01


 空が翳り、大地が裂け、草木は枯れ、動物たちが魔物へと変異する。ダライア地方で起こるそれらの異常現象は、全て魔王が復活する兆しだ。
 しかし、魔王と共に現れる上級の魔物と遭遇したにも関わらず、それらの現象は未だ確認できていない。

「今回のケースは過去に一度もなかった。勇者であるマオが先に現れたことといい、僕らには予測もつかない何かが起きているのかもしれない」

 難しい表情を顔に貼り付けたシスが、考えるように腕を組む。
 次の目的地へと向かう森の中。二人は食事のために雑木の下で休息をとっていた。
 あれから上級の魔物は見ていない。
 王宮に文は送っているが、届くのはシスたちがダライアに入った後になるだろう。既に魔王復活に向けて対策はしている筈だが、現状待機も数か月経てば油断が生まれる。
 せめて兄たちが予定より早く戻っていることを信じるしかない。
 人の話を聞いているのかいないのか、草むらを漁りだすマオを睨みつけながら、シスは深い息を吐く。
 先程からなにかを探すようにきょろきょろと見回しているようだが、彼の行動の大半はろくでもないことばかりだ。
 どうやら何かを探しているらしい。後姿に半眼を送りながら近付くと、振り返ったマオがニヤリと笑みを浮かべた。

「何をしているんだ」
「見てみろよ、シス。こいつ面白ぇぞ」

 ヴーーーーーーッ、ヴーーヴィーーーーーーン。

 マオが手に掴んだそれをこちらに見せつけるのと同時に、独特な音が耳に入ってくる。
 シスは音の正体を確認して、ほう、と小さな声を漏らした。

「ビーブレビーじゃないか」

 ビーブレビーは、四センチ程しかない海老のような形状をした体長に、左右に五枚の羽を持つ、鳥にも虫にも見える生き物だ。
 身体構造から最小の鳥だと言われているが、一部で羽の構造から虫だと主張する学者もいる。
 高速で羽ばたく羽は独特の振動音を出しており、素早く変則的な動きのせいで捕まえることは難しい。
 雨季になると繁殖のために穀物を荒らしたり、家畜に病気を移すことがあるため、農家には嫌悪されていた。
 群れで行動するはずだが、おそらくはぐれたのだろう。怪我をして動きが鈍くなったところをマオに捕まったのか。
 間近で見るのは初めてだと顔を近付けると、魔物にも負けず劣らず凶悪な顔が威嚇するように鋭くなった。

「へぇ、魔物じゃねえのか」
「しかし、このような生物は魔王復活の際、真っ先に魔物へと変異する。無闇に捕まえたり、近付かない方がいい」

 特に魔王が復活しているはずの現状で、いつ人間を襲う魔物に変わるか分からない。
 ビーブレビーは害獣だが、人間自体には危害を加えない。こちらが刺激しなければ、襲われることはないのだ。
 そう言って取り上げようと伸ばしたシスの手は、マオがそれを持ちあげたことで空振りに終わる。
 面白い玩具を見つけたと言わんばかりの表情に、シスは呆れを含めた視線を送った。

「人の話を聞いていたか?」
「大丈夫だって、まだ魔物にはなってねえみたいだし。それよりこの音、聞き覚えがあるからちょっと試してえことがあるんだよ」

 マオは胴体を摘まんだまま、もがくビーブレビーの腹をくすぐる。嫌がっているのか、羽音が一層強くなった。
 それに目を細める姿を見て、シスは首を傾げる。

「似たような生物でもいたのか?」
「あー……いや、生き物じゃねえ」

 マオは、じっくりと見回しながら反対の手で大きさを測り頷くと、生きたままアイテムボックスに仕舞いこむ。

「サイズ感も問題なさそうだし、イケるって」
「知ってるぞ……貴様のその顔はろくでもないことに決まっている」

 彼の内面を知らなければ見惚れていただろう笑みに、シスは半眼を向ける。
 そして、粟立つ背筋に己の身を保証するためにも、旅路を急ごうと決意したのだった。


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(C)siwasu 2012.03.21


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