「合意の上ではない行為は強姦だ。おまけに寝込みを襲うなど、犯罪であることを理解……ん?」 マオは、シスの話など聞いてなかった。 むしろ、どうせ大きくなったし濡れたんだから、一回ぐらいヤりてぇな、とすら考えていた。 しかし、突然説教が中断され、不審に思い顔を覗き込む。 シスは、目の前の広げられた寝袋を見ながら、眉を顰めていた。 「どうした?」 「いや……今、なにか緑色のものが見え……っびょうわっ!?」 マオの行動は早かった。 体を引き寄せ、仰向けに倒して足を肩に乗せると、覆いかぶさるように自身の腕でシスの頭部を覆う。 視線を向ければ、確かにもぞもぞと寝袋が動いていた。 ひょっこり覗かせた爬虫類独特の顔を確認して、マオは内心で叫ぶ。 (どっか行ったんじゃなかったのかよ!) 『いえいえ、まだ話は終わっておりませぬ。伝令役として、ダライアに起こっている異変を魔王様にお伝えするまでは――』 「き、さまぁ……ッ」 「……あ」 昨日現れた七号同様、この蜥蜴も思考で言葉が伝わるらしい。 こちらに近付く様子に焦っていると、下から怒りの混じった荒い息が聞こえてくる。マオは視線をシスに戻して肩を強張らせた。 視界を遮るために自分の体で隠したのはいいが、抜き忘れていた逸物が体勢によりシスの中を奥まで貫いている。 一晩挿入したままだったせいか、下の脳は機能こそしているものの、感覚が麻痺しているようだ。 シスは一晩中マオと繋がっていたことを知らない。そのため、今は寝込みを襲っている最中だと思われている。 「わりぃわりぃ、忘れてた」 「忘れてた!? よくもそんな見え透いた嘘を――」 『聞いてください魔王様。ダライアは今、得体のしれぬ敵によって魔王城を――』 「お前はちょっと黙ってろ!」 噛みついてくるシスと話しかけてくる蜥蜴。マオは思わず蜥蜴の方に向かって怒鳴りつける。 しかし、魔物の存在に気付いていない上、言葉も伝わらないシスは、自分に言われたものだと勘違いして怒りで顔を赤くさせた。 「黙っていろ……だと?」 「ちょっと待て、お前に言ったんじゃ……」 『魔王様、お願いです。どうか話を聞いてください』 (いい加減にしろよ、燃やすぞ) 「僕じゃなかったら誰だと言うのだ!」 『ですが、我らを救えるのは魔王様しか……っ』 「分かった、分かったからあとにしろ! とりあえず今はどっか行っ――ああぁぁぁぁ……」 言いながら、シスと目が合った瞬間、自分の失態に気付いた。 唇は怒りにより戦慄いている。しかし、真横の蜥蜴を隠すように覆いかぶさっているため、体を起こして逃げることも出来ない。 八方塞がりの状況に、マオは誤魔化すようにへらりと笑って言う。 「さっきから、怒ると中がきゅって締まってんだけど……気持ちいいのか?」 「ふぐううううぅぅぅぅぅぅぅ……ッ!」 余計怒らせてしまった。 マオの腕を掴んでいた手が、胸に回って押し離そうとする。 慌てて「あとで話を聞くから」と思考で伝えると、ようやく蜥蜴はテントの向こう側へ姿を消した。それにホッとしながら、先程から感じていた違和感に確信を持ってシスの腕をつかむ。 「なあ、もしかしてお前」 「……う」 ぎくり、とシスは肩を揺らして、掴んできたマオの手を振りほどこうとする。だがその力は弱弱しく、思わずこちらが嘆息してしまうほどだ。 魔術士とは皆、このように精神だけはタフで口がよく回るのか。 シスのような人間が他にもいると考えると、憂鬱な気分になってきて、マオは思わず顔を歪める。 口ぶりだけなら回復したように思えるが、実際のところ体力はまだ戻りきっていない。 怒っているくせに抵抗がないのはそのせいか。マオは納得して上体を起こした。そして、少し柔らかくなった逸物を引き抜こうとして思い留まる。 「……なんかちんこが可哀想に思えてきたな」 「一番可哀想なのは僕だと思うが?」 シスの半眼が顔面に突き刺さる。その呆れた表情を見て、マオは思った。昨日から蜥蜴にちょっかいをかけられたり、プラントーブに食べられそうになったり、毒で死にかけたシスを助けたのは誰なのか。俺だよな、と。 しかし、それを説明してしまうと話がもつれるのは分かっている。そうでなければ恩着せがましくも出来るのだが。 マオは抜きかけた逸物を見下ろした。そして、見えている部分を握り、またシスの中へと戻そうとする。 シスは慌てて上半身を起こすべく腕に力を入れた。だが、その腕はかくりと力を失ったようで、寝袋の上にまた頭を落とす。 「抜けと言ったのに何故戻す!」 「折角入ってるし、起きたんなら一回ぐらいヤってもバチは当たらねえかなって」 「ふざけるのもいい加減にしろッ。それに昨夜の件に関しても、まだ謝罪をもらっていない!」 「昨夜?」 「魔物がいると嘘をついてまで人を辱めたことだ!」 シスの発言に、首を傾げていたマオは大きく頷いた。 「……ああ、それ一昨日の話な」 「なに? ……っひ!」 シスは眉を顰めるも、体勢を整えたマオの刺激で喉を引きつらせる。話している間に、逸物は行為を続けるに十分な硬さを取り戻していた。 お手軽なちんこだよな、と自分の一部に呆れながらも、マオはゆっくりと腰を動かす。 「ま、まだ、話は終わってない……!」 足を腰に絡ませて抵抗を見せるシスが口早に言う。 「俺は終わったと思ってるけど」 「っ、合意のない行為は犯罪だと言っただろう!」 「……」 往生際の悪いシスに半眼を向ける。 この男は、勇者が好きだと言っていた。ならば、勇者だと信じているマオに対しても好感度は高いはずだ。 想像と違ったようで口うるさいが、決して嫌われているわけではないことは、この旅の中で感じ取っている。 マオは大げさに肩を落とすと、長い溜息をついてシスをちらりと盗み見た。 「はぁ。丸一日熱で死んでたお前を看病したのに、犯罪者扱いされるなんてなぁ……はぁ」 そう言って、また長い溜息を落とす。 その言葉を聞いて、シスは口元に手を置くと、状況を忘れて思考を回した。抜けているところもあるが、頭のいい彼のことだ。 ヒントさえ与えれば、何があったか彼自身が考えて結論を出すだろう。 自分で説明するよりも、そっちの方がぼろを出さずに済む。 [ ←back|title|next→ ] >> index (C)siwasu 2012.03.21 |