02


 何故怒りだしたのか分からないまま、シスはマオをまじまじと見つめて言った。

「マオは……やはり、魔王なのだな」
「今更なに言ってんだ」

 ため息をつきながら、マオは優しい手つきでシスを抱き寄せると、部屋の中央にある天蓋付きの大きなベッドへと移動した。
 ベッドもやはり部屋と同様、黒一色で、ところどころにある金の装飾が、余計にその独特な世界観を強調している。

「やっぱり魔王の俺よりも、大好きな勇者様の方がいいとか言い出さねえよな?」

 シーツが黒でないことだけが幸いだと、マオはシスを押し倒してスプリングを沈めながら、眉を寄せて問う。
 シスは勇者に心酔しており、その宿敵である魔王を絶対悪だと憎んでいる。そんなテンプレートのような正義感で頭をガチガチに固めた男が、旅を共にし、体を重ねただけで、魔王であるマオに気持ちが傾くのか。
 態度を見ていれば、自分に好意があるのは分かっていても、やはり不安は拭えない。
 しかし、そんなマオの気持ちなど知らないシスは、子供のように拗ねた顔を見て、おかしそうに笑った。

「ふふ」
「んだよ」
「いや、すまない。……案ずるな。確かに僕は、幼き頃から勇者を慕ってきた。けれど、こんなにも心揺さぶられ、愛しいと思えた相手は君しかいない」

 シスは、見下ろすマオの頬を両手で包み込み、目を細める。

「愛しているよ、マオ」

 そう言って美しく微笑む姿に、マオは途端に顔を赤くさせて飛びのいた。
 そして、自分の咄嗟の行動に照れたのか、気まずそうに頬をかきながら視線を彷徨わせる。

「っあー……よくそんな、王子様みたいな歯の浮いた台詞……あぁ、そういや王子だったな」
「茶化すんじゃない。僕だって照れ臭いんだ……そうだ。マオも一つぐらい、僕に愛の言葉を囁いてくれないか?」

 いつもは相手のペースに巻き込まれてばかりだったため、マオのこういった姿を見るのは初めてで新鮮だ。
 シスは体を起こすと、笑みを浮かべてにじり寄った。
 マオは逃げ腰になりながら、慌てて首を振る。

「俺、そういうのはパス。無理」
「おい」

 折角作った雰囲気を壊されて、シスは思わずジト目になる。
 マオは冷めた空気を誤魔化すように、シスの肩に手を置くと、優しく言い聞かせた。

「その代わり、今からちんこでいっぱい伝えてやるから、な?」
「くそ、頭が痛くなってきた。その即物的な思考はどうにかならないのか……」

 これが冗談ではなく、本気で言っているのだから質が悪い。
 シスとの旅で多少は改心したと思ったが、やはり本質的な部分は変わらないらしい。とは言え、元々がクズで非道であるマオからすれば、十分な改心ではあるが。
 マオは、興が冷めたと呆れるシスを抱き寄せる。
 そして、背中、下半身と、下に向かって指を滑らせると、ふくよかな臀部を揉みしだき、耳元で囁く。

「でも、お前だって早く俺とヤりたくて、ウズウズしてるだろ」
「っ」

 確信を含んだ言葉に間違いはなかった。
 シスは平常心を装っているが、ベッドを視界に入れた時からずっと、下腹部を疼かせている。

「こ、こんな体になったのは」
「はいはい、俺のせいだろ」

 何度目かの慣れた応酬を返しながら、マオはシスの外套を脱がせ、衣類や下着を取り除いていく。
 こうしてお互いが求めあって繋がるのは、初めてのことだ。
 意識すると、途端に羞恥が巡る。
 自分を見つめる瞳から視線を離せないでいると、それがゆっくりと下に向けられた。

「……俺のせいで、エッチな体になった淫乱王子様。うむ、悪くねぇな」

 視線の先にある、シスの下腹部。
 行為を期待して既にそそり立った中央からは、涎のように、だらだらと先走り汁が垂れ落ちている。
 シスは慌てて足を閉じると、顔を真っ赤に染め上げた。

「う……も、いい。早く触ってくれ」
「言葉をくれって言ったくせに」

 意地の悪い笑みを向けられる。先ほどの意趣返しだろう。
 シスはぐ、と言葉を飲み込むと、俯きながら呟いた。

「さっきから、マオに見つめられていると……体中が熱くて、仕方がない」

 胎の奥がじくじくと熱を持つ。
 まるで、全身が性感帯になったような気分だ。産毛一本一本すら反応して、それだけで甘い絶頂へと達しそうになる。
 けれど、それだけでは足りない。
 シスは目を伏せる。

「舌で、指で……」

 言いながら、ゆっくりとマオの唇に触れる。指の上をなぞる。
 熱い吐息に乗せる言葉と共に、シスは徐々に下腹部へと手を滑らせた。

「…………」

 そして、少し盛り上がった布の上でそれを止めると、少しの躊躇のあと、か細い声で言う。

「こ……ここ、で、君を、感じたい」

 羞恥に膜を張った瞳が、マオに向けられる。
 それが合図のように、シスは力強く抱き寄せられた。


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(C)siwasu 2012.03.21


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