「……まさか、毒が回っていたのか」 「やっぱ頭の回転いいな。そういうとこ好きだぞ」 「……だがマオが看病するなんて、天地がひっくり返ってもあり得ないはずだ。なら最初から交渉の材料として……いや、この男は交渉など関係なく強要してくるようなタイプの人非人だぞ。何か別の目的があるはず……」 頭がいいのも考えものである。 マオは思わず頬を引きつらせた。 勘繰るのも仕方ない。マオは基本的に誰に対しても横暴で身勝手だ。結果的に恩を売った形ならともかく、いちいち恩を売ろうという発想は持たない。 本当ならシスに好意を寄せている、という大きな理由があるのだが、この状況でそれを伝えても信じないどころか余計な疑いを持たれるだけだろう。 マオは仕方なく口の端を持ち上げると、シスの足を掴んで下卑た笑みを浮かべた。 「あのよォ、まずは大好きな勇者サマに対して、感謝を伝えるべきなんじゃねえの? 僕の処女を貰ってくれたばかりか、看病までしてくれてアリガトウゴザイマスーって」 「やはり先日の魔物は嘘だったのか!」 「あんなクソにもならん作り話で騙されるお前も悪い」 「ぐうぅぅぅぅぅ……ッ! ……っ、二度とこのような行為は許さんからな!」 予想通りシスは怒った。当然だろう。 だが、その言葉は裏返せば「今までのことを許す」と言っているようなものだ。 力が出ないのに、這いながらも逃げ出そうとするシスの腰を掴んで、マオは整った顔を近付けた。 「看病の礼は?」 「……一夜の件を不問とする。それが礼の代わりだ」 「お前もノリノリで腰振ってたし、潮までふいてたじゃねえか」 「そ、それは」 行為中の記憶はあるのだろう。苦虫をみ潰したような表情を見せるシスに、マオはゆるゆると腰を動かしながら自身の逸物が萎えぬよう刺激を与える。 中で動くのが気持ち悪いのかもどかしいのか。シスは眉を寄せて吐息を殺したような音をこぼした。 初めての時は、意識も朧気で神経が過敏になっていたので淫らな姿を晒していたが、正気に戻った今はあの時のように快楽に浸ることはない。 どうせならよがり狂う姿が見たいのに。手放す気のない理性に不満を覚えながら、マオは唇を尖らせる。 「お前、口はくそゆるビッチなのに、なぁんでケツはんな頑ななんだよ」 「口淫も不本意だが?」 何を言い出すんだ、と言いたげに頬をひきつらせたシスは、少し考えたあと、真面目に答えた。 「……口ならまだゲテモノだと思えば我慢できるし、うがいをすればすぐに濯げる。だが、下は駄目だ。愛する者以外と繋がるなど、それを生業としている娼夫しか許されない。この国で一般的に不特定多数と身を重ね合うことは、ビジネスを除いて不浄とされている。快楽に堕ち汚れた魂は、天の川を渡ることが出来ず、フィリ様の元へ辿り着けない」 「ほーん、そういう設定なのな」 「設定ではない!」 その話に、シスの態度が宗教上の理由だということを知る。 だったら、とマオは目を細めて笑みを向けた。 「お前の言い分は分かった。なら、俺たちは愛し合ってるから問題ねえよな?」 「…………は?」 冗談混じりではあったが本心を告げたマオに、シスは怪訝な顔色を見せる。 「百歩譲って、僕が貴様に恋慕を寄せているとしても、貴様が僕に想いを寄せているとは思えない」 「……そうだよな、ムカつくけどそうなるよな」 素直になれない自分の態度が原因だとは分かっている。しかし、きっぱりと言い切られてしまうと、それはそれで不愉快だ。 マオは、頭をかきながらシスの足を持ち上げて繋がりを深くした。そして、苦しそうに顔を歪めて開こうとする口を手で制する。 「よし。じゃあ、これは娼夫と同じビジネスだと考えればいい」 「いい加減なことを言っているとそろそろ本気で怒るぞ?」 「まあ、待て。考えてみろよ。そもそも、俺が魔王退治をする報酬の前払いとして、お前は俺のオナホになったわけだろ?」 「オナホでは……いや、いい。概要としては間違っていない」 「お互い利益のためにセックスするなら、それはもうビジネスなんじゃねえの?」 マオの説得に、シスは目を瞬かせたあと首を傾げた。 「た、しかに……? いや、それなら口だけで事足りるはずだ」 一瞬、シスが納得しかけた。マオがそれを見逃すはずはない。 ヤりたい盛りの十代にとって、今後の旅路のためにも重要な交渉だ。魔王退治を盾に取った脅迫の方が手っ取り早いのは分かっているが、これ以上シスに嫌われたくない。 マオはクズなりに、どうにかして本人を丸め込もうと必死だった。 「そうだ。そこで、このステータスを見ろ……あ、これお前のアイテムステータスな」 アイテムになったシスのステータスは、マオの所持品一覧からも見ることが出来る。ただし、本人から見るものとは少し違い、アイテムとしての詳細が表示されているだけだ。 過去にシスはこの画面を覗こうとしたことがあった。しかし見せてもらうことは叶わず、何故このタイミングで……と訝しむ。 だが見ろと言われれば見たいに決まっている。シスは数値を目で追って、その内容に驚いた。 そこには、自分のステータス画面では見ることの出来ない、次のレベルアップやランクアップに必要な経験値、そして過去の獲得経験値が細かに表示されている。 「俺たちがセックスする前と今で、こんなにも経験値が増えている。ちなみに昨日の朝見たらランクアップしてた」 「な、なんだ、この経験値の量は……」 口淫の十倍以上はある獲得経験値に、シスは愕然とする。 それに、BランクからAランクにランクアップするための必要経験値数も、Bランク以下とは段違いだった。 情報として知ってはいたが、いざ細かい数値を目の当たりにすると途方もないことが分かる。何度口淫を続けてもランクが上がらないはずだ。 ちなみに、現在も獲得経験値が緩やかに動いている。マオと繋がったままだからだ。 [ ←back|title|next→ ] >> index (C)siwasu 2012.03.21 |