シスは見かけによらず男らしい性格をしている。だから、納得したのなら彼の中で抵抗の意志はない。 ただ純粋に「挿入だけで気持ちいいし経験値も稼げるから、マオの性欲は、わざわざ動かなくてもスキルのある手と口で楽しませてやる」と考えているのだ。 そして、最悪なことにそれが最良だと信じている。 経験があると言ってはいるが、このような発想は本当のセックスを知らない人間にしか考えつかない。 よってマオの中で、シスは風俗相手に童貞を捨てただけの素人童貞レベル確定である。 どうせ相手に動いてもらって、わけも分からぬうちに終わったのだろう。そして実際のところ、それは当たっている。 「可愛いことでも言ってくれんのかなって期待してたのに、お前やっぱりそういうとこズレてるよな」 「ぼ、っぼくは、んぁっ、あぐっ、こんな効率の悪い方法じゃ、なくて――んん……ッッ!」 ぱちゅんっ、ぱちゅんっ、ぐりゅっ、ぬぐぐ……ずりゅっん! やはり、プラントーブに襲われた夜よりも、シスの反応は悪い。 気持ち良さよりは圧迫感による苦しさが勝っているような表情だ。仕方のないこととはいえ、男としての矜持は刺激される。 マオは腰の運びを緩やかにすると、あの夜シスが強い反応を示したしこりを丁寧に擦りあげた。 「ひぁっ!? あっ、あ! あっ、そ、っこォ……ッ!」 「シスの気持ちいいところだろ? 教えてくれたもんな?」 「待っ、も、っと、ゆっ……くっ……ん……っんあッ」 刺激に戸惑うシスが腰を浮かせて逃げようとする。 マオは体を倒してシスに圧し掛かった。 身動きが取れなくなったシスは、眉間に深い皺を寄せて歯を食いしばっている。 「ふー、ふーっ、ふーっ……ふ……」 「ちゃんと感じてはいんのな」 「ふーっ、ぼ、僕の、提案に、何のふ、まんが……ッ」 疑問がシスの理性を繋ぎとめる。 分からない、と向けられる困惑の目に、マオは半眼で言った。 「気持ち良さのレベルが違うだろうが。フェラでも妥協できるけど、セックスできるならセックスの方がいいに決まってんだろ」 「でも……」 「なんだよ、何が気に食わねえんだよ」 ここまで彼がまごつくのも珍しい。 片眉を持ち上げて動きを止めたマオが不愉快な顔を見せると、シスは困ったように手を口元に当てた。 「行為に理由と納得が出来た以上、今更言い逃れをするつもりはない。これも魔王討伐のためだと思えば、も、もう腹はくくっている。……けれど、一つ気になることが」 「なに」 「排泄器官はそのための場所でない以上、どうしても女性のものに劣る。元の世界で女性としか経験のないマオが、男性である僕で本当に満足できるのだろうか、とか」 「ほう」 「それなら、スキルの高い口淫の方が君を満足させられる自信はある。それなのに、何故こちらに固執するのか理解出来ないんだ」 「……ふむ。つまり、シスは自分のケツマンに自信が無いと」 「っ、どうして貴様はそういう――……いや、もういい。そう受け取ってもらっても構わない」 そう言ってシスは深い息を吐いた。 生真面目で貞操観念の強いシスの中で、この行為にあと一押しの理由が欲しいのだろう。 マオには「ヤりたいからヤりたい」しかない。 そこに今朝「好きだからヤりたい」も追加されたわけだが。 どう言えば、この頭の固い男を丸め込め――もとい、納得させることが出来るのか。 マオは考えたが、すぐに諦めて吐き出すように言った。 「そりゃ、フェラの方が気持ちいいし楽だけどよォ」 マオは視線を落として接合部を見る。昨晩から挿入されてすっかり広がった皺の縁を撫でる。 こんな面倒な相手、今までならすぐに萎えて捨てて、他の女に乗り換えていた。 けれどシスは違う。拒まれて引き下がれば未練が残るし、可能性が少しでもあるなら土下座してでもヤらせて欲しい。 思春期の中学生か、と自嘲が漏れた。 シスも常に説教臭く、怒ってばかりだが、彼なりにマオの願いを汲む気はあるはずだ。 元々持っていた憧憬なのか、旅の中で生まれた情なのかまでは分からないが、そうでなければ、今この状況にすら辿りつけていない。だが、彼の心を開く「あと一押し」の言葉が、マオには分からなかった。 「肌くっつけてセックスした方がヤったって感じあるし、ちょっとは心も通じ合えてる気がしねえ?」 「こ、心……?」 ここで、シスが新しい反応を見せた。戸惑うように復唱する様子を見て、マオは頷く。 「セックスはどんな会話よりも分かりやすいコミュニケーションだろ。少なくとも俺は、この前のセックスでシスの評価が〈うるさいエロオナホ〉から〈うるさいけど可愛いエロオナホ〉に変わったけど」 「……褒められている気がしないんだが」 そう言われて半眼になるシスは、少しして何度か頷く。 「そうか、円滑なコミュニケーションか」 この時シスは考えていた。 自分本位でまともな会話が成立しないマオでも、性行為の中でならお互いを尊重することが出来るのではないかと。 そして、密接な行為を通して正しい道徳心に導くことも可能なのではないかと。 それが全く無意味であることを、行為に未だ幻想を抱いているこの時の彼は分かっていなかった。 シスは足を動かし、マオの体を挟むと腰をずらして体勢を整える。その表情はとても真面目なものだ。 どうやら、彼の中でようやく納得出来たようだった。 「概ね君の主張は理解できた。それで、僕はどうすればいい?」 「……ムードって言葉知ってるか?」 まるで仕事のような――実際ビジネスとして最初に提案したのだから間違ってはいないのだが――色気とは程遠い空気に、マオは肩を落とした。 それでも、萎えて諦めようという気にはならない自分を褒めてやりたい。 シスは王族のせいか、感覚が普通の人間とはズレている。 生真面目だが、真面目のレールから一本外れた場所を真っ直ぐ進んでいるような実直さがある。 マオは目を細めながらシスを見て、惚れた弱みだと赤みの残る頬を撫であげた。口付けを落とすと、一瞬の躊躇いはあったが、素直に受け止める。 二日前のシスとは変わって初心な反応も悪くない。 マオは唾液を絡ませてシスの乾いた内壁を濡らしながら、ゆっくりと中を擦りあげた。 ずっ、ずるっ、ぬちゅ、ぬちゅ。 「んっ、んっんっ、は、う」 圧迫感にシスが呼吸を整える。その時、不意に柔肉に力が入り、中がうねるようにマオの逸物を扱きあげた。 その感覚に、今まで燻ぶっていた解放感が堰を切ったようにあふれ出してくる。 マオは焦った。 [ ←back|title|next→ ] >> index (C)siwasu 2012.03.21 |