を続けてくれるのか。
 無言で見つめ合っていると、これ以上の話はおしまいだとでも言わんばかりに腕を引っ張られて、俺はレシートを持ったまま手だけ軽く上げ土屋に別れを告げた。
 学園から数駅離れたこの場所は、ちょうどオフィス街と山の中間で空気が気持ち良い。気晴らしで寄り道する時に何度か土屋と訪れていたのだが、そういえば何故こいつらは話の場にこの喫茶店を指定したのだろう。連れてきたことがないから知らないはずだが。
 首を傾げていると、二人は俺の腕に飛びついていつものようにキラキラさせた目を向けてきた。

「お兄ちゃん、ボク、おなかへったぁ」
「ボクも!」
「じゃあさっきの店でなんか食っとけば良かったじゃねえか」

 呆れながら答えれば、二人は笑みを浮かべて腕から離れると俺の手を握って指を絡めてくる。
 驚いて周囲を見回すが人気は少なく、そもそも小学生と恋人繋ぎなんてじゃれているようにしか見られないか、と俺はそのまま指を絡めた手を握った。

「だってボクたち、そこの角を曲がったオムライス屋さんがいいんだもん」
「デミグラスソースのやつが一番美味しいんでしょ?」
「…………」

 だから何故知っている。
 思わず半眼で二人を見るが、視線を無視して手を引っ張るこいつらに肩を落としてため息をついた。細かいことを気にするのはやめよう、知りたくなかったことまで知ってしまいそうだ。
 そのまま暫くオムライス屋に向かって歩いていると、急に二人は俺の甲を優しく撫であげてきた。意図を感じさせる触れ方に背筋を粟立てていると、右にいる方が小首を傾げて俺を見上げる。

「ボクはどっちだ?」
「っ」

 そう言いながら俺の手を引っ張って自分の股間に当てる弟に、慌てて姿勢を正すと俯きながら小声で呟いた。

「……幸人」

 答えを聞いた幸人は目を細めながらにんまりとした笑みを浮かべる。俺はなんだか悔しくなって唇を噛み締めた。

「もうまちがえちゃだめだよ?」

 左にいる悠人がそう言って手を強く握りしめる。
 俺の身体はこいつらにすっかり調教されてしまったらしい。それに嘆息を漏らしながらもどこか嬉しいのは、やっぱりこいつらのことが好きな証拠だろう。
 とりあえず今はデミグラスソースのオムライスを食わせてこいつらの腹を満足させることにするか。
 俺は悠人と幸人の腕を引っ張ると、足早に店へと向かった。


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(C)siwasu 2012.03.21


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