02


   ◆◇◆



「それで、どうするんだ」

 日が暮れかけた頃。
 小さな村に立ち寄った二人は、藁の上にシーツを敷いただけの寝所に腰かけていた。
 宿もない村は人を泊めることが出来ず、村人が申し訳なさそうに案内したのは、半年前に家主が亡くなり無人となった掘っ立て小屋だ。
 ダライア地方に近い土地は、作物が育ちにくく魔物も多いため過疎地となっており、このような寂れた村は珍しくない。
 しかし、特産品である鉱石を求めて出稼ぎに来る者や冒険者が少なくないため、中心地のような町は存在している。
 本来ならその町に泊まる予定の二人だったのだが、偶然祭りを開催しており、その様子を見てマオが「うるさい」と素通りしてしまった。
 そして、この寂れた村にきて宿を提供しろと強引に迫ったのだ。
 横柄な態度にも嫌な顔一つせず、むしろこの村では贅沢と言っていい食事をもてなしてくれた村長には感謝しかない。
 その食事すらマオは不味いと唾を吐きかけていたので流石にテーブルの下で足を踏みつけたが。
 用意してくれた桶で体を洗い、幾分かさっぱりとした表情を見せるシスは、アイテムボックスから取り出したビーブレビーを見てマオの隣に腰かける。

「まずは、カラカラ卵の殻を加工して手のひらサイズより少し小さめの容器を作る」

 言いながら、マオはボックスからいくつかのアイテムを取り出すと、器用に卵型のケースを成形した。
 その光景を見て、シスは感嘆の声を漏らす。

「ほう、上手いものだな。勇者よりもアイテム職人の方が向いているのではないか?」

 わざとらしい嫌味に、ジト目が返ってくる。

「お前も言うようになったよな……まあ、いいや。それで、この中にロ――ビーブレビーを入れる」
「……ケージか? しかし密閉してしまっては可哀想だ。悪趣味だが、飼うならせめて穴を開けてやれ」
「いいんだよ、最終的に死んでも。だって元々は害獣みたいなもんなんだろ?」

 ビーブレビーは抵抗しているのか、中で羽をばたつかせケースに振動を与えている。
 流石にやり過ぎだと思ったシスは、マオの発言に眉を寄せる。

「害獣だろうと魔物だろうと、生物に粗末な扱いをするものではない」
「中途半端な偽善見せてんじゃねーぞ。嫌なものは全部死ねばいいじゃねえか。……まぁ、今回はその前にちょっと役立ってもらうってだけで」
「役に……?」

 シスは更に眉間の皺を深くすると、それを揉み解すように指を当てながら深い溜息を吐いた。
 呆れのようにも諦めのようにも見えるその姿から、悲観した声がこぼれる。

「マオ、僕は君の発言が恐ろしい。勇者としてあまりにも倫理観に欠けたその思想は、まるで魔王のようだ」

 彼がクズであることは分かりきっている。それでも旅の中で少しは勇者としての「らしさ」が芽生えると期待していた。
 しかし、そんな甘い考えに後悔を覚えるほどマオはブレない。
 一貫して思考が非人道的なのだ。
 彼の更生を夢見ていたシスは、ほろりと弱音を漏らす。だが、返ってきた言葉はあっけらかんとしたものだった。

「じゃあ、魔王に転職でもするかな」
「ふざけるな!」

 間を置かず飛んだ怒声に、マオが瞬きをする。
 シスは詰め寄りながら呆けた顔を睨みつけた。

「貴様はこの世界を救う勇者だろう! 悪ふざけでもそのような冗談を言うものではない……!」

 シスはそう言ってマオの目を真っ直ぐに見つめた。風にあおられているのか。みしり、ぐわり、と軋み音が部屋に響く。
 迷いのない純粋な怒りを受けて、マオは口の中で言葉を転がした。

「……散々言う割には、俺が勇者ってとこは意地でも信じるんだな」
「今なんと言った?」

 聞こえてはいたが理解できず聞き返すシスに、マオは嘆息をつきながら顔を逸らす。

「シスは俺のことが大好きだから、俺が勇者じゃなきゃ困るんだなって思っただけ」

 不貞腐れるように吐き捨てられた言葉を聞いて、今度はシスが瞬きを繰り返した。そして頭を振ると、制止するように手のひらを前へと突き出す。

「待て。僕が好きなのは勇者であって貴様では――」

 だが言い切る前に、シスはその手をマオに取られてシーツの上へと突き飛ばされた。
 視界に入る天井に呆けていると、マオが覗き込んでくる。

「無駄話はもういい、早く服脱げって。……ああ、それとも脱がされたい派?」
「っ!」

 マオはそう言って目を細め、厭らしく笑みを浮かべる。そして、それまでの話題から一転、好色な空気を漂わせシャツの上から胸元をくすぐってきた。
 まるで話を逸らしても無駄だ、と言われているようで、シスはカッとなる。決して性行為に意欲的なわけではないが、自分の役割から目を逸らすほど卑怯者でもない。
 逃げていると思われたことに腹が立ち、激情のまま体を起こすとシャツのボタンを丁寧に外す。
 そしてシャツを脱ぎ、グローブを取るとそれを端に放り投げた。
 アクセサリーや装備品も外し、ボックス内に仕舞う。


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(C)siwasu 2012.03.21


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